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ラインハルトが広間を出ると直ぐにこちらに向かって来る近衛達が目に入った。
「騎士団長殿。守備隊の手配完了いたしました」
「ご苦労。私はこれより指揮を執らねばならん。そなた達は護衛と見張りを頼む。それと食事と飲み物の手配もだ。ああ・・・それと、僅かでも犯意を見せたなら躊躇せず捕えよ。全ての責任は私が執る」
「りょ、了解しました!」
ラインハルトが近衛達に指示を出して宮殿を抜け、北の訓練所に着くと既に百名近くが集まっていた。
「団長殿!非常呼集とは一体何が有ったのです!?しかも非番の者までとは、唯事では有りませんよ!」
ラインハルトを見つけた当直の部隊長が詰め寄るが、ラインハルトは気にも留めずに指示を出した。
「各部隊長を集め全守備隊員を五つの班に分けろ。詳しい説明はその後にする。ああ、そこの君、エデン商会に居る私の部下に『何が有ってもそこを離れるな』と伝えて来て貰えるか」
「へ?・・・・・ハッ!了解しました!!」
走り去る守備隊員の背中を見送るとラインハルトは呆気に捕らわれていた部隊長に語り掛けた。
「・・・・・君は・・・君は神の存在を信じているかね?」
「は?・・・そ、それは勿論ですが・・・団長殿のお言葉とは思えません。本当に一体何が有ったと言うのです?」
「そうか・・・・・いや、私も勿論信じている。では、行動に移りたまえ」
「ハッ!」
神と言う存在が人の作りだした虚像であるならば、この国にジンを使わしてくれた存在は私にとって神でしかないのだと、ラインハルトは目を伏せて頭を軽く下げた。
「主よ、我等を正しき道へとお導き下さい」
この日、メルクリウス聖皇国建国以来初となる大粛清が行われた。対象となった五家は周囲を取り囲まれ、当主のみならず家臣や下働きの部屋にまで捜査の手は及び徹底的に調べられ、ほんの僅かでも不正の疑いが有れば全て証拠として取り上げられた。この捜査は明け方近くまで続き、押収された証拠書類は木箱に詰められ教皇達の居る広間へと運ばれた。
「これで最後ですか・・・良くやってくれましたね。守備隊には特別報酬を出しましょう。では、こちらの精査を・・・と、言いたい所ですが先ずは仮眠を取りましょうか。睡眠不足の頭では正しい判断は出来ないでしょうから」
山のように積まれた書類の精査と聞かされ青褪める 当主達だったが、仮眠が取れるだけましかと広間を出て行った。
「あ奴等、聖下を差し置いて出て行きおって・・・・・」
「まぁ、そう言わないで下さい。彼らと徹夜で話し合いましたが、彼らなりにこの国を思っている事が解りましたから」
「ジンも言っておりましたが、聖下は人が良過ぎます」
「痛い程に身に染みていますよ。ですが厳しいだけでも反発を生みます。今はこれで良いのですよ。さて、私達も行きましょう」
教皇が席を立ち、扉へと歩き始めるとノックの後にアンジェリカの声が聞こえてきた。
「父上、入っても宜しいでしょうか?」
「構いませんが・・・如何しました?それは・・・・・」
扉を開けて広間へと入ってきたアンジェリカの手には長さ2m近い八つの円環が付いた金色の錫杖が握られていた。
「許可なく宝物庫に入りこれを持ち出した事をお許し下さい。その・・・私にも良く解らないのですが、明け方近くに目が覚め、如何しても宝物庫に行かなければならない気がして・・・・・気が付いたらこれを手にしておりました」
「・・・・・神に導かれた・・・のでしょうか?神託を授かったのではないのですか?」
「解りません・・・・・唯、これを手放してはならない気がして・・・・・」
「良いでしょう。常にそれを持ち歩きなさい。おそらくはそれで何かが見えてくるのでしょうから。しかし、その様な物が宝物庫に有ったとは、私も知りませんでした。気になるのでしたら目録を確認してみると良いでしょう」
「はい、有難う御座います」
錫杖が重いのか、長い物を運んだ経験が無いのか、はたまたその両方か。ヨタヨタ、フラフラと歩くアンジェリカと手を貸すべきなのかとおろおろと後に付いて歩く近衛達を温かい目で見送る教皇とラインハルトだった。
* * *
何時ものように日の出と共に目が覚めた。最早この癖を直す気は無いから良いけどね。
「・・・・・ん~・・・なかからそとへ~・・・そとから・・・なかへ~・・・・・むずかしぃよ~・・・・・」
隣で眠る鈴華が妙な寝言を言ってる。荷車の荷物でも入れ替える夢でも見てんのかね?マリーと鈴華を起こさないように部屋を出ると調理場へと向かった。
「おはよう、ライエル。相変わらず早いな」
「おはよう、ジン兄さん。それはお互い様でしょ」
ライエルと顔を見合わせ笑い合い調理の手伝い・・・をしようと思ったけど、手際が良過ぎてやる事が無かったのでリビングでお茶を飲んで時間を潰した。
「おはよう、ジン兄ちゃん。ああっ!ライエルずるい!朝食は私達で作るって言ったのに!」
「も~ライエル兄ぃ張り切り過ぎだよ・・・・・」
「良いだろ今日ぐらい。明日からは何時も通り朝食は二人に頼むからさ」
「しょうがないなあ。まぁ、出遅れた私達も悪いけどさ」
「ふぁ~・・・なあに、皆随分早いのね。早起きなのはジン位だと思ってたわ」
「ベルさん、おはようございます。昨日聞くの忘れたんだけど、嫌いな物とか有りますか?」
「あら、気が利くじゃないライエル君。あたしは好き嫌いとか無いから気にしないで良いわよん。って言うかあたしの口調気にならないの?あんた達」
「え、俺は別に気にしないけど・・・ミリーとエレナは?」
「今更って言うか、ジン兄ちゃんが連れて来たんだし普通とちょっと違うくらい・・・ねぇ」
「そうよねぇ」
「おい、それだと俺が連れてきたお前等も変だって事になるけど良いのか?」
他愛ない冗談で笑い合い、朝食の支度が整う頃にはマリーと鈴華に晶とハヤトもやって来たので談笑しながら朝食を摂った。
「ああ、そうだ鈴華。何時も通り街に居る間は型の稽古だからな」
「はい、とうさま。むふふ・・・カルヴァドスさまにも見てもらうんだ~」
「そんなに気に入ったの?カルヴァドス様の事」
「もちろんです!だって、かっこいいじゃないですか!」
「かっこいいねぇ・・・解らないでもないけど、いつも寝てばかりだからなぁ」
「がりょうって言うんですよ、ミリーねえさま。そうですよね?とうさま」
「おおっ?!何処で聞いて来たんだ、そんな言葉。まぁ確かに臥竜ちゃあ臥竜だな。伏龍とも言うけど・・・あ~どっちかって言うと、能ある鷹は爪を隠すの方が合ってるかもな」
「へぇ~そんな言葉が有るんだ、知らなかったわ。スズカちゃん賢いわねぇ~」
「えへへ・・・ありがとうございます」
「・・・・・仁、私が見学しても構わないだろうか?」
「ああ、構わないぜ、別に秘伝とかじゃないし」
食事を終えて鈴華とハヤトを抱いた晶を連れて裏庭へと向かった。
ここまで読んで頂き有難う御座います。




