41 お姫様より女王様
アジトの駐車場からのエレベーターの中で、私とイオリはあることを考えていた。それは……つい使ってしまった大人のおもちゃをどうやってサラに説明するかだった。
「やっぱり中古ショップしかないんじゃない?」
「……そんなところで買うなという話になる。それだったらいっそのこと、買うのを忘れたと虚言して、あれを隠していくしか。例えば、リアのリュックに入れて。」
「なんで!」私は叫んだ。「どうして隠し持たなきゃいけないの!?そんな物。」
「そんな物……?ほお、とても喜んでいたのに。」
私はイオリの足を思いっきり踏んだ。彼は「アぉぉ!」と叫んだ。私はムッとしながら言った。
「大体、あれを使いたいって言い出したのはそっちでしょ?私は別に、キスとか、それだけで良かったのに……。」
「……どういう動きをするのか、気になるではないか。」
「あの形状を見たら大体予想できるでしょ!?」と、私はエレベーターを降りた。紙袋だらけのイオリも降りた。「あんな形してるんだから、どう動くのかなんて想像つくのに!」
イオリはぼそっと答えた。
「違う……あれを使ったらお前がどういう動きをするのか、それを知りたかった……。」
「左様ですか……。」
「ああ……。」
それなら、良かったね見れて。私は苦笑いした。折角なので、知った結果はどうだったのか、感想を聞いてみた。
「その結果、どうだったの?」
「分かるだろう……またヤギに怒られることになりそうだ。」
そうだね、と心の中でアンサーしておいた。イオリが玄関横のセンサーにノアフォンをかざした。ロックが解除された音がしたけど、彼はそのまま固まってしまった。
「どうしたの?イオリ。」
「……先程の、その、車内での出来事だが。」
「ああ、」私は頷いて、微笑んだ。「ゴタゴタは避けるべきだと思う。私はゴーストだし、イオリが本気じゃないの知ってる。黙っていれば大丈夫。もう二度と、しなくてもいい。」
最後の方は嘘。でも彼に気を使って欲しくないから、そう言った。
「……リア、俺はそうは思わない。」
「え?どの部分?」
「今日は……その、」彼の顔が緑の照明でエイリアン化しているけど、頬は赤かった。「買い物、思った以上に、とても楽しかった。金は殆ど無くなったし買ったのは殆どサラのものだ。でも、とても楽しかった。今まで、あまり買い物で楽しいなんて思いはしなかった、ストレス発散にはなっていたが。」
「うん。」
「本当に、今日は楽しかった。ありがとう、アリシア。」
「あ、こちらこそ楽しかった……どうも。」
「お前とサラでは全てが違う。おかしなことに、あんなに燃えるような行為は……。」
一瞬微笑んでから、彼はドアを開けて中に入った。すぐに中から「遅い~!」という猫なで声が聞こえた。今の発言は、一体なに……?
疑問に感じながらも、私もドアの中に入った。イオリは早速サラの檻の前に紙袋をどさどさ置いて、サラは手を伸ばして一つ一つの中身を確かめている。
私もイオリの物が入った紙袋をソファに置いた。するとサラが私の置いたものを見た。
「あれ?イオリも結構買ったんだ。」
彼が答えた。
「ああ、俺がというよりかは、リアが買ってくれた。安物でも結構デザインがいいものもあって「え?なんでリアが買ったの?」
サラがイオリを不思議そうな目で見ている。イオリは首を傾げている。彼女は更に質問した。
「買ってもらう必要ある?額は知らないけど、結構貯金があるんじゃなかったの?」
「……俺の持っていた10億ブルーは全部ノアズに取られたよ。それもそうだ、俺はもう真っ当な人生じゃないんだから。」
「え……じゃあ、これって全財産だったの?」
「そうだ。」
「へぇーそうなんだ。あー、だから今日もそのホテルっぽい服を着ているんだ。へー、着替えすらないんだ。」
そんなイオリに私は紙袋からシャツとベストを取り出した。イオリの顔がめちゃくちゃ引きつっているけど、サラが死んだような目で再び買ってきた物を吟味してるけど、私は二人に話しかけた。
「ほら、これを着れば元のイオリに戻るよ。」
