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影の庭園  作者: 最後に残った形


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# 第39話:夜空の解放、深まる絆の翼


奪取した『影』の輸送ヘリは、夜の闇を切り裂いて北へと向かっていた。コックピットでは、真琴が操縦桿を握り、計器類から目を離さずに集中している。その横で、由紀がタブレットを操作し、モニターに映し出されるレーダーと通信状況を分析していた。後部座席に身を沈めていた蒼真は、二人を見守りながら、わずかに開いた窓から吹き込む冷たい夜風に、肌を撫でられていた。


眼下に広がるのは、遠ざかる東京のきらめく光。まるで地上の星々が、手の届かない場所で輝いているかのようだ。その景色は、彼らが足元に置いてきた世界の象徴であり、同時に、そこから決別した自分たちの新たな道の始まりを告げているようにも感じられた。ヘリの振動とエンジンの轟音が、彼の耳に絶え間なく響く。それは、追われる者としての現実であり、彼らの旅がまだ終わっていないことの証でもあった。


「蒼真、休んでいていいわ。さっきの戦闘でかなり消耗したでしょう?」

由紀が振り返り、心配そうな眼差しを向けた。その声には疲労の色が滲んでいるが、彼女の瞳の奥には、変わらぬ強い意志の光が宿っていた。蒼真は小さく首を振る。

「大丈夫だ。それよりも、追撃はまだ続いているのか?」

「ええ。かなりしつこい。真琴の妨害ハッキングで一時的に混乱はさせられたけれど、向こうもSランク能力者を追っているだけあって、引き際を知らないわね」

由紀の言葉に、真琴が眉をひそめながら応じる。

「向こうのヘリ部隊、明らかに動きがパターン化してる。リーダー格が指示を出して、残り二機がそれを忠実に実行してる感じ。まるで、機械みたいにね……」

真琴の声には、複雑な感情が混じっていた。彼女自身、『影』に無自覚に操られていた過去がある。その経験があるからこそ、敵の動きに機械的な冷徹さを見出すことに、一種の嫌悪感を抱いているのかもしれない。蒼真は、そんな真琴の心情を察し、何も言わずに彼女の背中を見つめた。


突然、由紀のタブレットから警告音が鳴り響く。

「っ! 後方から急速接近! 今度は戦闘ヘリが一機、それに偵察ドローンが複数!」

「ちっ、しつこいにも程がある! 真琴、回避行動を!」

蒼真が叫ぶと同時に、真琴が操縦桿を激しく切り、ヘリは左へと急旋回した。機体が大きく傾き、三人の身体がシートに押し付けられる。窓の外を、赤く光る曳光弾がいくつも通り過ぎていった。

「当たるか、バーカ!」

真琴が普段からは想像できないような荒々しい声で叫ぶ。彼女の瞳は画面に釘付けになり、指先がキーボードの上を猛スピードで駆け巡る。コックピットのモニターには、『影』の戦闘ヘリがミサイルを発射する様子が映し出されていた。

「ミサイル、二発! 高度を上げて!」由紀が冷静に指示を飛ばす。

真琴は即座に機体を急上昇させ、ミサイルはヘリの真下をすり抜けて夜空の彼方へと消えた。だが、追撃はそれだけでは終わらない。複数の偵察ドローンが、ヘリの周囲を取り囲むように急接近してくる。ドローンからは、レーザー照準器の赤い光がヘリの機体にいくつも点滅した。

「ドローンが機体に貼りつくつもりだ! 内部に侵入されると厄介だぞ!」蒼真は身構える。

「真琴、ドローンの制御を奪えるか?」由紀が尋ねる。

「無理! このタイプのドローンは、外部からのハッキング対策が徹底されてる! 物理的に破壊するしかない!」

真琴が歯ぎしりをする。蒼真は一瞬の逡巡の後、決断した。

「俺がやる」

「蒼真!?」

由紀と真琴が驚きの声を上げる。蒼真はシートベルトを外し、機体後方のハッチへと向かった。

「この機体は、俺たちの命綱だ。壊すわけにはいかない。俺が外に出て、ドローンを叩く」

「危険すぎるわ! 時速数百キロで移動しているヘリの外よ!?」由紀が必死に止めようとする。

「大丈夫だ。俺ならできる」

蒼真は力強く言い放ち、ハッチを開けた。轟音と猛烈な風が機内に吹き荒れ、由紀と真琴の髪を激しく揺らす。蒼真は一瞬だけ二人を振り返り、その目に「必ず戻る」という強い決意を宿して、闇夜の中へと飛び出した。


