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『おい、ジン。トロールの肉でカツを作ってくれ。我はあの肉が好きなのだ』
「いや、さっきも言ったけど材料が無いんだよ。卵も無けりゃ小麦粉も無いし、揚げるほどの油だって持ってきて無いんだ。だから作れないんだって」
『麦などいらん。我は植物より肉が良いのだ』
「だから、カツの衣は小麦を粉にした物で出来てるし、掛けたソースも複数の植物を煮込んだものなんだよ。今食べてるステーキに掛けた調味料も植物の種とかなんだって。料理ってのは色んな物の味の組み合わせだから、肉だけじゃ成り立たないんだよ」
『むぅ・・・肉を旨く食べるには植物も必要なのか・・・・・』
「そうそう、理解してくれたみたいで良かったよ。手持ちの料理はお前が全部食べちまったから、残りの調味料じゃ大した物は作れないぞ」
ここに来るまでに狩ったトロール以外に一人なら三カ月は持つ筈の料理全部食いやがって。大食いにも程が有るだろ。
しかしなんだな、魔物とは言え人型の生物を解体してその肉を調理すると言うのは、ちょっと嫌な感じがしたよ。
『無い物は仕方ないか、残念だが・・・・・』
「そうそう、夜も更けたし、そろそろ・・・・・」
『そうだな・・・そろそろ、貴様の本性を見せて貰うとするか』
「は?何言って・・・・・」
『惚けるでない。解っておるぞ、貴様人では無かろう?上手く隠しておるが我が気付かんと思うたか?見せぬと言うなら力尽くでも良いのだぞ』
カルヴァドスの魔力が動き始め、本来の姿へと戻り始めた。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ!俺は人間だ!他の何者でもねぇ!誓って嘘なんか言わねぇよ!!」
『クックックッ・・・何に誓うと言うのだ?時間稼ぎのつもりか!正体を見せよ!!』
じりじりと下がる俺にカルヴァドスは身体を捻ると共にその長い尾を振り回してきた。
「おわあああぁぁぁ!!危ねぇじゃねぇか!そんなん食らったら死んじまうだろうが!!」
俺はエンドルフィンを分泌させて全力で後方へと飛んで交わした。カルヴァドスが本気で無かったのが幸いしたが、本当にぎりぎりだった。
『死にたくなければ正体を見せよ!!精霊か、はたまた死霊の類であろうが!!』
カルヴァドスが間合いを詰めて前足を振るって来た。この巨体でなんて速さだ。回避出来ねぇし、デカ過ぎて受け流す事も出来ねぇ。
「グアッ!ガハッ!!」
カルヴァドスの振るって来た腕に合わせて飛んで力を逃がそうとしたが、早過ぎて逃がしきれなかった上に背後の木に叩きつけられて木の根元に転がり、何とか上体を起こしたが視界は歪み、足は震えて立ち上がる事すら儘ならなかった。
「ッ・・・ぅあ・・・なん・・・で・・・・・」
『ふん・・・如何あっても正体は見せぬか・・・・・ならば消えるがよい・・・此度の目覚めは中々良い物であった。それだけは礼を言うぞ、ジンよ』
歪む視界の中カルヴァドスの口が開いていき、その口腔が紅に染まって行くのが見えた。
ブレスが来る・・・・・回避を―――
カルヴァドスから放たれたブレスにより視界が紅一色に染まった時、過去の・・・幼かったあの日の記憶が甦った。
母を殴る父を止めようと向かって行き、父に殴られて動けなくなったあの日。俺は自分の力の無さを嘆き力を欲し、母から聞いた日本の神話に出てくる神に祈ったんだ。
神が与えし人の操る原初の力。
それが俺の力の象徴だった。
だから俺はその力を齎した神の名を呼んだんだ。
「か・・・カグツチイイイイィィィィ!!」
全て思い出した。あの日俺は、俺の中に住むこいつの力に振り回されて自我を無くし、両親だけでなく近隣の家・・・いや、山間部の町一つ焼き尽くしたんだ。そして当て所無く彷徨い、師匠と出会って―――
俺の中の力が解放されていく。だが、あの時とは違う。奴の言っていた通り制御は問題無く出来る。毎日欠かさず魔力操作の訓練を続けた甲斐が有ったぜ。
全身から噴き出した魔力と言う名の‶力〟がブレスを弾き飛ばして俺を中心に炎の人型を作り、巨大化していくと共に傷んだ身体が修復されていく。カルヴァドスと同じサイズで良い。それで十分に奴を抑え込める事が出来ると確信した。
「ふうううぅぅぅ・・・・・おい、カルヴァドス!これ以上暴れるなら少々痛い目見て貰う事になるが良いか!!」
漆黒の闇の中に人型の炎が揺らめき、巨大化した俺の声が響き渡る。カルヴァドスは目を見開き、真っ直ぐに俺を見つめていた。
『クックックッ・・・ハハハハハ!!良い、良いな!それが貴様の真の姿か!!我をも超える存在が居るなど思いも寄らなかったぞ!ワハハハハ!!』
暫くの沈黙の後、カルヴァドスは満足したかのように笑い出した。
「違う!こいつは俺の力じゃねぇ!!俺の中に居る奴からの借り物だ!さっきも言った通り俺は人間だし嘘もついてねぇ!!」
『ほう、そなたの中に居る何者かの力か・・・・・そのような事があるとはな。本当に此度の目覚めは良き物であった!では、また会おうぞジンよ!!』
「おい!待てコラ!!人の事消し飛ばそうとした癖に、良い感じに纏めて逃げようとしてんじゃねぇぞゴルアアァァ!!」
翼を広げ飛び上がったカルヴァドスの尻尾を掴んで地面に叩きつけてやると、周囲の木々を吹き飛ばし轟音と共に地面が爆ぜた。
『グハアッ!何と言う事をするのだ!痛いではないか!!』
「さっき殴り飛ばしてくれたお返しだ!気に入らなけりゃかかって来い!!好きなだけ相手してやるぜ!!」
その夜、俺達は日が昇るまで殴り合った。カルヴァドスは生まれて初めて全力で殴り合えた事にも喜んでいた。尤もそのせいで山が一つ無くなったが・・・まぁこんな所誰も来ないし構わないだろ。
『・・・・・・ジンよ、我は腹が減ったぞ。飯にしないか?』
「・・・・・ああ、そうだな。流石に俺も腹減ったよ・・・・・でも言った通り材料が殆ど無いから我儘言うんじゃねぇぞ」
『解っておるわ』
俺はカグツチの力を解除し、カルヴァドスは魔力を操作して小さく(と言っても3mは有るが)なると、元山の有った広大な荒れ地の中心でお互い何も言わずに黙々と肉を焼いて食べた。
『クックックッ・・・ワハハハハ・・・・・・!!』
「ブハッ!ククク・・・ハハハハ・・・・・・!!」
暫くしてふと目が合い、お互い盛大に笑い合った。
強大な力を持つがために、他者と相容れなかったカルヴァドスは日本に居た頃の俺のように乾いていたんだなとそう感じた。
ここまで読んで頂き有難う御座います。




