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闇王日記 〜闇の神様、人間の幼児になって無双する〜  作者: S


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6/16

3歳

全て私の妄想の話です

カコーン、カコーン、カコーン――。


 森の中に、斧で木を打つ乾いた音が響き渡る。


 やがて、


 ズサァァッ――ドゴォンッ!!


 轟音とともに、巨大な巨木が地面へと倒れ込んだ。


 その木を倒したのは、一人の幼い少女だった。


 少女は、自分の身長よりもはるかに大きな斧を片手で軽々と持っている。さらに、普通なら大人数で運ぶような巨木を、まるで小枝でも持ち上げるかのように片手で担ぎ上げた。


 そして何事もないように歩き出す。


 この少女こそ、闇王――サーシャだった。


 闇王は歩けるようになってからというもの、毎日のように森で働くムスファのもとへ通っていた。


 木を切る姿を見て真似をし、最初は細い木から始めた。そして今では、数十人がかりで倒すような巨木すら一人で切り倒せるようになっていたのである。


「すごーい!」


 目を輝かせながら声を上げたのはセフィーロだった。


 三年が経ち、セフィーロは七歳になっていた。


 しかし見た目が変わったのは彼だけではない。


 闇王もまた成長し、今ではセフィーロと同じくらいの背丈になっていた。


「いつものことだ」


 闇王は当然のように答える。


「でも今日の木、一番太かったよ」


「そうか」


 やはり当たり前のように返した。


 二人は木場へ向かう。


 そこは隣町のアムニアルにあった。


 ドレーク村から子供の足で一時間ほどの距離だ。


 アムニアルは藁葺きの家ばかりの村とは違い、木造の建物が立ち並ぶ活気ある町だった。


「今日はずいぶん大物だな」


 木場の責任者アントニーが感心したように言った。


「そうか」


 闇王はいつもの調子で答える。


「いつものだ」


「ああ、分かってる。今日は大物だから400リタだ」


 アントニーは銀貨を差し出した。


 ドレーク村周辺の木材は質が高く、高値で取引される。そのため男衆は毎日のように森へ入り木を切っていた。


 闇王は銀貨を受け取ると、腰につけた小袋へしまった。


「商店街へ行こう」


「うん!」


 二人は市場へ向かう。


 そこには小さな露店がずらりと並び、果物や野菜、魚などが所狭しと並べられていた。


 買い物客で賑わう中、闇王は一つの店の前で立ち止まる。


「おじさん、これを二つくれ」


 指差したのは、赤く丸いトゲトゲした果実だった。


「二つで260ラタだ」


 闇王は銅貨を支払う。


 果実を受け取ると、そのうち一つをセフィーロへ差し出した。


「ありがとう!」


 二人は並んで歩きながら果実をかじる。


 甘い果汁が口いっぱいに広がり、闇王は満足そうにほうばった


 その時だった。


「無魔だ!」


「この町から出ていけ!」


 町の子供たちが石を投げてきた。


 闇王は黙って石を受ける。


 するとセフィーロが前へ飛び出した。


「サーシャに何するんだ! サーシャはアルミス様のお使え様だぞ!」


「無魔がお使え様になれるわけないだろ!」


 石はセフィーロにも当たる。


 それでも彼は闇王を庇った。


 そんな姿を見た闇王は、石を投げた子供たちをじっと睨みつけた。


「ひぃっ!」


 子供たちは悲鳴を上げて逃げていく。


「すまないな」


「男だからね!」


 セフィーロは胸を張った。


「でも何でやり返さないの? サーシャ、すごく強いのに」


「アニシナから子供に手を出すなと言われている」


「でもサーシャも子供だよ?」


「力は大人より強いがな」


「それはそうだね」


 二人は笑った。


「それより防具屋へ行くぞ」


「うん!」


 セフィーロの目が輝く。


 二人は防具屋へ向かった。


 店内には宝石のはめ込まれた鎧や武器が並び、豪華な装飾品が煌めいていた。


 セフィーロは目を輝かせながら見回している。


 思わず自分より大きなロングソードに手を伸ばした瞬間、


「それはおもちゃじゃない!」


 店主の怒鳴り声が飛んだ。


 驚いたセフィーロは武器を倒してしまう。