ヘリの外に出た瞬間、蒼真の身体は空気の壁に叩きつけられそうになった。だが、彼の「総合超人能力」がすぐに作用し、身体能力を最大限に引き上げる。重力や風圧といった物理法則が、彼の前では紙切れのように意味を失った。ヘリの機体にしがみつくようにして、彼は外壁を駆け上がっていく。眼下には、遠ざかる地上と、星々のような街の灯りが眩い。そして、すぐそこに迫る複数の偵察ドローンの姿が見えた。


ドローンは、蒼真の姿を捕捉すると、一斉にレーザーを照射してきた。赤い光線が彼の身体を掠めるが、蒼真は超高速移動でそれをかわしながら、ドローンへと肉薄する。彼の拳が、金属製のドローンに叩き込まれる。轟音と共に、ドローンは一瞬で原型を留めないほどの残骸と化し、夜空へと散った。次々とドローンを破壊していく蒼真の姿は、まるで夜空を舞う漆黒の嵐のようだった。


機内では、由紀と真琴が固唾を飲んで蒼真の戦いを見守っていた。

「すごい……あんなの、人間技じゃない……」

真琴が呟く。彼女は蒼真の能力を何度も見てきたが、間近で繰り広げられるその圧倒的な力に、改めて息を呑んだ。

「蒼真……」

由紀の視線は、外で戦う蒼真に釘付けだ。彼の力が、どれほどの孤独と苦痛を伴ってきたか、彼女には痛いほど理解できた。だからこそ、今、その力を使って自分たちを守ろうとする蒼真の姿に、彼女は胸の奥を締め付けられるような思いを感じていた。


だが、状況は依然として厳しい。後方からは、依然として『影』の戦闘ヘリが追撃を続けている。その機体からは、今度は機関砲の連射が始まり、ヘリの機体に無数の弾丸が叩きつけられる。

「っ、被弾! 右翼エンジンが損傷!」真琴が叫ぶ。

機体が大きく揺れ、警告音がけたたましく鳴り響く。このままでは墜落してしまう。

「真琴、なんとかして!」由紀が焦りの声を上げる。

真琴は必死にキーボードを叩き続けるが、損傷したシステムの回復は困難だった。

「ダメだ! 敵の電子攻撃も併用されてる! このままじゃ……!」


その時、真琴の指先に、奇妙な感覚が走った。

それは、今まで感じたことのない、システムそのものと一体化するような、あるいは、システムの一部を自らの意志で書き換えるような、不思議な感覚だった。

「……え?」

彼女の視界に、複雑なデータストリームが、まるで生き物のように流れ込んでくる。それは、敵のヘリのシステム情報であり、彼女の指先が、その深層部に触れることができたかのような感覚だった。

「これ、は……!?」

真琴の瞳に、強い光が宿る。彼女は迷うことなく、その感覚に身を委ねた。指先がキーボードの上を、まるでダンスを踊るかのように高速で動き始める。モニターに映し出される敵ヘリのシステムに、次々とエラーコードが挿入されていく。

「な、何をしているの、真琴!?」由紀が驚く。

「分からない……けど、できる! これなら……!」

真琴の顔に、血色が戻ってくる。彼女は、まるで何かに取り憑かれたかのように、一心不乱に作業を続けた。そして、数秒後、彼女が叫んだ。

「成功! 敵ヘリの操縦システムにオーバーロードを仕掛けた! 一時的に、制御不能に陥る!」

その言葉と同時に、後方を追跡していた戦闘ヘリが、突如として大きくバランスを崩した。機体が左右に激しく揺れ、そのまま錐揉み状態になりながら、夜空の彼方へと消えていく。その光景に、由紀は息を呑んだ。


