67
「あ・・・当たった・・・・・」
ジンがこの国を去って一年目にしてアキラに一撃を入れる事が出来た。騎士団長としての仕事の合間にだが、ジンの教えを可能な限り守り訓練を続けた成果が漸く出せたのだ。
「ふむ・・・では、私も身体強化を使うとするか」
「な・・・なんだと・・・・・今まで使って無かったと言うのか?!」
「うむ、元々使えなかったと言うのも有るが、フィリップに教わって二カ月程前に使えるようになったばかりなのだ」
何と言う事だ・・・漸く追いつけると思っていたのに。
「クッ・・・一体何時になったら・・・・・・」
「焦らぬ事だ。日々の積み重ねこそが最も重要な事位解っているだろう。それにだ、私に勝ったと言うのは得手である棒術を下してからにするんだな」
以前2m程の棒を自在に操る所を見せて貰ったが、今の私では剣や槍を使っても勝ち筋が見えない程に洗練された動きだったのを覚えている。あれに勝つか・・・・・・いや、勝たねばならんのだ。今まで通り速度と体力を重点的に鍛えて行けば必ず追い超せると言っていたジンの言葉を信じよう。
この後身体強化を使ったアキラに動けなくなるまで転がされ続けた。これ程の強さをもってしても届かない父上の真の実力とはどれ程の物なのだろうか。規格外のジンの事は置いておいてもアキラを超えると言うのが如何にも信じられない。もしかしたら父上には何か別の‶力〟が有るのではと思い始めるようになった。
そんなある日の事だ。夕食時に珍しく父上が話し掛けて来た。
「ラインハルトよ・・・そなたエデン商会へ足蹴く通っているそうだが・・・その・・・・・上手く行っているのか?」
「あっ・・・ご存じでしたか・・・正直、芳しくありません・・・己の不出来さに恥じ入るばかりで・・・・・」
「そうか・・・だが焦るでないぞ。先ずは真摯に向き合う事だ。己とも、相手ともな」
「はい・・・御助言有難う御座います・・・・・そうだ!父上に逢って頂きたい方が居るのですが、お時間を頂けないでしょうか?」
私では父上の真の実力を引き出せなくてもアキラならば・・・うむ、我ながら良い考えだ。
「む・・・そ、そうか。では、先方の都合の良い日を聞いて来るがよい。私の方で先方に合わせよう」
「有難う御座います!四日後の週の中日に約束を取り付けてありますので、それで宜しいでしょうか」
「お、おお、解った。では、その日に出向くとしよう」
その時私は、父上の持つ‶力〟が見られると、アキラを超えるための切欠が掴めるのではと舞い上がっていて、父上が溢した呟きに気が付かなかった。
そして当日。父上と共にエデン商会へと向かった。一時期住んでいた屋敷だ。勝手知ったる他人の家と言った感じで屋敷の扉を開き中へと入った。
「・・・・・何と言うか、慣れていると言うか、我が家のように振舞うのだな」
「あ、申し訳ありません。ここの住人達とは友人と言いますか、家族のような付き合いをしている物でつい」
流石に父上の前では拙かったか。貴族たるもの礼儀を弁えねば。
「あ、ベルテール様、いらっしゃい。アキラさんなら裏に・・・・・あ、えっと、ガルバデス様もようこそいらっしゃいました」
「うむ、ライエル君だったな。そう畏まらんでも良いぞ。何時も息子が世話になっておるようだし、何より例の件では私の力が足りずに申し訳なかった」
「えっ・・・あ、いえ、そんな・・・・・その、あ、アキラさんなら裏庭でお待ちです。直ぐにお茶の用意をしますから、先に行って待ってて下さい」
「解った。何時も助かるよ、ライエル。では、父上、参りましょう」
屋敷の中を通って裏庭に出ると、アキラが武術の型を舞っていた。
「父上、彼女が逢わせたかった方で、アキラと言います。如何です、見事な物でしょう?」
「ほう・・・確かに見事な腕前だ・・・・・しかし・・・あのような・・・いや、何でもない」
「待たせたな、アキラ!今日はお前に逢わせたい人を連れて来たぞ」
私が声を掛けるとアキラはその動きを止めて深呼吸をしてから振り向いた。
「・・・・・ふむ・・・初めまして、滝沢流古武術師範、滝沢晶と申します。以後お見知りおきを」
「ガルバデス・ヴェルテールと言う。こちらこそ宜しく頼む」
いつになくアキラの表情が硬いな。父上もだが、お互い強者として何か感じる物が有ると言う訳か?
