326話 虎穴に入らずんば虎子を得ず
樽に入ってじっとすること数十分、船の微かな揺れがピタリを止み、接岸したことが私でも分かった。
(接岸したのかな……ここから数分ぐらい待つかぁ)
静かな船内。だがコツン、コツンと革靴を履いて地面を歩くような音と鼻歌が聞こえてきた。
(誰かが歩いてきている……息をひそめないとなぁ)
「ふんふふ~ん」
(男の声か、そしてこの上機嫌……少しばかりムカつく。でも目的は奴の拘束……間違って行き過ぎてしまわないようにしないと)
男は樽の中に隠れている私たちに気がつくことはなく、そのまま声が遠ざかっていった。そして男が戻ってこないと確認した私たちは樽から出た。
「人……居たんだね」
「ああ、だが奴は私たちがこの船の中を探索していたことに気が付いていないようだった、少しだけおかしいかもな」
(確かに、物音を立てていたのに奴は私たちを探さなかった。何か違和感があるな)
「とりあえず警戒しながら外に出ようか……」
私たちは物音を立てないように移動し、こっそり外の様子を見ると洞穴に入っていく男の姿を見つけた。
(あれが不審船の……」
「まだか?まだ突撃したら駄目か?」
「駄目、少しだけ待ってて」
「でも見失わないように後をつけないといけないと思うんだけど」
「……瑞希さんの言う通りですね。ですが突撃するわけではないので気が付かない距離を保っていきましょうか」
ルーピンが船の外に出てその後を私たちが追って行くと言う形で歩き始めた。
(松明もない洞穴だから本当に足元に気をつけないと……)
音が響く中、出来る限り足音を鳴らさずに歩いていかなければならなかった。
「おい」
「黙ってください、洞穴の中だと物凄く音が響きます」
「……」
ルーピンが小言で注意し、そこからは声も音も出さずに歩いていった。そして時期に普段なら聴こえない呼吸音や心音が聞こえてきていて気が狂いそうになっていた。
(心臓の音や呼吸の音が……うぅ)
みんなの気も少しだけ狂っているのに気が付いた私は少しだけ歩を速く進めた。それにつられてみんなは無意識に歩を私と同じように速く進めていた。そして男の声が再び聞こえる時に私たちの気が元に戻った。
「既定の時間に来たぞ」
「……ええ、奴らには追われていない。だが飛行途中に奴らが何人か船に近づいたが恐らく離れただろう」
(多分私たちの事かな……)
話を聞いているとルーピンが私の腕を引っ張って来ていて気を引いている様子だった。
(なんだ?ハンドサインで何かを……突撃するぞっていう事かなぁ)
私はエーテルロジックスタッフを持ち、突撃するために閃光魔法を杖に溜めた。
「それで新しく捉えたのは何処に居る」
「隣の部屋にいる。こっちに来い」
奴らが後ろを振り向いた瞬間、私はいきなり物陰から飛びだし、閃光魔法を壁にぶつけた。
「なんだ!?」
奴の声が聞こえてきたがそれよりも先に閃光魔法が洞穴全体に炸裂したのだった。そしてこの閃光が開戦の合図になるのだった。
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