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「・・・・・なぁ、ここで良いんだよな?」


「ああ、多分な・・・・・看板も出てるし・・・・・」


 教わった通りに進んで着いた漁業組合は、如何見てもただの魚屋にしか見えなかった。一応看板は出てるけど、箱に入った魚が並んでるだけだし。


 まぁ、店先?に馬車を止めたままでいるのも迷惑だろうと、奥に居たおじさんに話しかける事にした。


「すみませ~ん。ちょっと良いですか?」


「へい、らっしゃい!何にしやす?今日はこの辺りがお勧めだぜ!」


 なんか、まんま魚屋だったが、気を取り直して懐から旦那様から貰った紹介状を渡してみた。


「おっ!こ、こいつは領主印じゃねぇか。しかも俺宛かよ、どれどれ~・・・・・ふぅ・・・なるほどねぇ・・・まぁ大旦那様からの頼み事だし、紹介すんのは構わねぇがなぁ・・・・・見ての通り、この街で消費する分の小売り程度しか捕ってねぇ。漁師自体が減ってて大口となると、かなり厳しいと思うぞ・・・・・」


「そうなんですか・・・・・一応理由を聞いても?」


「単純に日持ちしないからってのも有るが、それでも昔は干物が売れたんだ。だが、今じゃ干物を仕入れる位なら塩や砂糖を仕入れた方が実入りが良いからってのが一番の理由だ。どちらも領主主導の事業だから給金も良くて漁師を辞めた奴も多い。危険を冒して海に出るより遥かにいい仕事なんだよ、嘆かわしい事だが」


 言われてみれば確かにその通りで、納得の理由だな。


「なあ、ミゲル。どの位で往復出来そうだ?」


「そうだな・・・・・余裕を見て二十日って所だが、その気になれば十五日で行けるぜ」


 頼もしい言葉が返ってきたが、一度きりって訳じゃ無い。無理して事故に有ったり馬を潰すような事になっても困る。


「中々良い返事だが、お前らと馬の休養も必要だから二十日だな。組合長、約二十日置きにこいつらが買い付けに来るから、それに合わせて用意出来ないか?」


「まぁ二十日も有れば干物位なら出来るが・・・・・」


「いやいや、干物じゃなくて生のままで良いんだ。あの馬車は冷凍保存出来るから、何の問題も無いんだよ」


「はぁ?!冷凍保存出来る馬車ってほんとかよ!!そんなもん聞いた事ねぇぞ!!」


「嘘じゃねぇ。俺が個人的に作って貰ったんだ。今ここに有る奴全部買い取っても構わないし、明日の漁で捕ってきた奴も馬車に入るだけ買い取ってやるぞ」


 その後はとんとん拍子で話が進み、組合長と一緒に漁師達の所を回って、明日の早朝に全ての船を出して可能な限り捕ってくると約束をしてくれた。今組合で売ってる奴を買い取っちゃうと街の人達が困ると言う事で買い取らないでおく事になった。売れ残りは干物にするとか。


 組合に馬車を預けて少し離れた所の宿を取り、翌朝組合で漁師達の帰りを待った。


「おーい!帰ったぞおおおぉぉぉぉ!!」


「ははははは!待たせたな兄ちゃん!見ろ!大漁だぜ!!」


 現役を退いていてもおかしくない歳の爺さん達が荷車を押して来るのが見える。皆の笑顔がとても誇らしく見えた。

 荷車一杯の魚介類は一度組合に卸され、それをエデン商会で買い取る契約になっている。直接取引だと組合にお金が入らないし、そうなると道具等の修繕等が有った時に漁師達の生活に支障が出る可能性があるため、組合が一時的に立て替えて分割で払うようにするためだ。船の修理とか結構高いんだろうしな。


「それじゃあ二十日後位にまた来ますので、その時は宜しくお願いします」


「おう、任せとけ。不漁に備えて干物も多めに作っとくから、あんたらには損はさせねぇ」


 組合長や漁師達に見送られてクランゼル領を後にした。


 帰りの道中も特に問題無く聖都に着いた。先ずはバート商会に魚を売りに行き、冷凍された魚の詰まった木箱を冷蔵倉庫に運び込んだ。バートさんとの契約で取り敢えず販売ではなく委託と言う事になっている。聖都で魚が売られなくなって数年経っているので売れるかどうか解らないからだ。まぁ売れなければ俺のバッグに入れてもっと内陸に持って行けば何とかなるだろうが、バートさんなら上手い事売ってくれるだろう。


 家に向かい厩の有る裏口から入るとハルが出迎えてくれた。


「予想より早かったな。首尾は如何であった?」


「特に問題無かったな。大量に仕入れてきたし俺のバッグにも沢山入ってるから今夜は期待しとけ。つーか、普通は無事に帰って来た事を喜ぶ所なんじぇねぇの?」


「フッ・・・・・貴様が付いて行って怪我人が出るなど有り得んだろう」


「まぁな。で、こっちはどうだった?って、問題有ったら先に言ってるか」


「ああ、こちらも問題ない。ただ貴様宛てに三通手紙が届いている。出来るだけ早く連絡して欲しいとの事だ」


「マジか・・・・・面倒事の予感しかしねぇ・・・・・」


 部屋に入り机の上に置かれた手紙を見る。二通は貴族からで、もう一通は冒険者組合からだった。貴族の方は以前にも領地に迎えたいとか言っていた領主とその息子からで、領主は娘の婿に迎えたいと言った内容で、息子の方は妹が欲しくば私を倒してからにしろ・・・・・って、いらねぇし、前回の手紙の時に教皇に断って貰った筈なんだけどなぁ。


 それより問題は冒険者組合からの方だ。内容は俺が何度も狩りに行ってる北西の山を含めたラナヤ山脈の調査依頼だった。勿論俺は冒険者じゃないから受ける義理も無いが、詳しい話をしたいので北地区の冒険者組合まで来て欲しいとの事。

 俺に依頼を持ちかけた理由も解る。狼に大蛇に鬼と、本来居ない筈の魔物が南下して来ているのは更に凶悪な魔物が生まれたかして追い立てられたのではないかと言った所だろう。衛士隊や騎士団に頼まないのも、街から離れた所は冒険者のテリトリーで彼らの収入源を奪う訳にはいかないし、衛士や騎士は対人専門だと言うのもある。それに冒険者を大勢送り込む費用を考えれば、俺一人の方が安く済むってのも有るんだろう。

 正直受けたくはない。だが、それで良いのかと言う思いもある。あいつの言っていた「逃れられぬ死」と言うのがこれだとすれば、行かなければ聖都が襲われる可能性があるからだ。俺の下に厄災が降り注ぐ事が確定事項だとすれば、俺は聖都を離れるべきなのだろう。幸いと言って良いのか解らないが、兄弟達も生きて行く術を手に入れたしハルや晶にミゲル達もいる。


「はぁ・・・・・如何したもんかね・・・・・」


 俺は溜息を付き天井を見上げて目を伏せた。

ここまで読んで頂き有難う御座います。

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