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64 ドライブゴーゴー

 イオリはレイヴほどバタバタ忙しくない日々を送った。彼はオリオン様の部屋で開かれる会議に参加したり、彼の部屋に来たDJインコやビーアイの相談を受けたり、レイヴとは違って重役っぽい仕事をこなした。


 他にも彼はアジトの監禁室に呼ばれて、相手の情報をはかせる作業をしたり、あのシンプルな執務室でPCの作業をしたりした。ノアズでもそうしていたように、彼は執務の時に眼鏡をかける。それがすごくギャップがあってセクシーだった。


 彼にとっては意外と忙しい日々が過ぎていき、あれから休みの日はなくて、ゆっくり愛し合うことは出来なかった。寝る前にキスをして、少しお話をしてから寝るという感じで、彼も疲れていて眠たそうだし、我慢するのは仕方ないことだった。


 私一人が体力おばけなんだから、彼を気遣ってあげないとかわいそうだ。でも変に欲求不満でもある。いつの間にかクッションを抱きしめている時も増えた。


 昨日は犯ティー第五話の日で、なんと主人公の死顔がドアップで映された。イオリは主人公が犯人説を持っていたので、「ぬあああ!普通主人公は死なないだろうが!主人公の意味分かってるのか!」と嘆いた。


 こうなってくるとやはりジュンコ夫人犯人説が濃厚になるのだが、イオリはそれを認めない。きっと主人公はどこかのタイミングで生き返るとか、死んだフリだとか、いろんな説を考え出していた。


 その放送が終わると、次の日はお休みだからきっとゆっくりラブラブ出来るなと思い、私はにやけるのを我慢しつつその後の展開を待ち望んだ。しかし私がイオリのためにお茶を取りに行って帰ると、彼がソファのところで寝てしまっていた。


 ……起こすわけにもいかないし、私はブランケットをかけて、大きなカーテンを閉めた。テーブルの上には先日レイヴが持ってきてくれたマリモが置いてあって、じっとそれを眺めて過ごすことになった。


 そして今日は休みの日で、買い物の日だ!これを逃すと次の休みがいつか分からなかったので、急遽接待を決行することになり、勿論例の彼も呼んでいる。今は皆でレイヴのミニバンに乗っていて、レイヴが運転していて、私とイオリは後部座席に手を繋いで座ってる。


 レイヴが運転しながら言った。


「てかさー、助手席の奴、誰だよ!」


 すると助手席に座ってるヤギの骨の頭の彼が答えた。


「ヤギって呼んで!なんかおじいちゃんを楽しませてくれるっていうから、何するのかなーって。買い物いいよね、どこに行くの?」


「おい後ろの二人!」レイヴがミラー越しに我々を睨んだ。因みに今、私はイオリに頭を掴まれて彼に寄りかかる姿勢を取っている。「くっついてばかりいないで少しはこいつの相手をしろ!俺が気まずいだろーが!誰だよこいつ!」


 ヤギさんは景色を見ながら言った。


「なんか今日はイオリ君とリアちゃんが色んなところに連れて行ってくれるっていうから楽しみなんだ!最初はモールに行くのかな?そこって女の子いる?」


「そこにもいるだろうが、」イオリが言った。「しかしその格好では、相手にされなさそうだ。」


「あーイオリ君はおじいちゃんを舐めてるね。見ててご覧?ほーら!」


 するとヤギさんがダークなオーラに包まれた。「おお」とレイヴが声を漏らした。ダークはオーラが静まってくるとどういうことなのか、中からオールバックの金髪の中々ムキムキなイケメンが出現した。


「どお?」と彼がこちらを振り返った。「おじいちゃん……じゃなくて僕、イケメンになった?」


 私は頷いた。


「うん、すごいカッコよくなった!サーファーにいそうな雰囲気。」


 ヤギさんはニコッと笑った。白い歯が眩しかった。鼻も高くて、目もくっきりしていて、それならモテそうだと思った。そんなこともできるのか……ということは!


 私は身を乗り出して彼に聞いた。


「それって私もできるの?例えば胸を大きくしたりとか!」


「ぶっ!」


 イオリが飲んでた缶コーヒーを吹きそうになっていた。ヤギさんは「君は外見変えるのは無理だよあっはっは」と笑い、レイヴも「おま、マジかよ兄貴最低!リアちゃんのサイズでも可愛いだろー!」と笑った。


 イオリは運転席を蹴ってから言った。


「誰が巨乳好きだ!俺は違う!俺は……リアのがいいというか、その……とにかくレイヴお前は死ね!ヤギ、遠慮せずに今すぐこいつを連れて行け!」


「何でだよ!ってかどこに連れて行くって?」


 ヤギさんは答えた。


「おじい……じゃなくて僕ね、実は死神なんだよ。リアちゃんを強力化したのは僕なんだ。だから連れて行くとしたら下界だけど「えーまじかよやだ!」ふふ、わかってる。ねえねえそれよりも!リアちゃん!どお?僕の筋肉、触ってみて?」


