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101 they watch us

 エレベーターで一階に着いて、裏口から裏路地に出た途端に、イオリが体ごとこちらに振り返って、溜まっていたものを吐き出すかのように、私に怒鳴った。


「貴様、俺の話を聞いていなかったのか!?」


「な、何?どの部分?」


「どの部分ではない……どうしてレモン飴を使うことを承諾したんだ!?シードロヴァの死因を忘れたのか!?」


「でもあそこで嫌だって断って、他に何て言えば良かったの?変な言動をすればイオリが怪しまれる。そしたらイオリの目的が達成出来なくなる。」


 それはそうだと分かったのか、イオリは前髪をかき上げた。でも確かに、難しい問題だ。


「イオリの言いたいことわかるよ。私はイオリの味方だもん。だから……ターゲットの殺害方法は別で考えてもいいけど、理由が必要。」


「そうだな、そうだ。一方的に怒鳴って悪かった。」


「大丈夫ー。帰ろ。」


 私はイオリの腕を引っ張って、路地の奥の方に停めてあるトレーラーに向かった。トレーラーに着くと、レイヴが運転席で大音量でラップを聴きながら体を揺らしていた。


 助手席には人間の姿のヤギさんがいて、二人がこっちを発見すると、「早く乗れ!これ飛べないし、雪原遠いからもう行くぞー!」とレイヴが手招いた。


 私とイオリはソファルームに入った。その瞬間にトレーラーが走り出したので、イオリがよろけて私を掴んで転んで、床に倒れた。


 イオリが私の上に乗っかってる図になってる。それをレイヴがバックミラーで見てきて、「お前らまじで昼間から勘弁してよねー!」と笑ってきた。


 イオリも笑っていた。後頭部に彼の手のひらがあるのに気が付いた。彼は倒れる時に、私の後頭部に手を添えて、私が頭を打たないようにしていたのだ。


「イオリ、ありがとう。優しいね。」


「……いや。」


 照れて頬がちょっと赤い彼のおでこにちゅっとキスをした。すると彼が私の頬に手を添えて、お口にキスをしてくれた。……柔らかくて熱い。


「えっ!?お前らまじで始めてんの!?ちょっとー!」


 ……。


 レイヴの声が聞こえたので私は唇を離した。トレーラーはガタガタ揺れながら道路の上を走っている。


 私とイオリは体を起こして、手を繋ぎながら一緒にソファに座った。イオリはふうとため息をついてから、皆に話しかけた。


「陸路で灯の雪原に行くしかないな。しかしそれだと、トロピカルバイスからどれほどかかる?」


「一週間ぐらいかかるんじゃねーの?」


 レイヴの答えは冗談のように聞こえて実は冗談でもない。それ程にこの南国からあの雪原までは遠い。だから私はきっとあの街で犯ティーを見て終わるのだろう。


 最後が雪の街か……幻想的だなと思っていると、ヤギさんが「ぬえええホニャホニャ」と、訳の分からないため息をついてから言った。


「そんなにかかるのー?僕そんなにかかるのやだなぁ。」


「仕方ねえだろ」レイヴが言った。「トレーラーにはジェットついてないんだから。空から行けばそりゃ明日にでも着くだろうけどさ。」


「じゃあ空から行こう。これはおまけだからね?」


 と、発言したヤギさんが手をパチンを鳴らすと、車体が一気にふわっと上昇した。私は咄嗟にソファにしがみついた。「わああ!」「うおおお!」という皆の悲鳴が聞こえている。


「おい!どうなってんだ!?」


 レイヴの疑問に、ヤギさんは答えた。


「特別に空を移動させてあげてるよ。レイヴくん、これには運転が要らないから、どうぞ休んでて。あとは僕が地図アプリを見ながら適当にこれを運ぶから。」


「そ、そんなことが出来るならもっと早くやれよ……。」


 レイヴはそう呟きながらソファの部屋に来て、私の隣に座った。ヤギさんの声が聞こえた。


「これも本当は禁止されてるの。でも移動に一週間は耐えられないから特別だよ?あと下界の有識者には黙ってて。」


 黙ってても何も、そもそも接点がないからその心配はないと苦笑いした。レイヴはソファに深く座った。


「あーでもこうしてるだけで灯の雪原に着くのはいいな。で?フィール草の取引だっけ?」


「そうだ。」イオリが私に寄りかかりながら答えた。「そのあとで、俺とアリシアはターゲットの暗殺をする。」


「それって、あの飴で?」


「……違う方法だ。」


「それはまずいんじゃねーの?何で使わない?ってなるよ、バリーのやつ。あれは死因が出ないから、あれがいいんだって思ってる。」


「そうだとしても、別の方法を考える。例えば雪を利用して死後硬直の時間をずらすとか。」


「難しいんじゃねえの?あっちで何も準備してねえし、だったら飴使った方が手っ取り早いじゃん。」


「貴様」


 ちょっと待って欲しい。私を挟んで言い合いしないで欲しい。あと雪を使ったトリックは無理があると思う。


 イオリがレイヴに言った。


「お前には何も分からないだろうが、兎に角レモン飴を使うことは俺はもう賛成しない。」


「どうして?リアちゃんに何か影響が出るとか?」


「そうだ。」


「そうだっけ?だってあれは「ヤギいいいい!」


 ヤギさんの発言はイオリの叫びで中断させられた。レイヴは「ふーん」と頭をポリポリかいて、それからイオリに言った。


「理由教えろよ、レモン飴が使えないの。だってそれによっては、バリー怪しむんじゃねえの?俺すら怪しんでるのにさ。」


「今考えている。」


「今考えているだあ!?お前何を考えているんだよ?……何を考えているのか、俺にはさっぱり見当がつかねー。教えろよ。」


「断る。」


「じゃあリアちゃん教えて?」


「え」


 二人の視線が一気に私に集中した。レイヴは話せ話せと私をじっと睨んでいて、イオリは謎の頬擦りを私の肩に与えている。話すなよという意味っぽい。


 私はどうも正直者だ。でもレモン飴がシードロヴァの死因が絡んでるってレイヴに言ったら、きっとレイヴは怒るだろう。だってまだノアズのこと忘れてないのかってなる。


 慎重に言葉を選ぼう。私は遠回しにレイヴに話した。


「レモン飴を使うと、この世界の誰かが苦しむことになる。宇宙は全てを司り、大地は人々の作り出すコンテンポラリーに嘆き、悲しみの共鳴を天へと貫かせる。それすらも宇宙は見ている。我々を見ている。」


「は?何それ。」


「ふふっ、そういうことだ。」と、イオリが満足げに微笑んで、とうとう私の太腿を枕にして、寝転んだ。「今のが理由だ。レモン飴を使わず、死因がはっきりしない方法を考えるから、待っていろ。」


「えー俺は知らねえぞー?何だよコンテンポラリーて。何で俺らそんなに見られてんだよ。」


 私も自分で言っときながらよく分からない。でもうまくはぐらかせて良かった。私も満足しているし、イオリも満足している。レイヴは一人でさっきの発言の意味をじっくり考え始めた。

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