引きつったイオリと目が合ったと思ったら、彼は私が広げた服をばっと奪ってシャワールームに行ってしまった。
ならばと私は買ったばかりの彼の下着と靴下もシャワールームに持っていって、少しドアを開けてそれを放り込んでからまた閉めた。
ソファに戻ると、サラと目が合った。
「あんた知ってた?イオリが一文無しになってたのを。」
「そりゃ……常に一緒にいるから知ってる。」
「じゃあボロビアのスーツとか、エンデルのネクタイとか、コッディのシャツとか、一つも持ってないの!?一つも!」
「も、持ってない……あ、いや、ボロビアのネクタイなら今日買ったけど。」
「え!?そんなの買うお金あったの!?」
「いや……私が着ていたワンピースを売って、そのお金で買ったの。彼だって洋服欲しかったよ。でもあなたの為に、檻の中でかわいそうだからって、たくさん買ったよ。」
「そんなのは別にどうでもいいんだけど、はぁー。」
一体何が不満なんだ。私は彼女に聞いた。
「イオリがお金持ちだから好きなの?」
「……ただのお金持ちだったら好きじゃない。イオリはノアズでも上の方だったし、シードロヴァ様と幼馴染みだから将来も安泰だったし、それに顔が良かった。身長も高いしね。それに私をお姫様のように扱ってくれるし。医学院出てて心理学者だからメンタルも強いし、頼れる。友達に紹介してもいいなーって言われてマウント取れるしね。ほら、こんなに彼のこと愛してる。」
「そ、そうだね、はは……。」
めちゃくちゃ上辺だけの評価だったので、思わず苦笑いをしてしまった。私の相槌が同調だと思われて気分を良くしたのか、サラは続けた。
「でもたまに思うの。彼って本当に犯罪心理コンサルタントなのかなって?だって私がたまに嘘を言っても、彼はそれを本当だって受け取るもん。嘘って言っても、小さい嘘だけど。」
「能ある鷹は爪を隠すとも言うし……。」
「それは一理あるかも。でも私は思うの。彼きっと私のことをとても愛しているから、見抜いている余裕が無いのよ。」
「その通りだと思います。」
もうそう言うしかなかった。それで会話を終わらして欲しかった。私はソファからスッと立ち上がって、我が身の姿をふっと消した。サラが「あっ」と小さく叫んだ。
最初からこうすればよかった。この手があったじゃん。私は消えた体のままキッチンに行って、台の上に座った。
ソファの近くの床にはサラが放り投げた缶詰や乾パン、空の紙袋が転がっていた。洋服類は勿論、お菓子類も欲しいようで、それはちゃっかり檻の中に入っていた。
サラはコスメと、買った時についてきたオマケのコンパクトミラーを使って、早速それを顔につけている。
「ねえリア、そこにいんの?」
「……。」
スルーしていいかなこれ。黙っていると、サラが笑った。
「まー、イオリがここにいる以上は絶対ここにいるもんね。リアって生きてる時、好きな人いたの?」
「夫がいた。」
「好きだったの?」
「普通かな。」
「えー普通程度の人と結婚なんかしたくないんだけど!私には絶対に無理ー!」
本当にうるさい。イオリの恋人だから大目に見てあげていたけど、私の人生をディスるのは許せない。
「うるさいよ……サラは普通の人生を歩めてていいね。」
「普通かなー?普通よりもちょっと良くない?大企業に勤めてたし。でも今はそうだね……檻の中だけど。でも大丈夫、きっとそのうちイオリがこの組織の幹部になるだろうから、そしたら私だって組織の人に大切にされるでしょ?あーでもイオリ大丈夫かなー。」
「何が?」
「だって彼、この組織で何が出来るんだろう。カウンセリング?ちょっとウケる。」
「イオリに頼るなら、彼をあまり馬鹿にしないほうがいい。」
「はっ!?頼る?彼の方が私に頼ってるでしょ?心の支えになってあげてるじゃん。しかもこの私が檻の中にいてあげてるんだから、早いとこ出世しろって感じだし。」
早く、犯人はティーカップの中の最終回来ないかなぁ。今度からはノアフォンがあるからこれで見れるけど、この部屋は地獄すぎて、本当に最終回が待ち遠しい。
もう話すことはないので、床に落ちている缶詰などを拾ってキャビネットにしまうことにした。




