102 全ての原因
陽がだんだんと落ちてくると、窓の外が曇り始めた。灯の雪原が近づくにつれ、車内も一気に気温が下がって、吐く息は白く色付いた。
私はずっと前に買った黒いダウンジャケットを着て、イオリは黒いボロビアのコートと白いマフラーを付けて、レイヴは黒いダウンベストをいつものパーカーと合わせて着た。
そして三人でソファに座ってガタガタと震えている。そう、この車内の暖房機能が少し弱いのを忘れていた。この間のトレーラー改造ショップで、それも直して貰えば良かった。てっきり暖かい南国で過ごして終わりだと思っていたから。
「すげえ寒い……風邪引きそう。」
レイヴが私に抱きついた。私もレイヴを抱いた。するとイオリが引き剥がそうとした。私は言った。
「寒いから一緒にくっついているだけだよ?」
「じゃあ俺を真ん中に入れろ。それなら許す。」
「……。」
言われる通りにレイヴと私が動いた。イオリを挟むようにして二人で抱きついた。これなら大丈夫だ。
「リアちゃんは寒さを感じないようにすれば寒くないと思うけど。」
助手席から飛んできたヤギさんの言葉に、私は反応した。
「寒さを感じないようにすると、その他の感覚も感じなくなるからいい。イオリに触って何も感じないのは辛い。」
「いいねー愛されてるねー。」レイヴが言った。「お兄ちゃん、そういえばもう愛してるって言ったの?」
「……貴様に関係ないだろうが。」
そう、彼はまだ、というかもうずっと言ってくれない気がする。そこはまだ私のことゴーストだからとか一線を置いてるのかもしれない。
するとレイヴがイオリ越しに私を見てきた。
「リアちゃんはいいの?それで。」
「いいよ。私ゴーストだからだよ。ちょっとイオリはケチかもしれないけど。」
「あっはっは!」
と、レイヴが笑った。イオリはムッとした顔で私をジロリと睨んだ。
「ケチなら、俺に憑依するのを許さないだろう。違う、色々と考えることがあるんだ。」
「出た出た、」レイヴが呆れ声で言った。「考えてる考えてるって、いつも何か考えてるよな兄ちゃんは。」
「……大体の話をさせていただこうか、よく考えれば、アリシアが俺に取りついてから、ろくなことがない。」
それは言えてるかもしれない。すごい正論すぎて、苦笑いした。イオリは続けた。
「ノアズを追われてしまったのは、アリシアのせいだ。」
「そうなのー?」
「ああ。誰が俺の家に血痕を残した?体温のように出血も自制が効くのなら、どうしてそのままにしたんだ?」
「それはやり方を知らなかったから、だってあの日に私はゴーストになっちゃったんだもん。」
私が答えると、「ふん」とイオリが不満そうに頷き、また続けた。
「今でも思う。誰が奴のレモン飴を盗んだ?」
「奴って誰?「誰がオリオンを守る為に、ボードンのスナイパーを俺の手を使って殺した?」
レイヴが遮られてる……しかも全部正論すぎて、私は苦笑いを続けた。イオリは更に続けた。
「誰がレモン飴で、シードロヴァを追い込む真似をしたんだ?誰がそれを使って、多数の人間を……。」
「え?じゃあレモン飴ってシードロヴァの……?」
レイヴがイオリから離れて、目を丸くした。イオリは「そうだ。」と答えた。なんか、雰囲気が変わってきた。イオリの横顔は、結構真剣なものだったからだ。
「今だに、俺は、あの時アリシアを拒絶していたら、どんな人生を歩んでいただろうかと、思う時はある。どうしてか?それは、アリシアがいなければ、俺はまだノアズだった。あの組織にいながら、FOCを、ボードンを狙えた。」
「それはそうだけど……。」
私は俯いた。確かにイオリに対しては悪いことをしてきてしまった。精一杯頑張ったけど、でも迷惑かけた。私がいなければ彼はノアズにいたのは本当だ。犯人扱いされもしなかっただろうし。
「こんなことを今考えても仕方ないが、時々、アリシアがいなければ、もしかしたらシードロヴァだって、あんなバカな真似をして意思表示することもなかった、と思う。」
「ごめんねイオリ……。」
「でもお前は、俺を支えてくれもした。それは礼を言いたい。しかし愛しているかどうかについては、少し考えたいところがある。」
「ごもっともです。分かった。」
それから誰も話さなくなった。窓にボタボタと雪が当たる音だけが響いていた。
暫くすると、トレーラーは灯の雪原の外れに止まった。窓を覗くと、三角屋根の家々が連なっていて、屋根にはこんもりと雪が積もっているのが見えた。街灯がぼんやりと丸く灯っていて、美しかった。
でもどこか、儚くもあった。雪の中を歩く、厚着をした男女のカップルの姿があった。彼らは話しながら笑っていた。
何がこの世で一番楽しかったんだろう。それを私は、忘れてしまった気がする。