「ご、ごめんなさい……」


 店主がため息をつきながら剣を拾い上げた。


 その時、セフィーロの後ろに立つサーシャの姿が目に入る。


 真紅の巨大なグレートソードを片手で持っていた。


「それを持てるのか!? しかも片手で!?」


「軽いぞ」


 闇王は店の中で剣を振り回した。


「店の中で振るな!」


 店主は慌てて止める。


「これ、いくらだ?」


「2500リタだが……子供が買える額じゃないぞ」


「持っている」


 闇王は本当に2500リタを取り出した。


 店主は目を丸くする。


「なぜ子供がそんな大金を……」


「ドレーク村で木を切って稼いだ」


 納得しかけた店主だったが、ふと気付く。


「もしかしてドレーク村で生まれたというアルミス様のお使え様か!?」


「らしいな」


「ならぜひ売らせてくれ! 鎧も見ていけ! 子供用なら無料でいい!」


「いいのか?」


「大人に二言はない!」


 闇王は鎧を見て回り、一番奥に飾られた白い鎧を選んだ。


 胸には真紅の宝石が埋め込まれ、黒いマントがついている。


「これがいい」


「見る目もあるな!」


 闇王はその場で着替えた。


「似合うよ!」


 セフィーロが嬉しそうに言う。


「そうか」


 満足した二人は店を後にした。


 帰り道。


「その剣、何に使うの?」


「木を切るのに便利そうだ」


「木を切るためだったんだ……」


 セフィーロは呆れながらも感心した。


 そしてドレーク村へ戻る。


「その剣はどうした!? その鎧も!」


 ムスファが驚く。


「剣は買った。鎧はもらった」


「何のために剣を買った?」


「木を切るためだ」


 闇王は当然のように答えた。


 ムスファは大笑いする。


 だが次の言葉で表情を改めた。


「ムスファ、聞きたいことがある」


「なんだ?」


「無魔とは何なのだ? それと、お使え様とは」


 ムスファの笑顔が消える。


「話す時が来たか」


 そして闇王を連れてアガツマの屋敷へ向かった。


 話を聞いたアガツマは静かに頷く。


「ようやく話す時が来たな」


 そう言って伝承を語り始めた「伝承を話す時が来た。無魔ととは闇の魔獣のことだ。闇の魔獣は闇からやってくる。その闇は、そこら一体を闇に包み、命あるものを連れ去るのだ!連れ去られたら一貫の終わり、闇色に染められ動きを止めるのだ!そうなっては魔獣の餌となる。それに対抗できるのは光の賢者とお使い様だけ。光の賢者様はアルミス様だ。そしてお使い様は強気ものだ!その強さは人並外れたものだ!サーシャよ、お前は生まれてすぐから、その並外れた成長は著しい者だ!お前こそがお使え様なのだ!明日賢者様がおられるリダ王国へ行ってもらうリダの国王様こそ、アルミス様だ!とにかく北へ進んで行くんだ!アルミス様へは手紙を書く。しっかり働くんだ」


 その日の夜。


 アニシナは涙を流していた。


「どうして明日なの……まだ三歳なのよ……」


 闇王はアニシナに抱きつく。


「こうするのが好きなのだろう。絶対に帰ってくる。だから嘘の笑顔はやめい」


 アニシナの目から涙があふれた。


「絶対に帰ってくるのよ」


「ああ」


 翌朝。


 別れの挨拶を終え、家族とともに村の外れまでやって来た。


「ここから先は魔物が出るわ」


「魔物?」


 闇王は思わず笑みを浮かべた。


 かつて自分が名付けた存在たち。


 どんな姿になっているのか興味が湧く。


「これを持っていきなさい」


 アガツマから古びた本を渡される。その本にはチェーンがついていて腰につけられそうだった。


「魔物辞典だ。ありとあらゆる魔物の情報が載っている」


 闇王はぱらぱらとめくった。


「全然黒くないのう」


「黒いのは魔獣だろう」


「そうだった」


 そして闇王は背を向ける。


「そろそろ行く」


「無理だと思ったら帰ってくるのよ!」


 アニシナの声を背中に受けながら、闇王は走り出した。


 しばらくして振り返る。


 遠く、小さくなった両親の姿が見えた。


 アニシナはムスファの胸に顔を埋め、涙を流していた。


 闇王はしばらくその光景を見つめる。


 そして再び前を向いた。


 こうして闇王――サーシャの、本当の旅が始まったのである。

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