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「おい、俺に用が有るのはお前か?違うってんなら口を挟むんじゃねぇよ」
前に出てきた護衛を睨みつけて問いかけると、お茶を飲んでいた男がカップを置いて溜息を付いた。
「ふぅ・・・・・やはり平民は礼儀がなっておらんな。しかも誰に口を利いているのかも解っておらんとは、無知にも程が有る」
「ああ・・・良~く解った。オクタヴィス家とか言ったな。あんたら一族は出入り禁止にするから今すぐ出て行ってくれ。この件は教皇聖下にも報告して責任取って貰うから、下手すりゃお前の家は取り潰しだ。今の内に両親に如何謝るか良く考えとくんだな」
「全く・・・ドラゴンスレイヤー等と煽て上げられて調子に乗りおって・・・父上も聖下も何を考えておるのか・・・人間が一人でドラゴンを倒せる筈など無いと言うのに・・・大方弱っている所を偶々見つけたかして倒したのであろう?この程度の嘘も見抜けぬとはな・・・・・私を下ろして詐欺師を婿に取るなどと・・・耄碌し過ぎだと思わんか?ギルバート」
「全く持ってその通りで御座います、リヒテル様。領地に帰り次第、御館様には引退するよう進言致しましょう」
ん?何だこいつ、この護衛の奴に乗せられてんのか?あれ?親父が俺を婿にって・・・・・
「ああっ!解ったぞ!お前北東に有る国境沿いの領地の貴族か!!最初の誘いも、二回目のも断っただろうが!一体何しに来やがったんだよ!」
「フンッ!漸く気付いたか。何しにだと?貴様の化けの皮を剥しに来たに決まっている。父上の決めた事とは言え、貴様に可愛い妹をくれてやる気はない!何も知らぬ無知な貴様に教えてやる。良いか、我がオクタヴィス家は建国以来、一度たりとも戦で負けた事は無い!!そして・・・マリーベル!こ奴にそなたら一族の力を思い知らせてやれ!!」
「・・・・・畏まりました、ご主人様」
って、強いのはこいつの家じゃなくて、家臣じゃねぇか!!ほんと何なんだよ!良く偉そうに出来るな、恥ずかしくねぇのかよ!!しかもマリーベルって奥に控えてたメイドじゃねぇ・・・か・・・・・
俯き目を伏せていたメイドが、その顔を上げて目を開く。俺はマリーベルと呼ばれたその娘と目が合うと今まで感じた事の無い衝撃に支配され、目を逸らす事が出来なくなり彼女と見つめ合う事になった。
お互い視線を逸らす事が出来なくなり、一瞬が永遠のように感じた。
何だこれ?精神攻撃の類か?いや・・・真羅流は精神力で肉体を完全に制御する事を奥義としているから効く筈が無い。それに魔力も感じないし・・・一体これは―――
「何をしている!さっさとこやつを叩きのさんか!!」
外野が煩るせぇ。けど、そんな事は如何でも良い。今はこの娘から目を離したくない。ああ・・・そうか・・・これは―――
俺が前へと進むと彼女も前に出てきて、俺は彼女の手を取った。
「俺はジン。ジン・マキシマって言うんだ。マリーベルって言ったな。俺と・・・俺と結婚してくれないか?こんな時に気の利いた台詞一つ思い浮かばない武術だけが取り柄の無粋な男だけど、良かったら俺と家族になって欲しい」
「はい・・・私のような端女で宜しければ、貴方の傍に居させて下さい」
周囲から歓声と悲痛な叫び声が上がったが、俺は気にせず「ありがとう」と告げて、彼女を優しく抱きしめた。
別に美人だとか可愛い訳じゃないし、スタイルが良い訳でもない。西洋風の見た目の多い中で、少し東洋人っぽい感じがするだけで目立った特徴も無い。身長だって155cm位だし、髪も肩に掛からない位の長さでくすんだ金髪だ。それでも俺には彼女が輝いて見えたし、何者にも代え難い存在に思えたんだ。女性に心を奪われたのは生まれて初めてだった。
「ふ、ふざけるなあああぁぁぁ!!マリーベル!!貴様等一族が我等オクタヴィス家から逃れられぬと忘れたか!!代々取り立ててやった恩義を忘れたとは言わさんぞ!!命令だ!今直ぐそ奴を叩きのめせえええぇぇぇ!!」
マリーベルの顔が青褪めて行き数歩後ろに下がる。そして、その眼から涙が溢れて来た。何だ?逃れられないって如何言う事だ?
「・・・・・ジン様・・・私を殺して下さい・・・私はオクタヴィス家の命令には背けないのです。貴方を傷つける前に如何かその手で私を・・・・・」
「な、何を言って・・・そんな真似出来る訳ねぇだろうが!」
俺の叫び声と共にマリーベルの魔力が増大して行く。こ、これは・・・もしかして俺の中に居る奴と同種の‶力〟なのか・・・・・
「クックックッ・・・やれ!マリーベル!!貴様等一族の務めを果たすのだ!!」
マリーベルの右手がゆっくりと上がって行き、その掌に魔力が収束して行く。全身から溢れる膨大な魔力の中に別の魔力の揺らぎが見えた。あれは・・・首輪か!装飾品にしては武骨な革の首輪からマリーベル以外の魔力が動いている。あれがマリーベルを縛っているのか。
俺は間合いを詰めると左手でマリーベルの右腕を掴み天へと向け、右手で首輪を掴むとカグツチの‶力〟流して包み込んだ。
「如何だ?マリーベル。これで自由に動ける筈だ。その物騒な魔力を抑えるんだ」
「あ・・・この‶力〟は・・・じ、ジン様も私と同じ・・・・・」
マリーベルの魔力が萎んで行く。後はこの首輪を外すだけだと、マリーベルの右手を掴んでいた左手を離して両手で首輪を引き千切った。
「一体何の騒ぎだ、ジンよ。ほう・・・そなたと同種の力の持ち主か。これは面白いな」
俺と彼女の魔力が膨れ上がった事に気が付いてカルヴァドスが飛んで来た。比喩じゃなくて空を飛んでだ。
「ああ、大した事じゃねぇよ。この娘は俺の嫁になる娘だから、ちょっかい出すんじゃねぇぞ」
「解っておる。そなた程では無いが、下手にちょっかいを掛ければこちらが火傷をする事になりそうだからな。ハハハハハ!」
「さて・・・マリーベル。いや、マリーって呼んで良いか?俺の事もジンって呼んでくれると嬉しい。こいつは家の居候でカルヴァドスって言うんだ。他の家族にも紹介するから一緒に来てくれ」
「で、この剣を構えた奴らは我の好きにしても良いのか?」
「ん?ああ、忘れる所だったぜ。おい、今日の所は見逃してやるから出ていけ。後日てめぇの家まで行ってやるから先に帰って領主にきっちり話をしとけよ。そっちの出方次第でオクタヴィス家は無くなるってな。カルヴァドス、俺はマリーを皆に紹介したり家の案内が有るから、そいつらは追い払っといてくれ・・・・・大怪我はさせないようにな」
「クックックッ・・・と、言う訳だが・・・大人しく出て行くか、我に追い出されるか好きな方を選ぶがよい」
まぁ、カルヴァドスに挑む筈も無く、オクタヴィス達は逃げるように去って行った。
俺は彼女の手をしっかりと握ると、新しい家族を紹介するために店へと歩き始めた。まさかこの俺が一目惚れなんてするとはねと、苦笑いをしながら。
ここまで読んで頂き有難う御座います。




