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気を失ったハルとベルをテントに転がして夕食の準備に取り掛かった。何時もはマリーが作っているのだが、五年振りの再会だし、ハルに思い出の料理でも作ってやろうかなと。
「お前達の分も用意するから食ってけよ。エデン商会の警備で世話になったしな」
ハルの連れてきた部下達はエデン商会周辺の警備をしてた騎士達だった。え~っと全部で十人か、もう一つテーブル出さないとだな。魔導コンロに簡易オーブンを乗せて火を付けてから下拵えをしていると。テントの中が騒がしくなってきた。如何やら二人とも起きたようだ。
「ちょっとジン!何でこいつとあたしを同じ所に寝かせたのよ!」
「まったくだ。こ奴に抱き着かれた私の身にもなって欲しい物だ。今だに鳥肌が収まらん」
「グダグダ抜かすな、その辺に放置されなかっただけでも有難いと思え。みっともない殴り合いしやがった癖に」
「「グッ!」」
痛い所を付かれて口籠る二人。
「ハル、お前は高い機動力を生かした一撃離脱が理想だ。自分より明らかに重く耐久力の有る奴を正面から受け止めてどうすんだ。ベルが別の技を使ってたらお前の負けだったぞ」
俯き悔しそうな表情を浮かべるハルと。いい気味だと言わんばかりの表情でハルを見下ろすベル。
「ベル、今回の勝負は一見引き分けだが、内容はお前の負けだ。自分の技で自滅なんてみっともない真似しやがって、ハルが先に起き上った時点でお前の負けだった」
「なっ!なんでよ!相打ちは相打ちでしょ!あたしは負けてなんか」
「い~や、お前の負けだ。つーか、次は手ぇ抜いてくれると思うな。お前は全力だったけど、ハルはあくまでもお前を‶教育〟するつもりだったんだぞ」
「いや、ジン、結果として引き分けたのだ。そこは私の落ち度だと受け止めている。尤も、次は無い・・・がな」
「・・・チッ・・・・・いいわ、今日の所は負けといてあげる。けど、次は負けないから覚えときなさい!」
ハルの顔が凶悪に歪み口角が吊り上がる。ベルも自分が勝てないと解っているけど、認めたくないんだよな。まぁ、でないと強くは成れないから、これも一つの才能なんだよな。
仏頂面で椅子に座ったベルに鈴華が話しかけている。慰めていると言うより気を紛らわせている感じの話の内容だ。俺の子とは思えない程気の利く子だ。きっとマリーに似たんだろうな。
そんなこんなで夕食の準備も整った。テーブルに置いた料理を見てハルが目を細める。
「懐かしいな・・・・・あれからもう五年か・・・ジン、あの日々が今の私を支えているようなものだ。そなたには本当に感謝している」
「よせよせ。俺にとっても初心に帰れて良い経験になったしな。さぁ食べようぜ」
俺とマリーで兎の丸焼きを取り分けて配って行く。雑木林を駆け回り、新種の魔物と間違われて討伐隊と一悶着有った思い出話をして笑い合い、楽しい時間は過ぎて行った。
夕食後、皆が寝静まった後に俺はハルにこの五年間にこの国で有った事を聞いた。
俺達が出て行ってから解放された教皇達皇族とガルバデスは政務が立ち行かなくなるためにリヒテル・オクタヴィスに追従した貴族達を処断出来ずに罰金刑で済ました事を後悔している事。特に教皇は国の最上位でありながら暴走する貴族達を止める事が出来なかった事に今でも心を痛めていると言う。
「この国・・・いや、世界的に安定した時期が長かったために聖下の国の象徴としての求心力が落ちていたのだと思う。先代、先々代様の時代も特に何かが有ったと言う訳でも無く、皇族としての‶力〟を見せる事が無かったためにリヒテルの言に乗せられてしまったと言う訳だ」
「まぁ、国を治めると言う点では向いて無いよな。アーヴァインは人が好過ぎるんだよ。それで、オクタヴィス領は・・・レスターはどうなった?」
「ああ・・・レスター殿はロードルデルフ王国軍が攻めて来た時に殿を務めてな・・・その・・・行方不明だ・・・・・状況からみておそらくは・・・・・」
「そうか・・・・・残念だよ。真面そうな貴族だったし、ちゃんと話をしてみたかったんだよな。奥さんと娘さんは?」
「奥方の御実家の聖都の西の領地に帰られた。それで、レスター殿から伝言を言付かっている。『約束を守れそうになくて申し訳ない』と言っておられたが、何か約束を交わしたのか?」
「ああ・・・俺が帰って来た時は歓待してくれるとか言ってたな・・・そんな事気にしなくて良いのによ・・・・・」
貴族として、領主としての役目を全うした。と言えば聞こえは良いが、死んじまったら終わりだろうが。敵を取るつもりは無いが、その生き様には敬意を表して状況によってはオクタヴィス領を取り返しても良いかな。まぁ、何にしても二年の時間を稼がにゃならんからその後になるけど。
後はアルバートさんが逃亡幇助で罪に問われてないかを聞いたが、そこは教皇が俺の関係者に危害を加えればカルヴァドスが黙ってないと言って上手く収めたらしく、特に嫌がらせを受けたとかも無いそうで安心した。
後はアンジェリカだが、あの日以来宮殿を出る事が殆ど無くなったのだそうだ。外に出れば俺の兄弟達に逢うかもしれないと、合わせる顔が無いと言って引き籠っているらしい。
「特に今は戦時中と言う事も有って皇族は聖都を離れられんのだ。気晴らしに聖都の散策に誘ってみた事も何度かあるのだが首を横に振るばかりでな。可能ならば気にかけてやって貰いたいのだが・・・・・」
神託を受けた巫女として貴族達を含めた国民からの期待も大きく、その重圧は計り知れない。まだ二十二歳の女性に背負わせるには重過ぎるって訳だ。誰か支えてやる存在が必要だろ・・・あれ?
「そういや、アンジェリカには婚約者とか居ないのか?普通は早いうちに決まってるもんなんじゃねぇの?」
ハルもだけど貴族とかって子供の頃に婚約者が決まってる事が多いって本で読んだ気がする。
「・・・・・ハァ・・・忘れたのか?貴様が候補に挙がっていたであろうが。それまで候補に挙がっていた者達は全て辞退して、今現在歳の合う者は殆ど残っていない。残っている者は身分が合わない下位の貴族だけなのだ」
そういやそんな事も有ったなと、苦笑いで誤魔化す俺だった。藪蛇だったわ。
ここまで読んで頂き有難う御座います。




