バレッドドラゴン
全て私の妄想の話です
冬も終わりに近づいたある夜のことだった。
「シャオォーンッ! シャオォーンッ!」
悲痛な叫び声が、ヴァロック山脈の頂から街へと響き渡った。
その頃、闇王は酒場で食事をしていた。
テーブルの上には焼き飯、巨大な骨付き肉、山盛りの唐揚げが並び、闇王は夢中で食べている。
そこへ、扉が勢いよく開いた。
「サーシャさん!」
ギーファがボサボサになった髪を振り乱しながら飛び込んできた。
息を切らし、顔は真っ青だ。
「サーシャさん! 大変なことが起こりました!」
しかし闇王は食べる手を止めない。
「食べながら聞くのだ」
「山頂に住むバレッドドラゴンが、魔物に襲われています!」
闇王は骨付き肉をかじりながら首を傾げた。
「それがなんか問題なのだ? 倒されれば山を越えやすくなるんじゃないか?」
「違います!」
「バレッドドラゴンは希少種です! 人を襲わない、とても大人しいドラゴンなんです!」
そして続ける。
「しかも冬になると、山の向こうから強力な魔物が現れます。バレッドドラゴンは、その侵入を防いでくれていたんです!」
「ほう」
「襲っているのはランクAのドラゴンナイトです。倒せるのは、SSSのあなたしかいません!」
そう言ってギーファは緑色の液体が入った小瓶を差し出した。
「これは傷薬です。バレッドドラゴンを見つけたら使ってください。傷がすぐに治ります!」
闇王は口いっぱいの料理を飲み込む。
「わかったのだ」
「では今すぐお願いします!」
⸻
闇王は急いでヴァロック山脈へ向かった。
山は雪に覆われ、月明かりを受けて白く輝いている。
山道を進むにつれ、雪と風はどんどん強くなっていった。
やがて前方に犬のような魔物の群れが現れる。
魔物辞典によればランクC、
コールオオカミ。
魔物たちは口を開き、一斉に吹雪を吐き出した。
凄まじい風圧だ。
「寒いのだ……」
前に進むだけでも一苦労だった。
だが吹雪を吐いていない個体が突進してくる。
闇王はグレートソードを構えた。
「来たのだ」
一閃。
コールオオカミは真っ二つになり光り輝ききえた。
次々と襲いかかる群れを切り伏せ、ついに最後の一体を倒す。
吹雪が止み、道が開けた。
「ランクCでも油断ならないのだ」
そう呟き、再び山頂を目指した。
⸻
さらに登ると、今度は巨大な魔物が現れた。
白銀の毛皮。
鋭い爪。
額には大きな一つ目。
ランクB、
雪男だ。
雪男は大きく息を吸い込み、猛烈な吹雪を吐き出した。
「また吹雪なのだ……」
しかも今度は吹雪を吐きながら突進してくる。
巨大な拳が振り下ろされた。
ガキィン!
闇王はグレートソードで受け止める。
そのまま斬りつけるが、吹雪で動きが鈍り、雪男は跳躍してかわした。
再び拳が迫る。
その瞬間。
「消えるのだ」
闇王のグレートソードが閃いた。
右腕が光り輝いた
続く二撃目。
雪男の体が真っ二つになり消えていった
⸻
さらに登り続け、ついに山頂へ辿り着いた。
そこで見た光景に、闇王は目を見開く。
小型の飛竜に乗ったドラゴンナイトが上空を旋回していた。
その槍が、巨大な白いドラゴンへ突き刺さる。
「シャオォーンッ!」
白いドラゴンが悲鳴を上げる。
頭を翼で隠して丸まっている。
翼は血に染まっていた。
「あれがバレッドドラゴンなのだ」
闇王は駆け寄る。
しかしドラゴンナイトは空高く飛び上がり、近づけない。
闇王は急いで傷薬を取り出した。
そしてバレッドドラゴンの翼へ振りかける。
傷がみるみる塞がっていく。
「シャオーン!」
弱々しかった声が力強く変わった。
闇王は優しく頭を撫でる。
「もう大丈夫だ」
⸻
その時。
ドラゴンナイトが炎を吐いた。
闇王はグレートソードを盾代わりにして受け止める。
しかし敵は上空から攻撃するばかりで降りてこない。
すると突然、
バレッドドラゴンは闇王に背中を向けた。
「シャオーン!」
「もしかして乗れということなのか?」
「シャオーン!」
元気よく返事をする。
「わかったのだ!」
炎が止んだ瞬間、闇王はドラゴンの背に飛び乗った。
バレッドドラゴンは大きく翼を広げる。
そして――
夜空へ舞い上がった。
⸻
地上が遠ざかっていく。
雲を突き抜けるほどの高さだ。
ドラゴンナイトが再び炎を吐く。
闇王はグレートソードで防ぎながら距離を詰める。
そして。
「今なのだ!」
バレッドドラゴンが体当たりを仕掛けた。
その瞬間、闇王は飛び移る。
敵のドラゴンへ着地し、
グレートソードを突き刺した。
閃光。
飛竜は光となって消滅する。
ドラゴンナイトは悲鳴を上げながら落下した。
しかし闇王もまた空中へ投げ出される。
真っ逆さまだ。
その時。
バレッドドラゴンが急降下した。
巨大な背中で闇王を受け止める。
そしてドラゴンナイトは雪山の彼方へ消えていった。
⸻
地上へ降り立つと、
バレッドドラゴンは闇王に頬を擦り寄せた。
「シャオーン」
闇王は頭を撫でる。
バレッドドラゴンは嬉しそうに目を細めた。
⸻
街へ戻ると、
すでに噂は広がっていた。
門の前には大勢の人々が集まっている。
「お使い様だ!」
「助かった!」
「ありがとう!」
感謝の声が次々と飛び交う。
子供たちは目を輝かせ、
大人たちは深々と頭を下げた。
「別に大したことじゃない」
しかし歓声は止まらない。
夜空には祝福の声が響き続けた。
その日、サーシャの名は、ヴァロック山脈を救った英雄としてさらに広く語り継がれることになった。




