アルフ鉱山
全て私の妄想の話です
冒険者ギルドへ行くと、ギルド長のギーファが待ちかねていた。
「では、奥の部屋へどうぞ」
手招きされ、闇王は奥の部屋へ入る。
そしてお気に入りのソファへ腰を下ろした。
やはりこのソファは最高だった。
闇王はふかふか感を確かめるように、腰を浮かせては座り直す。
何度もそれを繰り返していると――
「コホンッ」
ギーファが咳払いをした。
闇王は名残惜しそうに動きを止めた。
「カンナミ森の件はありがとうございました」
「それはもう終わったことだろう。なぜ呼んだのだ?」
「SSSランクのプレートが完成したので、まずはこちらをお渡しします」
そう言ってギーファはテーブルへ一枚のプレートを置いた。
SSSランクのプレートはプラチナ製だった。
Fランクのプレートとは比べ物にならないほど輝いている。
闇王は受け取ると、首から下げていたFランクのプレートを外し、新しいSSSランクのプレートへ付け替えた。
「それで、今回もあなたに依頼したいことがあります」
やっぱりか。
闇王は心の中でため息をついた。
「カンナミ森にあるアルフ鉱山の内部に、ゴースト系の魔物がいることが判明しました。ゴースト系は呪いを使います。この前のグレートキングオーガ戦でファズンが効かなかったお使え様なら簡単ですよね?」
ギーファは涼しい顔で言った。
「ゴースト系とは戦ったことがないのだ」
「巨人を倒したお方が何をおっしゃいますか」
「魔物辞典によると通常攻撃は効かないのだ」
「聞きましたよ。ヴァッハさんから魔導グレートソードを作ってもらったそうじゃないですか。それがあれば楽勝です」
ならお前がやれ。
闇王はそう思った。
だが――
「もちろん報酬は弾みますよ」
ギーファは眼鏡を押し上げた。
そのレンズが怪しく光る。
闇王の弱点を完全に理解していた。
「……わかったのだ」
結局、闇王は断れなかった。
「では、明日向かってください」
その夜。
酒場のテーブルには大量の料理が並んでいた。
山盛りの肉料理。
揚げ物。
焼き飯。
闇王はスプーンとフォークを使い、次々と口へ放り込んでいく。
周囲の客たちは驚いた表情で見守っていた。
やがて満腹になると宿屋へ戻り、ぐっすりと眠った。
翌日。
カンナミ森では木々が静かに風に揺れ、鳥たちのさえずりが響いていた。
闇王は森のさらに奥へと進む。
やがて大きな看板が見えてきた。
――アルフ鉱山。
入口へ足を踏み入れると、すぐに魔物が現れた。
半透明の人影。
白くぼやけた身体。
光る目。
姿が消えたり現れたりを繰り返している。
魔物辞典によればランクD、セラドックゴースト。
そして、
「マボッ……マボッ……」
低い声で何かを呟いていた。
おそらく呪いの呪文なのだろう。
だが闇王にはまったく効かなかった。
呪いが効かない以上、相手はただの的だった。
姿を現した瞬間に斬る。
また現れたら斬る。
それを繰り返すだけだった。
しばらく進むと、武器を持ったセラドックゴーストも現れ始めた。
だが結果は変わらない。
次々と斬り倒していく。
すると突然――
背後に気配が現れた。
ホワッ――。
闇王は即座に振り返る。
グレートソードを一閃。
キィンッ!
ゴーストの持っていた槍が折れ、そのまま本体も斬り裂かれた。
それ以降、背後を狙うゴーストが増えてきた。
だが闇王には関係ない。
気配を察知し、相手が動く前に動く。
ズバッ!
ズバッ!
周囲のセラドックゴーストを次々と消し去っていった。
さらに奥へ進むと、三方向へ分かれた道へたどり着く。
闇王は右から順番に攻略することにした。
まずは右の通路。
進んだ先には広い空間があった。
そこに現れたのは、巨大な岩の魔物。
魔物辞典によればランクCのゴーレムだ。
ゴーレムは巨大な腕を振り上げ、叩きつけてくる。
闇王はその腕へ飛び乗った。
腕の上を駆け上がり、肩まで到達する。
そして付け根から跳躍。
顔面へ向かってグレートソードを振り下ろした。
するとゴーレムは光を放ちながら崩れ去った。
闇王は分かれ道へ戻る。
次は中央の通路だ。
進むと腐敗した人間のような魔物が現れた。
魔物辞典によればランクDのゾンビ。
倒しても倒しても現れる。
闇王はそれらを斬り伏せながら進んでいった。
やがて突き当たりへ到着する。
そこには黒い立派な鎧を身にまとい、大槍を携えた巨大なゾンビが立っていた。
魔物辞典によればランクB、プリズンゾンビ。
ゾンビはゆっくりと槍を振るう。
闇王は地面すれすれまでしゃがんで回避した。
そのまま懐へ飛び込む。
ズバッ!
しかし――
キィンッ!
鎧が硬すぎる。
黒曜石でできた鎧は簡単には壊れなかった。
一撃では倒せない。
キィンッ!
キィンッ!
キィンッ!
何度も同じ場所を斬り続ける。
そして――
バリィッ!
ついに鎧が砕けた。
その瞬間を逃さず、
ズバッ!
割れた部分へ剣を叩き込み、ようやくプリズンゾンビを倒した。
再び分かれ道へ戻る。
残るは左の通路だけだった。
進むにつれ、壁の幅が徐々に狭くなっていく。
しかし魔物は現れない。
さらに進む。
ますます狭くなる。
それでも何も出てこない。
やがて行き止まりへ到着した。
壁幅は闇王一人が通れる程度。
そして壁一面が真っ黒だった。
最初はただの黒い岩に見えた。
だが、よく見ると違った。
黒い壁だと思っていたものが――
全部動いている。
無数の虫だった。
闇王の背筋が凍った。
冷や汗が滝のように流れる。
「虫ぃぃぃぃぃっ!!」
闇王は全力で駆け出した。
一瞬で鉱山の入口まで逃げる。
そして身体中を確認した。
虫が付いていないか何度も何度も確かめる。
ようやく安心すると、そのまま冒険者ギルドへ向かった。
「ギーファ、魔物はやっつけたのだ。だが、いたのはゴーストだけではなかったぞ」
「ありがとうございます! これで鉱山を完全に復旧できます!」
そして大きな報酬袋を机へ置く。
ジャラッ――。
重そうな音が響いた。
「こちらが今回の報酬です」
だが闇王は中身を確認しなかった。
袋をそのまま腰へ付ける。
そして即座にギルドを飛び出した。
向かう先は宿屋。
部屋へ戻ると、すぐに鎧を脱ぐ。
そして念入りに洗い始めた。
虫が付いていたら大変だからだ。
磨いては確認し、
磨いては確認する。
その日、闇王はランクBの魔物と戦った時よりも真剣な顔で鎧を磨くのだった。




