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後編

後半に流血表現、大人なシーンを匂わせる箇所が御座います。

細やかなはずですが、苦手な方はご注意下さい。

※キース視点※


あぁ…間に合わなかった。

僕は駆け寄ったリリの隣で呟いた。


「ゴメン…止める暇もなかったの。どうしよう」


「いや、ああなったジョージアナを止められる人間なんて、僕は知らないよ。ハマス隊長でも難しいと思う…」


悲痛な顔のリリを慰めつつ、出番のなかった水のグラスをテーブルに置く。

そして、副団長へと足早に近付くジョージアナを2人で見つめた。

それしか出来ないよねぇ…

めっちゃ怖いもん。


「本日は無礼講との事ですので、わたくしも失礼致しますわ。副団長」


「おぉ!君はハマスの部下だね?」


「はい、ジョージアナと申します。ハマス隊長には有難い事にいつも気にかけて頂いておりまして、副団長のお話しも良く聴かせて頂いておりますわ」


綺麗な微笑みを浮かべてハマス隊長を庇うような位置にスルリと割り込むと、副団長の鼻下が確実に伸びた。

最初に、僕のリリは可愛いと宣言しておく。

花の精のような可愛らしさだ。

比べて、同期のジョージアナを言い表すなら『美女』だ。

十人が十人美女と答えると思う。

色気がダダ漏れなタイプの。

本人は灰色の髪と瞳で周囲に埋没すると言うが、日の光に当たると銀色に輝き美しい。

高い位置でキッチリと纏められたポニーテールから覗く乳白色の細い頸、少し目尻が垂れた大きな瞳と、薔薇色の頬に憂いを含んだ影を落とす長い髪と同じ銀色の睫毛、緩やかなカーブを描く整った眉に、熟れた林檎のように真っ赤で瑞々しくもぽってりと色気を振り撒く唇。

170cmが世間一般の高身長と言えど、騎士団ではそれよりも背が高く体の大きな男の方が圧倒的に多いのだ。

出る所は出て引き締まる所は引き締まり、長い足が良く分かる禁欲的な騎士服のジョージアナは人気が高い。

女神だとか色気の集合体と騎士団内では呼ばれている事を、本人だけが知らないのだ。

そんな彼女と一緒に居ても何も言われないのは、僕が自他共に認めるリリアン馬鹿だかららしい。

ちょっと酷いと思わなくもないけれど、大好きなリリと同棲出来てるし幸せだし痛くも痒くもない。

ジョージアナは美女だと思うし同期として頼もしいけど、恋愛としてはタイプじゃないしお近付きになりたいとも思わない。

だって、あのハマス隊長が側に居るんだよ?

無理じゃない?

今だって、ほら…


「猛獣の間に女神が佇んでる…」


「副団長の熊みたいな姿も目立つけど、ハマス隊長の獅子みたいな視線もヤベェ。副団長大丈夫かな?何で女神は微笑んでいられるんだ…」


「普段はハマス隊長の視線が怖くて女神を直視出来なかったけど、直視したらしたでツラい…」


ハマス隊長は、あんなに分かりやすく独占欲を出してるのにジョージアナは気付かない。

というより、誰からでも恋愛的な好意になると気付かないんだよなぁ…

マルロウ隊長だって、下心しかないのに全く気付く気配がない。

そのくせ、ジョージアナが感情の起伏を表面に出すのは家族の事かハマス隊長の事だけなのだ。

尊敬だって言ってるけど、大好きだって見てるこっちにはバレバレだ。

その気持ちすら自覚しているか謎だけど。





ぼんやりと思考を飛ばしていると、リリからキャッ!という小さく可愛い悲鳴が聴こえた。

え!可愛い!とリリに視線を移せば、彼女はジョージアナを見つめている。

そちらへ視線を動かして、僕は硬直した。

ジョージアナがハマス隊長の首に腕を回し、彼の頭をその豊満な胸に抱え込んでいたのだ。

どうした?ジョージアナ…


「ところで、副団長?無理にお酒を部下へと勧めますとアルハラになりますので、お辞め下さいませ。パワハラにも該当する場合が御座います。わたくしは副団長にアルハラとパワハラの加害者になって頂きたいとは思いませんし、敬愛するハマス隊長をアルハラとパワハラの被害者にもしたくありませんの。それに、ハマス隊長はお酒に酔いますとキス魔になられますわ。そうしましたら、今度は隊長がセクハラの加害者になってしまいます!そんな事はわたくしが許しません!」


「…え?アル…?パワ…?」


「私が、被害者で…加害者…?」


キッと副団長を睨みつけたジョージアナは良く分からない言葉を一気に捲し立てる。

何を言われたのか理解出来ない副団長とハマス隊長だが、ジョージアナの気迫に押され戸惑うばかりだ。

見ている僕達だって困惑している。

リリもポカーンとしていた、可愛い。

だが、それ以上の爆弾をジョージアナは投げ込んだ。


「そもそも!キス魔になるならないに関係なく、ハマス隊長がキスをして良いのはわたくしだけに御座います!ハマス隊長は誰にもあげません!副団長にもあげませんからね!」


僕は彼女の発言に驚いて目を見開く。

ジョージアナ!?自分の恋心を自覚してないんじゃなかったの!?どれだけ熱烈な愛の告白しちゃってんの!?!?

副団長なんて驚き過ぎて小さく『はい』って返事しちゃってるじゃないか!

リリなんて隣で小さくキャフキャフ言ってる、え…めっちゃ可愛い。

良くやった!ジョージアナ!と、静かになった彼女へと視線を戻す。


「え…?嘘だぁ…」


彼女はハマス隊長に体を預けてスヤスヤと眠っていた。

このタイミングで寝ちゃう!?

確かに泥酔だったけども。

今まで何も発していないハマス隊長を見遣れば、彼は彼で鼻から大量の血を吹き出していた。

どんな地獄絵図だよ。


「うわぁ…」


「ひっ…!?」


隣のリリも気付いたようで、悲鳴を上げる。

他の人間も惨状に気付いたようで、ザワザワと動揺が会場全体へと広がって行く。


「副団長、申し訳ありませんがジョージアナを休ませたく思います。そのまま私も下がりますので宜しくお願い致します」


「お、おぉ…分かった…?」


鼻血を垂らしたまま真面目な顔で副団長へ言い募ったハマス隊長は、ジョージアナを横抱きにして会場を後にした。

大きな血溜まりと点々と続く血痕を残して。

その後、まさに広間は女神を獅子に奪われたと阿鼻叫喚の地獄絵図となり、慰労会は中止となったのだった。

僕のせいじゃない。

責任追及するならば、ジョージアナに強い酒を飲ませたマルロウ隊長の責任だ。





翌朝、ハマス隊長の部屋で目覚めたジョージアナは自分が裸だった事よりも、彼の脱ぎ捨てられた衣服が血塗れだった事に驚愕し心配のあまり号泣したそうだ。

後にそう語ったハマス隊長の顔は、牙を抜かれた獅子のようだったとだけ言っておこう。

まぁ、僕とリリの方が相思相愛のカップルだから気にしないけど。

最後までお読み頂き有難う御座いました!

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