 ヤギさんはまた振り返って、座席の間から腕を伸ばしてきた。私はその腕を触ってみた。とても硬くて、太い。バリーはプニョプニョだったし、イオリはもっと細いから、こんなに健康的な男性の腕には触ったことがない。


「自然だよ、うん、いい感じ……!」


 なんか最近欲求不満だから、ついついベタベタ触ってしまう。おててもゴツくて大きい。すごいもんだ。触ってると、ギュッと手を握られた。


 顔をあげると、ニコッと爽やかに笑うヤギさんと目が合った。そこだけは変えられなかったのか、彼の瞳は赤色で、中心が黒く細い楕円の形をしていた。少し怖い、ミステリアスな瞳だった。


「リアちゃん。僕とだったら寝ずに何回もできる。ちょっと今晩、遊んでみる?」


 その瞬間にイオリがヤギさんの座席をガン蹴りした。手が解けると、イオリが私の腕を引いて彼の方に寄せて、抱きしめられた。そして彼はヤギさんを指差して怒鳴った。


「リアにちょっかい出すな!それとも下界の有識者どもに貴様の奇行をまとめた調書をFAXで送ってやろ「それはやめて!わかったからやめて!もう二度としないからやめて!」


 あっはっはとレイヴが笑った。


「はぁー、しかしまあ兄貴とリアちゃんがくっつくなんてなー。ねえもうリアちゃんって兄貴のガールフレンドなの?」


「ああ。」「違うけど。」


 車内の全員の瞳が大きく開かれた。え?え?だって、付き合ってとは言われてないから違うと思ってた。

 

「あ、あはは……リア、何故?想いが通じ合っているのに、どうしてそんな、はは。」


 イオリの狼狽(ろうばい)に前の二人が必死に笑いを堪えてる。私はイオリの肩に頭を寄せたまま、言った。


「じゃあガールフレンドでいい。はっきりと言ってなかったけど、確かに一緒にいるって約束したから、そっか、私が勘違いしてた。ガールフレンドって何するの?」


 するとレイヴが言った。


「お互いを縛り合うんじゃね?」


「それは縄で?」


「違う違う!あっはっは!そんなアブノーマル話じゃなくて、お互いに浮気しないとか、連絡し合うとか、そういうのだよ、な?兄貴?」


「ああ、まあな。」


 めっちゃテンション低い声だった。「まあまあ」とヤギさんが楽しげに言った。


「リアちゃんの未練を気にしたのはそういうことか。まあ僕がそれを変更出来ることに期待しないで欲しいけど、今日は行きたいところは明確にあるから、そこに連れて行って欲しいな。」


「それはどこだ?」イオリが聞いた。


「ストリップバー。」


 ……。


 何を言ってんだこいつ、というイオリの雰囲気がひしひしと伝わってくる。レイヴはゲラゲラ笑っていて、ヤギさんは楽しげに言った。


「あそこは生命の活気に溢れている!僕はそういう生命の光に興味があったんだ!だからあそこに一度行ってみたい!」


 するとイオリが言った。


「俺とリアは遠慮する。理由は先程申した通りだ。そういう如何わしい場所に行きたいのなら、レイヴと二人で行ってくれ。」


「でも、」とヤギさんがこちらを見た。「リアちゃんは生の女の子を見たくない?リアちゃんも折角なんだから、女の子の美しさを間近で見てみようよ、そうだろう?」


「まあ……確かに、その雰囲気自体は気になるけど。何をするところなの?」


 レイヴが答えた。


「水着姿やそれを脱いだ女が踊って、チップを渡すところだ。」


「やめとけ、それは」とイオリが何か私に訴えようとしたが、「あー!」というヤギの雄叫びにかき消された。彼はノアフォンを見ている。「ねえねえ、女の子だけじゃなく男の子もダンスするお店もあるって!そこでいいじゃないか!そしたら男の人も踊ってるし、リアちゃんも楽しめるね!レイヴ君あとでそこに行ってくれ。」


 え?行くの?


 しかしレイヴもノリノリだった。


「まー確かにヤギちゃんのルックスなら無双出来そうだし、俺もそれにあやかれるかも!いいね、買い物したらちょっとだけ行こうぜ!フォォォ!」


「そうそうレイヴ君とはいい友達になれそうだ!行こう行こう!あと僕お金ないから、イオリ君奢ってね!」


 イオリは絶句している。私も黙っていた。するとレイヴが駐車場にハンドルを切りながら言った。


「まーでもリアちゃんさー、イオリに飽きたら俺を選んでよ?」


「貴様、死にたいのか?」


「わー、いちいち俺を脅すなよばーか!でもお前が怒ると結構怖いの知ってるから、ここまでにしとくわ……あともし一回でも俺のこと殴ったら母ちゃんに言うからな!」


「……貴様。」


 トーンダウンしたイオリはため息をついた。確かにそれは面倒だと思いながら、車は暗い駐車場内に突入した。

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