56
俺が聖都を出てから一月位(途中で数えるのを止めた)経った。山脈南部の平原から東西へと移動し、魔物を適当に間引きつつ北上。熊より強いであろう魔物は発見次第退治してはバッグに放り込んでいった。正直数を数える気にもならん程には倒している。そして二つ目の山の探索を終え、三つ目に入った所でそれに遭遇した。
ドラゴンだ。前回のヤモリみたいな奴とは違う。全身が赤黒い鱗に包まれた体高15mを超える巨体。その巨体を支える後ろ脚は太く、前足には鋭い爪が三本生えており、頭部には角と牙に爬虫類のような金色の瞳。そして太く長い尾と背中には一対の翼と、正しく地球の物語に出てくる竜その物だった。
普通に考えてこいつと相対するってだけで無茶以外の何物でもないのだが、既に手遅れと言うか、困った事に今現在直ぐ目の前に居るんだよね。あ、別に自分から近寄って行った訳じゃないよ。少し自棄になってたけど、自殺願望とか無いんでね。まぁ、かなり遠くの木々の合間からこいつの頭が見えたから、直ぐに足を止めたんだけど次の瞬間には補足されて飛んで来やがったと言う訳。
「参ったね、どうも・・・気配は完全に消してたし、足には自信があったんだけどなぁ・・・はは・・・ははははは・・・・・」
対峙してみて良く解った。本能的に勝てないと理解させられてしまった。最早乾いた笑いしか出ねぇよ。恐怖で震える手足を精神力で無理矢理押さえつけ、何時でも動けるように奴の動きに注視した。
奴の金色の眼がゆっくりと俺の全身を舐めるように上下すると、額と背中に嫌な汗が流れた。
『ふむ・・・人がここへ何しに来た?いや、人の身で良くぞ来れたものだ、誉めてやろう』
奴が喉を鳴らした後、頭の中に声が響いてきた。
「あ、ああ、ありがとう?まぁ、ここに来たのは俺の住んでた街が南の方に有るんだけど、街の近くにそこそこ強い魔物が出るようになったんで、それの退治と調査に来たらあんたに出くわしたって訳」
ちょっと驚いたけど、話が出来るドラゴンとかラノベで良くあるし、なんか興味本位で俺の所に来たみたいなので話をしてみる事にした。どうせ勝てないだろうし、開き直るしかねぇ。
『クックックッ・・・我をあんた呼ばわりとはな。我を見て取り乱さなかったと言うのも含めて気に入ったぞ』
「あ~そいつは済まなかった。って言うか、名前が有るなら教えてくれないか?俺はジンって言うんだ」
『ハハハハハ!!確かに名を知らねば他に呼びようも無いか。だが我に名が有った事など無い。意思の疎通が出来る者は我を恐れて逃げ惑うだけだ。名が必要で有った事もなければ、まともに会話をした事もない』
「ん?親とか兄弟とか居ないのか?つーかどうやって生まれたんだ?」
『知らん。我は気が付いた時には我であった。親、兄弟と言う物が何なのか解らんが、我と同じ存在に有った事も無い』
なにそれ、訳解らん。こんな生物がいきなり自然発生するもんなの?異世界ぱねぇわ。
「そうか~・・・取り敢えずドラゴンさんって呼ぶわ。で、ドラゴンさんは何でこっちに来たんだ?」
『ん?人は我のような存在をドラゴンと呼ぶのか?ふむ・・・・・別の呼び名は無いか?そなたの名、ジンのような力強い響きの物が良い』
「いやぁ、力の象徴みたいな存在に名前だけでも力強いなんて言われて嬉しいよ。そうだな・・・う~ん・・・・・力強いか・・・適当に思い付いた言葉を言うからその中から選んでくれないか?」
『ほう、なるほど。人任せにするよりその方が良さそうだ』
そんな訳でなんとなく浮かんだ単語を並べて行き、その中で気に言った物を選んで貰う事になった。
『ハハハハハ!これより我はカルヴァドスだ!!フハハハハハ!!ジンよ、良き名を考えてくれた!礼を言うぞ!!』
最初は単純に力に関する英単語とか並べてたんだけど、直ぐにネタが付きて食べ物とか料理に切り替わって、俺がジンだから蒸留酒繋がりでカルヴァドスになった。確かリンゴで作る蒸留酒だよね?
「気に入ったのが有って良かったよ。それで、カルヴァドスはなんで南・・・山脈の外れまで来たんだ?」
『我も山脈中央付近から出るつもりはなかったのだが、食料となる魔物を追い求めておるうちにここまで来てしまったのだ』
あ~それで逃げ惑った魔物が人里まで追い立てられたって訳か。
「まぁその巨体と風格じゃ逃げられるよな。数匹なら追い付けるだろうけど、あちこちに逃げられたら捕まえきれないだろうし」
『うむ、逃げ散らかった魔物共を探している内に何時の間にかな。ワハハハハ!しかし気が付かなかったな、我が大き過ぎるから逃げられるか。大きい方が魔物を見つけ易いと思ったのだが・・・現にジンも直ぐに見つけたしな!』
ん?なんか変な言い回しだな?まるで大きさを変えられるみたいな?あれか、ラノベで良く有る人型になるとか?そんな事が出来るならちょっと見てみたいな。
「なぁ、もしかして体の大きさを変えられるのか?出来るんなら見てみたいんだけど」
『ん?何を言っておる、出来るに決まっておるではないか。そなたもやっておるであろう』
「いやいや、俺はこの大きさが普通で小さくなってる訳じゃないから」
なんか俺まで出来て当たり前みたいに言われたよ。
『はて?まぁ良い、見せてやるとしよう』
そう言うとカルヴァドスの魔力が動き出し、その動きに呼応するかのように体が縮んで行った。
『どうだ?肉体としてはこれが本来の姿なのだが、内在魔力を含めた魂と肉体の在るべき姿はあの大きさなのだ』
「へぇ~良く解らないけど、なんか凄ぇな。でも、そっちの方が獲物から発見されにくくなるから狩りはし易いと思うぞ」
カルヴァドスの体高は3m程になっていた。どんな仕組みか気になるな。
『なるほど・・・これからは可能な限りこの大きさで狩りをするとしよう』
その後は人社会や竜との種族間の違い等を話し合い、日が暮れてから夕食として俺の捕ってきた獲物をあげたり、俺の食べていた料理を欲しがったのでまたあげたら、気に入られて更にねだられたりしたのだった。なんか時々妙な視線を向けられたり、話がかみ合わなかったりもしたが、概良好な関係を持てたと思う・・・あれ?今更だけど傍から見たら俺ってドラゴンに一方的に話しかけてるヤバい人なんじゃ・・・・・・誰も居ない山奥で良かったよ。
ここまで読んで頂き有難う御座います。




