異変
これは全て私の妄想の話しです
私は闇。
私の世界は実に退屈だ。
退屈極まりない。
私はこの世界全体を感知することができる。だが、この世界には何もない。
どこまで見渡しても、ただひたすら黒い。
私の色だけが果てしなく続いている。
つまらぬ。
かつて光と共にいた頃が懐かしい。
あやつは今頃どうしているのだろうか。
……眠るとしよう。
眠れば、この退屈さも少しは紛れるだろう。
⸻
どれほど眠ったのかは分からない。
目覚めた時、異変が起きていた。
光のオーラが強くなったり弱くなったりを繰り返していたのだ。
そして、光が強まった瞬間――
遥か彼方から、一筋の光が飛んできた。
まるで流れ星のように、光の粒が闇の中を駆け抜けていく。
何のつもりだ?
なぜそんなものを飛ばしている?
光の考えることはよく分からぬ。
まあ、私には関係のないことだ。
馬鹿馬鹿しい。
また眠るとしよう。
だが、その光の粒は何度も何度も飛来した。
私が目覚めるたびに同じ光景が繰り返される。
やがて私は、その光景に慣れていった。
⸻
それが何度目の目覚めだったのか。
ずっと遠く。
本当にずっと遠くの方で、何かの気配を感じた。
――何?
そんなはずはない。
この世界には何もいなかったはずだ。
光の世界から飛んでくる粒はあった。
だが、気配など存在しなかった。
存在しなかったのだ。
気になった私は、その方向へ意識を向けた。
すると――いた。
何かがいた。
黒く、半透明な何か。
それがふわふわと漂っている。
しかも一つではない。
複数いた。
あちらこちらを飛び回り、互いにぶつかっては一つになり、またぶつかっては大きくなっていく。
とはいえ、私に比べればあまりにも小さい。
弱々しい存在だった。
つまらぬ。
寝る。
私は再び眠りについた。
⸻
どれほどの時が流れたのか。
今度はカサコソという音で目を覚ました。
また何か現れたのか。
そう思い、音のする方へ意識を向ける。
そこにいたのは、黒い六本足の生き物だった。
前方には触角があり、口には牙がある。
長い列を作って歩くもの。
一か所に群がり、小山のようになっているもの。
その姿は実に気味が悪い。
弱々しく、見ていて面白くもない。
寝よう。
私はまた眠った。
⸻
次に目を覚ましたのは、ドスンドスンという大きな音のせいだった。
今度のやつは大きかった。
全身は黒く、大きな顔に鋭い目。
口を開けば無数の牙が並んでいる。
腕は短く、太く長い尾を持っていた。
「ギャオオオオ!」
そう鳴きながら歩き回っている。
個体によって強さが違うらしく、強いものは弱いものを食らっていた。
だが――
大きいだけだ。
私に比べれば弱い。
つまらぬ。
寝る。
そうして私は再び眠りについた。
⸻
今度は深い眠りだった。
ずいぶん長い時間が過ぎたようだ。
ズシン。
ズシン。
ズドン。
コツン。
コツン。
「ズオオオ!」
「ワオオオオーン!」
「ギャオオオ!」
様々な鳴き声と足音が世界中に響いていた。
目覚めた私は世界全体へ意識を広げた。
すると驚いた。
いつの間にか、この世界には無数の生き物が存在していたのだ。
しかも種類も様々だった。
以前は同じ種族同士で争っていた。
だが今は違う。
強い者が、弱い別種の者を襲っている。
中にはなかなか見どころのある強者もいた。
だが――
誰一人として私には近づいてこない。
私を恐れている。
それが分かった。
強い者も、弱い者も。
誰も彼もが私を避けている。
なぜだ?
近づいてくればよいではないか。
強い者もいるのに、なぜ来ない?
私はしばらく観察を続けた。
そして気づく。
力だけが強さではないのだと。
弱くても、自ら放つ闇のオーラによって相手を怯ませ、勝利している者がいる。
なるほど。
そういうことか。
この世界で最も強大な闇のオーラを放っているのは私だ。
こやつらは、それを恐れているのだろう。
力では私より上の者もいるというのに、オーラに怯えるとは情けない。
私は思わず笑った。
そして、この者たちに名前を与えることにした。
【魔物】
それがこやつらの名だ。
⸻
だが、異変は魔物だけではなかった。
闇の世界の一角に、巨大な光が生まれていたのだ。
まるで小さな太陽のように輝いている。
その光からは、あの光の粒と同じ気配が感じられた。
そして光の中心には、大きな球体が浮かんでいる。
その中からは無数の魂の気配がした。
何だ、これは?
私は戸惑った。
しかし同時に、胸が高鳴る。
ふふふ……。
面白い。
やられたぞ、光。
相変わらず抜け目のない奴だ。
あの光の粒は、これを生み出すためのものだったのか。
考えてみれば当然だ。
私の世界に勝手に命が生まれるはずがない。
魔物も、この光の粒の影響なのだろう。
命を生み出すとは。
実に興味深い力だ。
だが、それ以上に気になるものがある。
私の世界に現れた、この光の世界だ。
中はどうなっている?
何が存在している?
見えない。
魂の気配だけが伝わってくる。
これは調べる必要があるな。
私は一つの魂に座標を定めた。
そして、自らの魂の欠片と意識をそこへ送り込む。
こうして後に【闇王】と呼ばれる存在は、初めて光の世界へ干渉するのだった。




