08
翌朝客間から出ると、丁度バートさんも自室から出て来る所だった。
「おはよう御座います。昨日は何かすみません」
「おはよう、ジン君。そんな事気にしなくて良いんですよ。さあ、朝食にしましょうか」
昨日も気になったが、バートさんは独身のようで事務のお姉さんが食事を作ってくれていた。身の回りの世話はこの人がやっているみたいだ。
お姉さんに挨拶をして朝食を摂り、お礼を言って解体用の倉庫にバートさんと向かった。
「おお~どれも状態が良くて助かりますよ。先日のリザードマンの皮もあまりの状態の良さに防具屋がとても喜んでましてね、また宜しくと言ってましたよ」
「リザードマンは靴が出来次第また狩りに行くつもりです。それで、熊って売れるんですか?以前居た所の熊は売れなかったから、こっちでも同じだったら迷惑かなって」
「ほぅ、売れない熊なんて居るんですね・・・でも、この熊でしたら大丈夫ですよ。ほら、ここ見て下さい、首の周りに白い部分が有るでしょう?ホワイトネックベアと言って皮も牙も爪も売れますし、肉は少々安いですが問題なく売れますから」
良かった、売れなかったら如何しようかと思ってたよ。で、取引価格は兎が十匹で十万メル、猪が七匹で五十六万メル、熊が五匹で五十万メルで、合計百十六万メルだ。
所持金合計が三百万を超えてしまった・・・何に使ったら良いものか。取り合えず靴の方が如何なっているか聞きに行って前金でも払うかと、バートさんにお礼を言ってライアン修理工房へと向かった。
「お願いします!ここがダメだったら、もう他に受けてくれる所が無いんです!どうかお願いします!」
「いや、だから今請け負っている仕事が終わったらで良かったらって言ってるじゃない。それを放って君達の修理を先になんて出来ないって解って言ってるよね?うちみたいに小さな店だからこそ信用を失う事は死活問題になるんだ。修理は受けるが今の仕事が終わってからだ。それが嫌ならうちでは受けられないから出て行ってくれ」
店に入るとなにやら揉めているみたいで、三人の男性が頭を下げていた。しかも、俺が頼んだ靴のためにライアンさんは他の仕事は放っているらしい。ちょっと申し訳ないな。
「ライアンさん、こんにちは・・・その、俺の靴だったら後回しでも良いですよ。何か切羽詰ってるみたいだし」
「いや、ジン君だって狩りに必要なんだろ?それに、彼等の為にもならないからそこは曲げられないよ。頭を下げたりお金を積めば何とでもなるなんて勘違いされたら、他の店でも同じ事をするようになってしまうからね」
「そ、そうですか・・・ごめんな、君達のためって言われちゃ俺にはそれ以上何も・・・って・・・あれ?」
「ああっ!あんたこの間の!生きてたのかよ!俺達が帰るまで戻ってこなかったから死んだんじゃって話してたんだよ!」
なんかこの間会った冒険者達だったので、どう言う訳か聞く事にした。
ライアンさんに前金として五十万メルを払い、出来上がったらバート商会に連絡をお願いして彼等を連れて店を出た。結構な大金をポンと支払った俺に、何故か警戒するような目を向けていたが、気にせず昼時だし食事をしながらでもと言うと、彼等の仲間の女性達が働いていると言う食堂へ行く事になった。
その店は裏通りを入って少し行った所に有ったんだけど、まぁ、何だ・・・如何見ても食事をする所には見えない位外観が汚くて、入り口を開けたら変な臭いと小汚いおばはんに迎えられた。マジで嫌な予感しかしない。
店内も予想通り汚くて、店員はこの間会った女の子二人だけ、おばはんは入り口で会計係らしい。カウンターの向こうの厨房にはぼさぼさ頭のうらぶれたおっさんがいた。夫婦なのかね?
極め付けは昼時だと言うのに客が一人だけ。しかも、酔っ払っているのかテーブルに突っ伏して寝ていた。ここって食堂が本業じゃないよな。
「お前等何時もこんな所で飯食ってんの?信じらんねぇ・・・・・」
「なんだい!文句あんなら出て行きな!!」
お、おう・・・聞こえないように耳打ちしたんだけど聞こえたのかよ。
何かもう帰りたくなって来たが、女の子達の話も聞きたかったしと、我慢してテーブルに着いた。
で、女の子達が注文を聞きに来たんだけど、メニューが無い。黒パン一つ百五十メル、スープ一杯五百メル、飲み物はエールが一杯二百メルで、水が五十メルだと。客商売舐めてんのか?おばはんこっち睨んでるし。
取り合えず女の子達に一日幾らで働いているのかって聞いたらおばはんが、
「注文しないなら帰りな!あんた達は余計な事話すんじゃないよ!」
だと。これ、完全にあかん奴やろ。
間違い無く何か訳有りで他で働けないから兼業で冒険者やってるんだろうなと、俺も似たような経験が有ったので放っておけなかった。
「よし!お前等全員まともな仕事見つけてやるから付いて来い!暫くは俺が養ってやるから心配すんな!」
「ははははは!そいつ等がまともな仕事に就ける訳無いだろ!貧民の孤児なんか雇ってくれる所なんて有るもんかい!」
やっぱり思った通りだ。俺も山を出たばかりの頃、身分証の無い未成年と言う事で最低限の食事だけで働いていた事がある。あの頃は一般常識に欠けていたせいも有るけど、それを利用する汚い奴は何処にでも居るもんだ。
「なら連れてっても文句ねぇな?行くぞ!お前等も付いて来い!!」
「ちょっ!ちょっと、なに?!なんなのよ!」
困惑する女の子二人の手を引いて店を出ると男の子達が慌てて追いかけて来た。
「おい!あんた何すんだよ!待てって!」
「うるせぇ!良いから黙って付いて来い!」
ぎゃーぎゃー喧しい彼等を怒鳴りつけ、殺気を込めた目で睨んで黙らせ、俺が使っている宿屋に向かった。
「はぁ・・・怒鳴ったり睨んだりして悪かったよ。でも、お前等の事放っとけ無かったんだ。まぁ、取り合えず飯にしようぜ、養ってやるって言った手前、飯は食わしてやるし、住む所も心配しなくて良いからさ」
「あんたが何企んでんのか知らねぇけど、俺達ゃ騙されねぇからな!」
「お前は先ず誰彼構わず噛み付く所は直せ。でないと必ず酷い目に会うぞ・・・そう言や自己紹介がまだだったな。俺はジンだ、お前等は?」
宿屋の一階の食堂で話をしようと席に着いたが、彼等は席に着こうともせず俺を睨んできた。まぁ仕方ないかと、彼等に名乗ってから商業組合の会員証を見せて嘘は付いて無い事を確認させ、裏面を見せて金に困ってない事を解らせた。おいおい、そんなに見開いたら目玉がこぼれるぞ~。
ここまで読んで頂き有難う御座います。