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 大陸南西部の半島がメルクリウス聖皇国の国土だが、東、南、西部は海に囲まれており、北部はカルヴァドスの住んでいた険しい山脈となっているため他国との接点は北東部だけになる。が、そもそも建国当初はその北東部は現在ロードルデルフ王国の属国となったハイデガルド王国の国土だった。


 今より1300年程前のメルクリウス聖皇国は建国から間もない事も有って国自体も貧しく、兵力も乏しいためにハイデガルド王国から度々侵攻を受け、このままでは聖地を護る事は叶わないと首脳陣が頭を悩ませていた。

 最早聖地を諦め、南部へと逃げ延びて反撃の機会をうかがうしかないと言う所まで追い詰められた時、北部の山脈を超えて三十人程の傭兵団が訪れた。傭兵団の頭目は安住の地を探しており、北東の地を手に入れた暁にはその土地を我等の物とし、この国の貴族として受け入れて欲しいと、その代わりに代々教皇に忠誠を誓いこの国を守護し続けると言う契約を持ちかけた。

 当然ながら三十人程度でそのような事が出来る筈が無いと、反発する者も多かったが、元々自分達の土地でもなく、失敗した所で自国が痛手を受ける訳でも無いと言う教皇の一言で、彼らを送り出す事に決まった。


 ハイデガルド王国軍と傭兵団の戦闘は苛烈を極めた。特に頭目とその妻を含めた八人の隊長格の強さは別格で、中でも頭目の妻の魔法は尋常では無く、現在のオクタヴィス領を僅か一月で落としたのだ。


 時の教皇は傭兵団の功績に満足され、辺境伯として領地と家名を与え、彼らもそれに応え領地を守り続けた。オクタヴィスの家名は頭目の生まれた土地の言葉で八を『オクト』。白を『ヴァイス』と言う事からそれらを繋げてオクタヴィスとした。頭目の肌の色がこの地の民とは違って白く、それが目についたからだ。

 更にはこの活躍を教義に取り入れ、それまで主神一柱だったものから主神とその妻の副神を柱とし、その眷属として光と闇の神と、地、水、火、風の四大神の八柱とした。


 その後数代は皇族との関係は良好で、婚姻関係を結ぶなども有ったのだが、戦が減るとそれも無くなると共に他の貴族と変わらぬ関係となった。


 そして今から八百年程前に事件が起こる。代々受け継がれてきたオクタヴィス家の女性の魔法の強大さに時の教皇が恐れたのだ。‶あの力が自分達に向けられたら〟と。

 忠誠の証として妻とその力を受け継いだ者に魔道具の首輪を嵌めるか、爵位と領地の剥奪かの選択を迫られたオクタヴィス辺境伯は反意を示したが、妻はその身を自ら差し出し、夫と領地、領民を守った。『私が貴族として領地の政務に関わらなければ良いのです』と言ってオクタヴィス家から席を抜き、これからは家臣として領地を守ると、自らの手で首輪を嵌めた。


 そして教義から副神が外され今の七大神を祭る事となる。


 オクタヴィス家の歴史書の記載はここまでだが、この後は時の流れと共に人の記憶は薄れ、皇家の歴史書から抹消されたためにこの事実を知る者はいなくなる。マリーベルの一族は戦場での活躍から『オクタヴィスの魔女』と呼ばれるようになり、ハイデガルド王国から恐れられると言う事実だけが残った。




「何と言う事です・・・・・皇家の歴史にもこのような記載はありませんでした・・・・・これが事実だと言うのならオクタヴィス家の正統な後継者はマリーベルと言う事になります・・・償うには遅すぎますが・・・・・」


「そ、それが事実だと言う証拠は有りませんぞ!」


「お言葉ですが、レスター殿が自らの地位を貶めるような真似をする理由をお聞かせ願いたい。彼が自らの命と名誉を掛けて私に託したこの歴史書が偽りである筈が無いと断言致しましょう」


 驚愕の事実に頭を抱える教皇と受け入れられない貴族達に淡々と語るラインハルトの瞳には確固たる決意の光が宿っていた。


「皆様ももうお疲れのようですし、これ以上話す事も無いでしょう。聖下、ご決断を」


「・・・・・そう、ですね・・・ジン・マキシマとその妻、マリーベルに謝罪を。そして許されるならば助力を請い、彼の望む全てをその報酬としてこの国の命運を預けましょう」


「なっ!何を言っておられるのか解って御出でですか聖下!!」


「まったくです!その様な事を認めればあの男に全てを奪われますぞ!!」


 教皇の最終決断に異を唱え騒ぎ出す五名の貴族家当主を冷ややかな目で見渡すラインハルト。


「聖下、ご決断頂き有難う御座います。後の事はお任せを」


「・・・・・あの時・・・五年前にこの決断が出来て居れば良かったのですが・・・ラインハルト、後の事は頼みます」


「ハッ!メルクリウス聖皇国騎士団長として命ず!近衛隊、その者達五名を国家反逆の容疑で拘束!並びに聖都守備隊総員による家宅捜査を行う!休暇中の者を含めた全ての隊員を訓練場に集めよ!事は急を要する!今日明日中に全てを終わらせるぞ!!」


「「「「「ハッ!!」」」」」


「離せ!私が何をしたと言うのだ!ラインハルト卿!覚えておれよ!!」


 殺気を放つラインハルトの気迫に押されるように動き出す近衛達と巻き込まれるのを恐れ席を立ち部屋の隅へと逃げる貴族達。抵抗する手段を持たない五名の貴族は悪態を付きながら捕縛されていった。


「さて・・・皆様方には申し訳ありませんが、もう暫くこちらに滞在して頂く事になりますが・・・異論は御座いませんな?」


「・・・異論は無いが、彼らの懸念も解らぬでもないのだ・・・喩えこの国が助かったとしても、彼が五年前の件も含めて何を要求してくるのかを考えれば、嫌でも異論を唱えたくもなると言うものだよ。私も未だにあの件で彼に迷惑を掛けた事が、あの程度で済んで良かったと思っているのだ。実際、彼の‶力〟を持ってすれば、この国は疎か大陸全てを焼き尽くす事も可能なのだろう?」


「可能か不可能かで言えば可能でしょう。ですが、彼がそのような事を望んでいない事は貴方にもお解りでは有りませんか?レイモンド伯」


「ああ、重々承知しておるよ。だが、不安である事には変わりは無いのだ・・・一体彼は何を望むと言うのか・・・・・」


「彼の望みは『平穏な日常』それに尽きます。そして私達に出来る事は、彼の邪魔をしない事。ただそれだけです」


 薄い笑みを浮かべて語るラインハルトに狂気を感じ、これ以上は口を開くべきでは無いなと口を塞ぐレイモンド伯。


「聖下、お疲れでしょう。お部屋に戻られた方が宜しいかと」


「いえ、事が済むまで私は休むつもりは有りませんよ」


「では、私は指揮を執らねばなりませんので失礼致しますが、ここの護衛を数名と食事と飲み物を運ばせる手配はしておきますのでご安心を」


「はい。宜しく頼みますよ」


 ラインハルトが一礼をして部屋を出て行くと貴族達はほっと息を吐いて各々が座っていた席へと戻るのだった。

ここまで読んで頂き有難う御座います。

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