74
翌早朝、軽い朝食を取った後聖都に向けて出発。暫く進み、途中で南下して更に進むと雑木林の切れ間に街の外壁と東門が見えて来た。門が閉まっているのは戦時だからだろう。ハルの部下の一人が馬を走らせて開門を促すと門が開いていく。門から覗く街並みは以前と変わらず、懐かしさが込み上げて来た。
街に入ると俺と言うか、ハル達を見てギョッとした顔をした街の人達が何やらひそひそと話をしているのが見え、次第にその輪が広がって行った。
「それで、貴様は皆の下へ向かうのか?」
「ああ、先ずは皆の所だな、明日は世話になった人達に挨拶回りかな」
「解った、聖下にはそう伝えておく。お前達はこのままジンと共にエデン商会へ向かい周辺の警護だ!私は宮殿へ向かうが、久し振りの団欒に水を差すような者が居れば排除せよ!一切の遠慮はいらん!!」
「「「「「ハッ!!」」」」」
俺と並走していたハルが部下達に指示を出して宮殿へと馬を走らせて行く。別にそこまでせんでも家に喧嘩売って来るような奴が居るとは思えないんだけどなぁ。
南地区に入り見知った建物が増える度に鼓動が早くなる。早く会いたいと言う逸る気持ちと、五年と言う月日が皆を変えてしまい拒絶されてしまうのでは、と言う不安が混ざった何とも言えない気持ちが心を搔き乱す。屋敷と門が見えるとその不安は一層強くなりハンドルを握る手に力が籠った。
あいつらが変わってしまったなんて有る筈が無い。いや、有るとすれば良い方向に変わったに決まっている。様々な困難を乗り越えて一回りも二回りも大きくなってる筈だと思いながら開いている門から中庭に入ると、そこには沢山の人がこちらを向いて並んでいた。
「おお!本当だ!ジンさんが帰って来たぞ!!」「ジンさんお帰りなさい!!」「うおおおぉぉぉ!!英雄様のご帰還だ!!」「おい!街中に知らせに行こうぜ!!もう何も心配いらないってよ!!」「そうだそうだ!皆で手分けして触れ回るぞ!!」
何だよこれ・・・五年、五年だぞ・・・五年も離れてたってのに・・・俺の事忘れてなかったのかよ・・・・・
「・・・ああ・・・そうだ、帰って来たぞ!俺が来たからには何も・・・何も恐れる事はねぇ!ドラゴンスレイヤーのジン・マキシマが全て終わらせてやるから!!だから・・・だから暫くの間俺に時間をくれ!ロードルデルフが諦めるまで何度でも追い払ってやるぜ!!」
「「「「「おおおおぉぉぉぉぉぉ・・・・・!!」」」」」
集まっていた人達が俺の横を歓喜の声と腕を上げながら笑顔で走って街中に散って行った。残ったのは女性が三人と男性が一人とその後ろに竜が一体だ。
「おい!カルヴァドス!てめぇが俺の事知らせやがったな!釣られて大見栄切っちまったじゃねぇか!俺はあんまり目立つの好きじゃねぇんだよ!」
「グハハハハ!!五年も待たせた罰だ!甘んじて受けるのが筋と言うものでは無いか?!それよりも、先にこ奴らに言う事があるであろう?」
「解っとるわ!!ったく・・・・・ただいま。皆・・・すっかり一人前の顔つきになってて驚いたよ。俺が居ない事で苦労掛けたな」
「・・・お・・・お帰りジン兄さん・・・・・お、俺・・・帰って来たら言いたい事って言うか・・・聞いて欲しい事が沢山あって・・・その・・・あの・・・・・お、おれ!頑張ったんだ!!ジン兄さんが帰って来た時に褒めて貰いだぐっでぇ!がんばっだんっだあああああぁぁぁぁ!!」
「馬鹿だな・・・褒める所か感謝しかねぇよ。帰る場所を護ってくれて有難うな。ミリーとエレナもすっかり見違えたよ。もう子供扱いなんて出来ねぇな」
「あたし達なんて・・・ライエルに手を貸しただけで・・・・・お帰り、ジン兄ちゃん」
「ジン兄ぃ・・・お帰り・・・・・」
泣きじゃくる三人に近寄り頭を撫でて安堵の息を吐いた。良かったと、見た目以外は何も変わっちゃいなかったと。
「お前等に紹介したい人が居るんだけど、その前にそちらの方は何方さんで?あ、ライエルのお嫁さん?」
ライエルの斜め後ろに居た見た事の無い赤ん坊を抱いた美人に話し掛けた・・・んだけど
「おい、冗談はやめろ、仁!私にだけその態度は無いだろう!!」
なんて怒鳴られたんだが、誰だよと首を傾げた。
「は?・・・・・・・・・・・・え?その声・・・晶・・・なのか?」
見た目だけじゃなくて気配も違うんだけど?
「何を言っとるんだ!私以外の誰に見えると言うんだ!!ふざけるのも大概にしろよ!!」
「いやいや、ねーだろ。晶ってのは何処から見ても男にしか見えないガサツな奴で、髪も長いと面倒だからって適当に自分で短く切るような奴だから」
「そんな昔の話をするな!今はミリーかエレナに切り揃えて貰ってるんだ!伸ばしているのは・・・その・・・・・ら、ライエルが長い方が良いと言うから・・・・・」
「解った。お前は晶だと言う事にしておこう。だとするとだ、その・・・気になる事があるんだが・・・その抱いてる赤ん坊は・・・ま、まさか・・・・・」
「ん?ああ、私とライエルの子供だ。名はハヤトと言う」
「なあっ!・・・なんてこった・・・・・すまんライエル・・・俺が居なかったためにお前をとんでもない目に合わせてしまった・・・・・」
「え?いや、別に無理矢理とかじゃなくって・・・・・」
「失礼だな!本当に失礼な奴だな!!お前は私を何だと思ってるんだ!!」
「俺の中で晶と言う人物は、武術以外は何も出来ないダメ人間だけど?」
「だ・か・ら!昔の話は止めろと言ってるだろうが!!」
「ジン兄ちゃん、今は家事の殆どをアキラさんがやってるんだよ」
「ははははは・・・無い無い。それ何処の世界の晶だよって話だ。晶が家事とか、常夏のこの国で雪が降る以上に有り得ねぇよ・・・・・え、マジで?」
「「「うん」」」
「フフフフフ・・・私も成長しているのだよ。見ろ!胸だって一回り大きくなったのだ!!」
ドヤ顔で胸を張る晶に「それは子供を産んだからで、直ぐ元に戻るだろ」と言ってやろうかと思ったが、もう暫く夢を見させてやる事にした。ハルの言ってた『少々面白い事になっている』ってこれの事かよ。これじゃ『面白い』じゃなくて『おかしな』事だろ。ってか、これだけ騒いでも起きない赤ん坊って・・・間違いなく晶の子だわ。
ここまで読んで頂き有難う御座います。