蒼真もまた、ドローンを破壊し終えて機内に戻った直後、その光景を目の当たりにしていた。

「今のは……真琴か?」

彼の問いに、真琴は戸惑ったような表情で頷く。

「うん、多分……。ハッキングって言うよりも、なんか、相手のシステムを、直接……書き換えるような……そんな感じだった」

「能力……覚醒、したのね」

由紀が静かに呟いた。彼女の言葉に、真琴は驚いたように自分の手を見つめる。

「これが……私の能力……?」

それは、まさに『影』に利用され続けてきた真琴が、自らの意思でその呪縛を打ち破り、真の力を手に入れた瞬間だった。彼女の瞳には、過去の罪悪感や、無力感といった影は、もはや見当たらなかった。そこにあったのは、清々しいほどの「解放」の光と、新たな力への戸惑い、そして、それを使いこなそうとする強い意志だった。


蒼真は、そんな真琴の様子を見て、満たされたような温かい感情を覚えた。彼が『影』から逃げ出したのは、誰もがその身の内に秘めた力を、組織の道具としてではなく、自分自身の意志で自由に使うことができる世界を望んでいたからだ。真琴の覚醒は、その願いが一つ叶えられた証のように思えた。

「これで、追撃は一時的に凌げたな」

蒼真の言葉に、由紀が安堵の息を吐く。

「ええ。でも、長くは持たないでしょう。あの施設を叩くなら、ここがチャンスよ」

由紀の瞳が、再びモニターに映し出された地図上のポイントへと向けられる。それは、彼女の父親である白咲瑛司が極秘裏に進める、能力者研究施設の場所だった。


ヘリは高度を上げ、再び安定した飛行に戻る。夜空には、すでに東の空が白み始めていた。

「真琴、本当に大丈夫なのか? 無理はするな」

蒼真が真琴の肩に手を置いた。彼の温かい手に、真琴は小さく身体を震わせる。

「うん……不思議と、大丈夫。むしろ、今までよりも体が軽い気がする。それに、もっと、やれる気がするんだ」

彼女は笑顔を見せた。それは、かつての天真爛漫な笑顔とは違い、苦難を乗り越え、確かな力を手に入れた者の、自信に満ちた笑顔だった。


由紀は、そんな二人の様子を優しい眼差しで見つめていた。彼女は、蒼真の孤独な戦いを間近で見てきた。そして、真琴が『影』の呪縛から解き放たれる瞬間にも立ち会った。自分もまた、父親の支配から逃れ、自分自身の意志で生きることを選んだ。この三人でいる時、彼女は確信するのだ。どんな困難も乗り越えられると。

「由紀、あの研究施設は、どうなっているんだ?」

蒼真が由紀に問いかける。彼女はタブレットの情報を拡大し、具体的なデータを示し始めた。

「ここは、『影』が極秘裏に進めている、能力者強化と洗脳に関する研究施設よ。父親がSランク能力者のクローン製造も計画しているという情報もある。警備は厳重で、施設内部には複数の能力者が配置されている可能性が高いわ」

由紀の声は、いつも以上に真剣みを帯びていた。そこには、父親の非道な計画を阻止したいという、強い思いが込められている。

「クローン製造まで……。それが、お前の父親の目的か」

蒼真の表情が硬くなる。

「ええ。この施設の情報は、父が『影』の権力を掌握するための切り札の一つ。これを潰せば、彼の計画に大きな打撃を与えられる。そして、何よりも……これ以上、誰かが『影』の道具にされるのを、止めたい」

由紀の言葉に、真琴が強く頷いた。

「俺も同じだ。二度と、俺みたいな思いをする奴は出したくない」

蒼真は二人の瞳を真っ直ぐに見つめた。そこには、迷いや恐れは一切ない。あるのは、未来を切り開こうとする、揺るぎない決意だけだ。

「分かった。行くぞ、由紀、真琴。お前たちを、絶対に危険な目に合わせない。そして、もう誰も、俺たちの邪魔はさせない」

蒼真の言葉には、かつてないほどの力強さと、仲間への深い信頼が込められていた。彼はもう、一人で全てを背負い込む「隠された能力者」ではない。由紀と真琴というかけがえのない絆を得て、人間として、そして能力者として、真の「解放」を遂げたのだ。


ヘリは朝日を浴びて輝き始めた。東の空には、希望を乗せたかのように、眩い太陽がゆっくりと顔を出し始めている。三人の瞳は、一点の曇りもなく、ただ前だけを見据えていた。彼らの旅は、今、新たな局面へと突入する。巨大な『影』との最終決戦に向けて、彼らは、絆という名の翼を広げ、夜空を越えていく。

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