65 大人買いコース
今日の私の服は、イオリに借りたものだ。バリーの銃撃で私のブラウスには穴が開いてるから、それはイオリが捨ててくれた。イオリのワインレッドのシャツを羽織って、下はショートパンツだ。
私はその格好で皆と一緒にショッピングモールで買い物をすることになった。最初に行ったのはポワズンというブランドのお店だ。ゴシック系のお店で、私はそこでブラウスとタイツ、それから最近気に入ってるショートパンツをいくつか買った。
イオリの好きなボロビアのお店にも行った。最初は「別に欲しく無い」と気乗りしないイオリだったけど、私がこれが似合うこれが似合うと言っていると、彼はどんどんカゴに入れた。
最終的に結構な額になったけど、彼は普通に支払った。どれだけもらってんだよお前、とレイヴが震えた。他にもメンズのブランドのお店に行って、イオリに似合うスーツやフォーマルな服を色々と買った。
すると今度はイオリが何故かストリート系ファッションブランドのお店の前で立ち止まった。レイヴがお前には似合わないんじゃ?と言ったけど、彼はいいから来いとレイヴの腕を引っ張って行った。
お店の前でしばらく待っていると、大きな買い物袋を持って、買ったばかりの金色のチェーンネックレスを首からぶら下げたレイヴが出てきて、ハイテンションで「いええええ!お兄ちゃん最高!」と叫んで、私とヤギさんは笑った。
それからレイヴはイオリのことをお兄ちゃんと呼び始めた。イオリはやめろと照れてるけど、レイヴはやめなかった。しかも今までで一番好きと言い出した。イオリは顔が真っ赤だった。
他にもイオリのホビーショップやレイヴの帽子屋、私の靴屋と回っていると、買い物袋が多くなってきた。だからイオリが慣れた様子でパーソナルクラークという我々専門の店員を二人呼び出した。
荷物は彼らがワゴンに積んで持ってくれるし、どこに何があるか一発で教えてくれる。さすがイオリ、そういうサービスを知っているんだと思った。
そして途中でアイスを食べた。以前食べたあのアイス屋さんで、今度は味が三つのトリプルを頼んだ。私はコーンで食べていて、ヤギさんもコーンだ。兄弟はカップで食べている。
「今日はまじでやばい!お兄ちゃん最高!大好き!」
イオリは隣のレイヴを裏拳で軽く叩いた。レイヴの両手にはさっき買ったばかりの金のドクロやバラのリングが付いている。
「うるさい!周りに聞こえるだろうが……!買ったの大事にしろよ、次は中々無いからな。」
「分かってるって!はぁー、これで俺の人生めちゃくちゃ潤うわー!リアちゃんも良かったね、色々買ってさ、その水色のレースのブラウスも可愛いー!」
「ふふ、ありがと!」
私はニコッとレイヴに微笑んだ。レイヴも私にニコッと純粋な笑みを向けた。ふと隣のイオリを見るとムッとしていた。私は笑顔を消してアイスを食べた。
「イオリ、私にたくさん買ってくれてありがとう。」
「ああ、いや、構わない……俺の方こそ、ワインだとか新しい望遠鏡をありがとうな。」
「いいの、私使わないから。」
「それで?」ヤギさんがコーンを美味しそうにかじりながら聞いた。「後はどこに行くの?何かまだ欲しいものはあるのかな?」
「リアと二人で行きたい店がある。」
と、イオリが言った。え?どこだろう。もうだいぶ回ったし、あと何が欲しいんだろう?食品だろうか?でも食事はルームサービスが充実してるし、頼めば食材もくるから違う。んん?
