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右掌を空に向けて魔力を打ち出す。攻撃力とか一切ないがカルヴァドスなら気が付くだろう。
上空を旋回していたカルヴァドスがゆっくりと降下を始め、その姿が徐々に大きくなっていき、俺の後ろに音も立てずに着地した。その大きさも有るのだろうが、風格に圧倒されて教皇を含めた皆が固まった。
「ジン!遅いではないか!我は待ちくたびれてしまったぞ!!」
「なんだよ、長生きしてる割にせっかちな奴だなぁ。そんな事より先ずは挨拶からだろ。教皇聖下、彼がこの国の守護に力を貸してくれるカルヴァドスです」
「ん?ああ、この街の守護と引き換えに人の暮らしを見て回る許可をしてくれるのだったな。我が名はカルヴァドス。ジンとの約定により我を裏切らぬ限りこの街の守護をする事を約束しよう。そのためにも先ずは街の人達に見知って貰わねばいかんからな!さあ、案内せよ、ジン」
「気が早えぇよ。まだ向こうからの返事がねぇじゃねぇか。俺が良くても教皇聖下がダメって言ったらダメなんだからな」
「なっ!・・・た、楽しみにしていたと言うのに・・・教皇殿!どうか宜しく頼む!」
「・・・・・え・・・ああ、勿論許可はするつもりですが、先ずはご挨拶から。私はこの国の代表をしております、教皇アーヴァイン・ハラルドルと申します。こちらは娘のアンジェリカ。カルヴァドス様にはこの街・・・いえ、民の生活を護って頂けるのであれば自由に見て頂いて構いませんが、個人の自宅内等は家人の許可は得て頂きますよう願います。文化や常識の違いなども有りましょうし、諍いだけは起こさぬように願います」
「うむ、我からは人に無理を通す事も諍いを起こす事も無いと約束しよう。我はジンの家に厄介になる故、何か有れば訪ねて来るがよい。よし、では行くぞジン!」
「待て待て、その前に小さくなれよ。そのままじゃ道を歩けないぞ。後、ガルバデス、誰でも良いから騎士か衛士を数人付けてくれ。お前達が一緒に居れば住民の不安も解消されるだろ」
見る間に小さくなっていくカルヴァドスに目を剥く一同。
「あ、ああ、解った。私と騎士団で先導するとしよう」
「おお!宜しく頼むぞ、ガルバデスよ!」
そんなこんなで騎士団の先導で各地区の大通りをぐるっと回ってから家に帰った。
「ただいま~。大した説明も無しに長い事空けて悪かったな。って、何泣いてんだよ・・・俺の事より後ろの奴に驚けよ。全くしゃぁねぇなあ・・・心配かけて悪かったよ」
俺の顔を見て泣き出したミリーとエレナの頭を撫でてやり、次の休みには遊びに連れて行く事を約束させられた。
で、ミゲル達は仕入れに行っていて居なかったが、ハルを含めた全員にカルヴァドスの紹介をし、流石に屋内には入れないので裏庭に小屋でも立てるかと聞いたら、息苦しいのは嫌だと言う事で適当に植木の根元で寝る事になった。
夕食後にお茶を飲みながらハルから留守の間の報告を受けた。
「特に何か有った訳では無いのだが、ここ数日アキラが元気が無いと言うか落ち込んでいるようなのだ」
「はっ?落ち込んでる?晶が?おいおい、何が有ったんだよ晶。お前が落ち込むなんて爺さんに騙されてたのを知った時位だろ。皿洗いのバイトを僅か三時間でクビになった時だって直ぐに復活したじゃねぇか」
「うっ!・・・昔の話は止めろ!それに関しては諦めてるから良いんだ!・・・・・はぁ・・・ま・・・負けたのだ・・・・・」
「はあっ?!負けた?お前が?ハル・・・にはまだ無理か。誰にだ?!お前が負けるとか、かなりの猛者じゃねぇか!」
「・・・・・み、ミリーちゃんとエレナちゃんに・・・・・先日見てしまったのだ。一緒に風呂に入った時・・・ついこの間まで殆ど同じだったと言うのに・・・私は年齢的にこれ以上の成長は望めないのだぞ!貴様にはこの悔しさが解るまい!」
「ちょっ!ちょっとアキラさん!言わないでって言ったじゃない!」
あ~解った、胸の話か。脅かすんじゃねぇよ。ヤバい奴が現れたかと思ったぜ。しかし感慨深いと言うかなんと言うか、出会った頃は痩せてたからなぁ。
そんな如何でも良い事が有った翌日は、カルヴァドスを連れて南地区を回り、バートさんに紹介して食用の獲物を売ったり、狭い路地に入ろうとして引っかかって壁を削って弁償する羽目になったり、親が止めるのも聞かずに突撃してきた子供達に囲まれたりした。まぁ、そのお陰で危険は無いと広まり始めて夕方には、遠巻きに見ているだけの大人達も落ち着きを取り戻した。あ、防具屋にオーガとかトロールの素材を売りに行ったら大喜びだったよ。
更に翌日は西地区を回り、次の日には東地区を定休日のミリーとエレナも連れて回り、最後の北地区を回る頃にはカルヴァドスの事を怖がる人は殆ど居なくなっていた。数日後にはミゲル達も帰って来て、馬がちょっと暴れたりもしたけど、概問題無く更に数日が過ぎた。
裏庭でハルに稽古を付けている時に客が来たと晶が俺を呼びに来た。
「オクタヴィス辺境伯?誰だそりゃ?覚えがないけどな」
「いや、正確にはその息子だが、少々態度がな・・・今まで店に来た中で態度が悪い奴なんて居なかったから、教皇聖下からちゃんと話が行ってないんじゃないか?」
「はぁ?レイモンド伯との一件を知らないとか、有り得ないんだけど。あの時の使用人は処刑されてんだぞ。レイモンド伯本人からの謝罪も受けたし、家に喧嘩売って来るとか頭おかしいんじゃねぇか?」
家の脇を抜けて庭との仕切り近くに行くと、大声が聞こえて来た。
「遅い!この私を待たせるとは何事だ!まったく・・・これだから平民は・・・・・」
なんかもうこの時点で話にならない気もしたが、俺が行かなきゃ如何しようもないので仕切りに付けた扉を開けて表庭に出た。
そいつの居場所は直ぐに分かった。東屋は六つ有るが、一か所だけ三十人程の護衛らしき兵士に囲まれた所が有ったからだ。家でお茶会を開く貴族令嬢達は、他の客に迷惑が掛からないように護衛は一人か二人しか付けないのが暗黙の了解になっているからだ。教皇やアンジェリカでさえ十人以上で家に来る事は無いってのに何なんだこいつは。
「俺がジンだが、用が有るってのはあんたか?悪いが他の客の迷惑になるから数人残して他は敷地内から出て行ってくれ。後、家では貴族とか平民とか関係ないから、身分を振り翳すと言うのなら話も聞かないし、出入り禁止にするから。そもそも教皇聖下からお触れが出てる筈だけど、如何なってんだ?」
「何だその物言いは!!貴様、こちらに居わす方を何方と心得る!!本来貴様なんぞが軽々しく口を利いて良いお方ではないのだぞ!!」
護衛の中でも一番豪華な鎧を着た男が俺を指さして前に出て捲し立てて来た。こいつら本当に何も知ら無いのかね?座ってる貴族らしき男は俺の事見もしないでお茶飲んでるし。ほんと何なのこいつら。
ここまで読んで頂き有難う御座います。




