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 ジン兄さんが家を、聖都を出て半年が経った。俺は弟妹達を纏めつつも何とかエデン商会を回していた。その陰にミゲルさんやバートさん達大人と呼ばれる人達の経験に基づくあれこれが有ったのは仕方の無い事だと思う。


 冒険者だった頃、孤児だからと舐められないように肩肘を張っていた。一人だった時はまだ良かった。騙されても何とか食っていけたからだ。でも冒険者組合でミリーと再会し、翌年には他の弟妹達が俺を頼って来てからは本当に大変だった。頼れる者も無く、騙されないように、弱みを見せないように、弟妹達の不安が少しでも無くなるようにと日々戦い続けた。


 そんな時にジン兄さんに逢ったんだ。


 最初の印象は『変な奴』だった。初心者向きの狩場とは言え、バッグ一つで武器も持たずにふらついているとか普通は逃亡中の犯罪者としか思えない。だからあの時の俺の対応は間違って無かった筈だ。尤も本当に逃亡中の犯罪者とかだったら俺達は生きていなかっただろうけど。


 『同じ孤児で、自分にも覚えが有るから放って置けなかった』なんて言われて衣食住だけでなく仕事まで与えてくれた。幾つもの変わった料理を教えてくれて、料理人として自信が付き始めた頃に、ジン兄さんは聖都から出て行く羽目になった。俺達はこの件で教皇聖下を含む皇族達に不信感を抱いている。ジン兄さんを追い出した貴族連中で処刑された者が居ないからだ。首謀者のオクタヴィス家の長男は死亡したが、それだって教皇聖下の下した物では無く、詳しくは知らされてないけどジン兄さんが何かした結果らしいし。


 ドラゴンを下してこの街の守護をさせると言う多大なる功績を成した人を簡単に切り捨てた貴族連中が今も大した咎めも無くのさばっているのが気に入らない。ジン兄さんに取り入ろうとしていた連中が殆ど店に来なくなったのは俺達にとって有難かった。売り上げはかなり落ちたけど、ミゲルさん達が仕入れて来る魚貝類の売り上げだけでも十分やっていけてるから何の問題も無いし。


 アンジェリカ様はあれ以降一度しか来ていないし、それも教皇聖下からの謝罪の手紙を届けに来ただけだ。明確に俺達の味方と言える貴族はラインハルト様位だろうけど、騎士団に復帰する事になり実家に帰ってしまった。近々騎士団長に就任すると言う話を先日聞いた。家が、俺達が無事なのはカルヴァドス様が居るからだと思ってる。俺達からジン兄さんを奪った貴族連中なんて、お客じゃなかったら口も利きたくないよ。


 カルヴァドス様は食事以外で起きている所を殆ど見てない。『人の暮らしを見て回るのが楽しみだ』なんて言ってたけど、ジン兄さんの事気に入って付いて来ただけなんだよ、多分。彼が居なくなったら俺達は如何なってしまうのだろう。そう思うと怖くて仕方がない。彼の為にも、俺達の為にも、せめて食事だけはと出来るだけ美味しい物を作る。それが俺の出来る唯一の事だ。


 更に三か月が過ぎた頃。ニックが家を出ると言って来た。ケビンさんの娘のミリアちゃんと結婚してケビンさんの手伝いをするのだと言う。正直、寂しさを感じたけど、おめでとうと言って皆でお祝いをして送り出した。


 皆少しづつ変わり始めている。ヒースは組んでいたニックがバート商会を辞めて一人になったので、配達では無く解体工のドラインさんに師事するのだそうだ。

 ミリーとエレナが落ち込んでいたのは数日だった。最近はカルヴァドス様以外の食事は二人が作ってる。ジン兄さんに頼りきりだった自分達がジン兄さんが居なくなった事でこれからの事を自分で考えて動き始めたんだ。ジン兄さんが帰って来た時に自慢出来るように。


 そんな中、一人だけ変わらない人が居た。アキラさんだ。


 彼女は正義感が強く真面目だが、それは表の顔だ。裏の顔、と言うか休日はだらけきっていて、お菓子を摘まみながらゴロゴロしている事が多い。食事は勿論、洗濯等の家事は一切やらない、と言うか出来ない。乾いた洗濯物を畳む事は出来るが仕舞う時にはぐちゃぐちゃになっている。自分の部屋の掃除も出来ない程だ。時々休日にラインハルト様と手合わせをしている事も有るけど、基本的に自堕落極まりない生活を送っている。


「ライエルく~ん・・・おつまみ無くなった~・・・なんか作ってくれ~・・・・・」


「アキラさん最近飲み過ぎだよ。少し控えた方が良いって」


 ジン兄さんが居た時はお酒を飲まないジン兄さんに合わせて俺達も飲んでなかったけど、最近は休日前夜に飲む事が増えた。ジン兄さんに続いてニックが結婚した事でアキラさんがヤケ酒を飲み始めたのが切欠だ。

 この日は何だかんだで遅くまでアキラさんに付き合わされた。


「ライエル兄さ~ん。朝飯出来てるよ~」


 う・・・あったっまいてぇ・・・・・ちょっと飲み過ぎたみたいだ。


「ライエル兄さん起きた?珍しいね、何時も早いのに。悪いけど先に食べるね、仕事遅れちゃうからさ」


 部屋の扉を叩く音とヒースの声で目が覚めた。けど、体が動かない。


「・・・・・な・・・なんじゃこりゃああああぁぁぁ!!」


 何故かベッドでアキラさんに抱きしめられていた。おそらくお互い全裸で。


「えっ!なに?!如何したのライエル兄さん!!・・・・・・え・・・・・・ご、ごめん!!」


「一体何騒いで・・・・・ライエル・・・あんた達そう言う関係だったのね・・・・・お邪魔しました・・・・・」


 俺の叫び声に非常事態かと勘違いして扉を開けたヒースに見られた上に、ヒースが扉を閉めずに逃げてしまったためにアキラさんを起こしに来たのであろうミリーにも見られてしまった。最悪だ。


「ま、待ってくれ!俺は無実だ!!昨夜の事は覚えてないから何とも言えないけど・・・い、いや、俺はヤッてない!って言うか何で寝てられるんだよこの人は!!アキラさん起きて!起きて説明を!!」


 誰か・・・ジン兄さん・・・助けて・・・・・


 俺の叫びも虚しく扉の締まる音が響く。ジン兄さんが居なくなった事の大きさを痛感した俺だった。

ここまで読んで頂き有難う御座います。

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