「えーどこー?」レイヴが聞いた。「じゃあ俺たちも行くよー!どこ?」
「二人で行きたいと言っている。」
「いいじゃん!皆で行こうぜ!この四人は最強だ!」
「そうそう!」とヤギさんも便乗した。「折角だから一緒に行こう、僕も気になる!」
レイヴがチラッとヤギさんを見た。
「お前はその上半身裸をどうにかしろよ……下は変な白い短パンだし。まあ、みんな見てるけど。」
コーンを食べつつ周りを見ると、確かに周りの女性客が興味津々でヤギさんや……イオリのことを見ていた。ヤギさんはいいけど、イオリはダメ。何この状況。私の心は一気に戦慄と化した。
そして不思議なことが起きた。アイスを食べ終えた我々はその店を後にした。イオリを先頭に歩いているのだが、我々の他にも数人付いて来たのだ。
クラークさんは分かるけど、その辺にいた若い女性たちも何故かついてくる。浮き立った雰囲気で、ヤギさんやイオリを見つめながら付いて来るのだ。
……私はイオリの手をがっしり掴んだ。彼は一瞬驚いたけど状況を察したのか、私の心配を包むかのように、私の肩を抱いて歩いてくれた。ちょっと……嬉しかった。
イオリは優しい。イオリが大好き。
一緒にいると安心する。こうして包んでくれる。私は幸せだ。
そう思いながら辿り着いたのは、赤い照明が蔓延る、謎の如何わしさを放つお店の前だった。モールの一番端っこにあるお店で、店頭には黒いボンデージがいくつかラックにかかって置いてあった。明らかにSMグッズのお店だ。
迷いもせずにイオリはスッと店内に入った。レイヴは迷いが生じたのか絶句していて、ヤギさんも「ほお!」と感心しつつスッと入って行った。私も取り敢えず入った。雰囲気があのお店に似てる、以前イオリと行った、レッドブラックダークという半個室のレストランだ。
イオリは棚に置いてある鞭や縄を掴んではカゴにどんどんと入れていった。ああなるほど、確かにそういうプレイをしたいと言っていたのを思い出した。ヤギさんは店内をじろじろ見つつ彼に聞いた。
「イオリ君はギリギリを生きてみたいの?」
するとイオリが笑った。
「ふふっ……包含したいだけだ。それ故に、俺も支配されるから。それによって繋がりを実感する。神経伝達物質の波長を等しくしてみたい。交わることなかれ、しかし寄り添うように。」
「ああ、そういうことか。勉強になるなあ。」
「何言ってんの奴ら。」
気がつくと私の隣にいたレイヴがそう言った。私は少し笑った。レイヴはピンク色をした男のアレを持って、クネクネ揺らした。
「すご……いつ使うんだよこれ。ってかさぁ、お前らまじでこれから何すんの?何か研究するの?生と死の狭間とか、そんな研究?」
「わかんないわかんない。」
そう、私には何もわからないのである。イオリがノリノリなだけで、まあゴーストだし死なないから別に付き合ってもいいかなと思ってるぐらいで、これから我々が何をするのか本当に分からない。
彼はカゴいっぱいに何かを詰め込んで、それをレジに持っていった。彼のそばにはヤギさんもいて、ヤギさんは手に持っていた謎の大きな筒をイオリに見せた。
ヤギさんの説明を聞いていると、イオリは「ほお」と興味を示した。何あの筒。イオリは「ではアレも必要だ」というと、ヤギさんが「じゃあそれなら」と、それを取りに行った。
何あの連携。ヤギさんは謎の大きな鎖を持ってレジに戻ってきた。イオリとヤギさんは何かを真剣な顔で会話していた。出来れば会話の内容に私が絡んでいて欲しくなかった。
でも無理みたい。彼らはチラチラ私を見た。ヤギさん……イオリに死神の知識をどんどん与えないで欲しい。そんなところで才能を発揮しないで欲しい。連携やめろ。
赤い紙袋はパンパンになった。満足した様子のイオリがこっちへ来て、私の腕を掴んで、スタスタ歩き始めた。
店の前には女の子たちとクラークさんが待っていた。そしてヤギさんが「さあ終わったから次の場所へ行こう!」とウキウキな声を出した。




