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闇王日記 〜闇の神様、人間の幼児になって無双する〜  作者: S


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3/15

誕生

これは全て私の妄想の話です


暗い。


なぜ暗いのだ!?


光の世界もまた黒に染まっているというのか!?


そんな馬鹿な!


では、あの光は何だったというのだ。


確かに私は魂の中へ入り込んだはずだ。


なのに身動きが取れない。


……そうか。


まだ魂が馴染んでいないのかもしれぬ。


ならば馴染むまで眠るとしよう。


そうして私は再び眠りについた。


しばらくして、魂がようやく馴染んだ頃だった。


ゴボッ。


ゴボボッ。


苦しい!


苦しい、苦しい、苦しい!


なぜだ!?


魂は馴染んだはずなのに、なぜこんなにも苦しいのだ!?


私は必死にもがいた。


だが苦しさは消えない。


どうなっている!?


もうこんな場所は嫌だ!


そう思った時だった。


周囲が少しずつ明るくなっていく。


光だ!


ようやく光が見えた!


「出たぞ! 女の子だ!」


「黒よ……なんで……」


女たちの声が聞こえる。


何を言っているのかは分からないが、驚いているらしい。


その時だった。


パシン!


パシン!


突然、身体に激痛が走った。


痛い!


痛いぞ!


「んぎゃあああ! んぎゃあああ!」


気づけば私の口から大きな声が出ていた。


しかも目から何かが流れ落ちてくる。


なんだこれは!?


「初めての子だ。抱いておやり」


「ありがとうございます。アガツマ様」


すると、一人の女が私を抱き上げた。


優しく胸に抱き寄せる。


さらに頬をすり寄せながら涙を流した。


「ありがとう……」


女は震える声で言った。


「私のところへ来てくれて」


その時、藁でできた扉が勢いよく開いた。


「生まれたか!」


大柄な男が飛び込んでくる。


ドタドタと駆け寄ると、女を強く抱きしめた。


「やったなぁ、アニシナ! ようやくだ! ようやくだぞ!」


男の目には涙が浮かんでいた。


「生まれないはずだった子が、俺たちの前に来てくれたんだ! たとえ無魔の子だって、俺たちの子に違いない!」


「ムスファ、痛いわ! この子も苦しいって!」


「あっ、すまない!」


慌てて力を緩める。


挿絵(By みてみん)

「黒髪黒目は不吉よ。本当に大丈夫なの?」


別の女――ハナが心配そうに言った。


「生まれないとアガツマ様に予言されていた子なのよ。それでも私たちのところへ来てくれたんだもの」


アニシナは私を優しく見つめた。


「大切な私たちの子よ」


「そうだな」


ムスファは大きく頷いた。


「名前を付けよう」


名前?


なんだそれは。


「俺たちに幸せを運んできてくれた子だ」


ムスファは少し考え、


「幸せの意味を込めて――サーシャだ」


そう言った。


「サーシャ……いい名前ね」


アニシナは微笑んだ。


「今日からあなたはサーシャよ。よろしくね」


そして私の額へそっと口づけをした。


何をする!


くすぐったいではないか!


「セフィーロ、入ってきて」


「なに、ママ?」


小さな少年が部屋へ入ってきた。


「この子がアニシナの赤ちゃんよ」


少年は私をじっと見つめた。


しばらく黙った後、


「黒髪黒目」


と呟く。


「セフィーロ!」


「目つきが悪い」


「セフィーロ!」


「ご、ごめん!」


少年は慌てて頭を下げた。


「でも、俺が守るから!」


ふん。


悪くない。


私はこの者たちの名前を覚えた。


アニシナ。


ムスファ。


ハナ。


アガツマ。


セフィーロ。


どうやら私は人間になったらしい。


こうして闇王の新たな生活が始まった。


翌日。


私は自分の腕を見つめていた。


細い。


あまりにも細い。


試しに腕を上げてみる。


遅い。


思うように動かない。


なぜだ!?


もしかして――


私はとてつもなくか弱くなっているのではないか!?


闇の世界で恐れられていたこの私が!?