「父上、アキラと手合わせをしてみては如何ですか?」
「む・・・・・良かろう。そなたが気に入る程でもあるし、私も興味が湧いた。宜しいかな?アキラ殿」
「如何言うつもりかは解らぬが、師範として挑まれて引く訳にはいかんな」
「クックックッ・・・良い、良いな。武人たる者そうでなくてはいかん。得手は何だ?好きな獲物を使って全力で掛かって来るが良い!ハハハハハ!!」
「では、お言葉に甘えて使わせて貰うとしよう」
アキラが武器を取りにいった。なんだ、何か変だな。アキラらしくないと言うか、初めから胸を借りるつもりでいるのか?
アキラが中段に構え、素手のままの父上と対峙した。が、やはり変だ。何と言うか、攻めあぐねている・・・のか?
父上が前に出るとアキラが下がる。一定の間合いを保ったまま移動を続けているだけで、どちらも攻撃を仕掛けない。いや・・・仕掛けているのか?父上の間合いに入るのをアキラが嫌っている?アキラの方が間合いは広い筈だが、如何言う事だ?
「クッ・・・・・申し訳ない。私では如何足掻いても太刀打ち出来る方では無かったようだ」
「えっ?!ま、待ってくれアキラ!まだ何もしていないではないか!!一体如何言う事だ!お前らしくないだろう!!」
「ふぅ・・・解らなかったのか?ラインハルト、私が如何打ち込んでも全て交わされて逆に攻撃を食らっていた筈だ。ガルバデス様は私の祖父と同等かそれ以上の腕の持ち主だぞ」
「アキラ殿、その若さで良くそこまで鍛え上げた物だ。だが、決定的に足りぬ物が有る・・・・・そなた、多勢を相手にした事も、人を殺めた事も無いな?そなたの技は綺麗過ぎるのだよ。型の中には無い、実戦でしか身に付ける事が出来ぬ物が有るのだ」
「はい・・・・・私の生まれた所は魔物すら居ない平和な所でしたので・・・・・」
「そうか・・・だが落ち込む事は無い。そなたが望めば騎士団の訓練に参加する事を許可しよう。それと・・・我が家に嫁に来ぬか?息子もそなたを気に入っておるようだしな」
「「はぁ?!」な、な、な、何を言っているのですか父上!私とアキラはそのような関係では・・・・・」
「ハハハ・・・恥ずかしがらんでも良い。休みの度に通っておるのだ、そう言う事であろう?お前もいい歳だ、身を固めてもよかろうて」
「ら、ラインハルト・・・お前、私の事をそう言う目で見ていたのか・・・・・」
「ち、違う!断じて違うぞ!!私の好みはこんな前か後ろか解らぬような男女ではない!!」
「ほぅ・・・貴様・・・今自分が何を言ったのか解っているのだろうな?」
この日からアキラとの訓練は熾烈を極める事となった。父上の勘違いから酷い目に合う事となったが、結果的に半年後にはアキラに追い付く事になった事だけは感謝しても良いのかもしれない。
そしてその一年後に晶とライエルが結婚すると聞いた時、私は・・・いや・・・何も言うまい・・・世の中には触れてはいけない事が有ると学んだのだから。
ここまで読んで頂き有難う御座います。