私は慌てて手足をばたつかせた。


とにかく動かなければ。


もっとだ!


もっと!


ジタバタジタバタ!


その時だった。


「サーシャ、遊びに――」


セフィーロが部屋へ入ってくる。


そして固まった。


「おじさん! おばさん!」


慌てて駆け出していく。


やがてアニシナとムスファがやって来た。


二人は目を丸くした。


私は高速で転がっていた。


くるくるくるくる。


部屋中を回っている。


視界も回る。


うっ。


少し気持ち悪い。


「すごいぞ!」


「すごいわ!」


ムスファは私を抱き上げた。


そして頬ずりしてくる。


やめろ!


顔を近づけるな!


「あー!」


私は顔を押し返した。


するとムスファは大喜びする。


「力が強いぞ!」


私は不機嫌そうに睨んだ。


「やっぱりこの子はアルミス様のお使え様かもしれん!」


「またそんなことを……」


アニシナは呆れた。


だがムスファは真剣だった。


「昨日生まれたばかりなのに転がり回るんだぞ! しかも力も強い!」


アルミス?


賢者?


お使え様?


聞いたことのない言葉ばかりだ。


だが今はそれどころではない。


私は立たねばならぬ。


あの大人たちのように動けるようにならねば。


その時。


昨日も感じた不快感が襲ってきた。


なんだ、この感覚は!?


苦しい!


嫌だ!


「んぎゃあああ!」


気づけば泣いていた。


するとアニシナが私を抱き上げる。


「あら、お腹が空いたのね」


そう言って胸元を開いた。


何をする気だ!?


そして次の瞬間。


私の口へ無理やり乳房を押し込んだ。


やめろ!


私は必死に抵抗した。


だが母乳が口の中へ流れ込んでくる。


げほっ。


げほっ。


吐き出そうとする。


しかし次々に流れ込んでくる。


仕方なく一口飲んだ。


――その瞬間だった。


衝撃が走った。


なんだこれは!?


言葉にできない。


だが、とてつもなく心地良い。


気づけば夢中で飲んでいた。


ごくごく。


ごくごく。


飲むたびに身体が満たされていく。


そしていつの間にか、不快感は完全に消えていた。


翌日。


私は一つの事実に気づいた。


あの不快感の後に母乳を飲むと、素晴らしい感覚が訪れる。


だが何度も襲ってくる不快感にはうんざりしていた。


一体これは何なのだ。


そう考えながら、私は立つ方法を模索していた。


その時、ある存在を思い出す。


六本足で、触角と牙を持った気色の悪い生き物。


あいつは腹を地面につけて動いていた。


私は真似してみた。


うつ伏せになり、腕と足に力を入れる。


すると身体が浮いた。


さらに手足を交互に動かしてみる。


進んだ。


動ける!


私はハイハイを覚えた。


だが足りない。


これでは両手が使えない。


何かが違う。


そうだ。


支えが必要なのだ。


何か掴めるものはないか。


その時だった。


「サーシャ、遊びに――」


再びセフィーロが入ってくる。


そして絶叫した。


「おじさん! おばさん! 早く来てー!」


駆け付けた二人は絶句した。


闇王は家中を高速でハイハイしていた。


「まだ生まれたばかりよ……」


アニシナは震えていた。


ムスファは目を輝かせる。


「やっぱりアルミス様のお仕え様だ!」


そう言うと両手を差し出した。


なるほど。


支えになる気か。


褒めてやろう。


私はムスファの手を掴んだ。


そして足へ力を込める。


ぐっ。


身体が持ち上がる。


立った。


立てた!


「立ったぞ!」


ムスファは大喜びした。


そのまま私を抱き上げて振り回す。


なにをする!


当然、私は頬をぺしぺし叩いた。


だがムスファは笑うばかりだった。


「やっぱりこの子は特別な子だ!」


アニシナも目の前の光景を受け入れ始めていた。


生まれたばかりの赤子が立つ。


ありえない出来事だった。


明日は何が起こるのだろう。


そんな期待と不安を胸に抱きながら、家族は新しい一日を迎えるのだった。

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