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席に着くとお茶が出され、俺の持ってきたクッキーが出されたので一枚取って口に入れた。確か持ってきた人が毒は入ってませんと言う意味合いで最初に食べるのが貴族のマナーだった筈だ。
「ふむ・・・とても武人とは思えんな。見た目もじゃが振る舞いも姿勢も言葉遣いも悪くない・・・」
「・・・!ちょっと、あなた!このお菓子食べてみなさい!あの子からの手紙にあった通りとても美味しいわよ!」
旦那さんの話をぶった切って奥様が割って入った。何この人。豪い勢いでクッキーが無くなってくんだけど。
「ほう・・・確かにこれは美味いな。武術だけでなく料理もこの腕前か・・・・・」
「もう・・・その話し方は止めなさい。さっき自分で固くなるなって言ってたじゃないの。ジンちゃんも普通に話して良いですからね?ほんとこの人ったら何時までも領主だった時の癖が抜けなくって」
「そう言われましても、頼み事をする相手に失礼な態度をとる訳にはいきません。あ、お菓子無くなりそうですね。まだ有るので出しましょうか?」
「まぁ!良いの!?良い子ねぇ~ジンちゃんは。この歳になると食べる事以外に楽しみが無くってねぇ」
何だろう近所のお婆ちゃんにしか見えなくなってきた。やばいな、この人のペースに嵌ると話が進みそうにない。なんか食わせときゃ静かにしてるだろう作戦だ。
バッグから新しいお菓子を取り出し執事に渡すと直ぐにお皿に乗って出てきたので、また先に一つ食べた。
「この程度の物で宜しかったら、夕食の方も作らせて頂きますが、如何でしょうか?」
「いやいや、客人に料理なぞさせる訳には」
「ええぇ!良いの!?本当に良い子ねぇ。お夕食期待してるわね!」
「・・・・・すまんな」
口の中のお菓子が無くなったタイミングで割り込んできたよ。ま、まぁ、こっちから言い出した事だし、作るのは構わないけど何にするかな。材料見てからにするか。
「いえ。それでですね、うちの商会で海産物を扱いたいので腕の良い漁師を紹介して貰えないかと思いまして」
早いとこ要件言っとかないとな。世間話と夕食作りで終わったら洒落にならん。
「なに?海産物を商会でだと?そなたの商会は聖都であろう?加工品を扱うなら漁師では無く業者ではないのか?」
「いえ、最新式の冷凍冷蔵馬車を用意しましたので聖都まで冷凍保存が出来るんです。ですから加工業者ではなく漁師、もしくは大量に仕入れられる所を紹介して欲しいんです」
「なに!?冷凍保存の出来る馬車だと!!その様な物が開発されたのか!?幾らだ!?それが本当であるなら我が領地にも用意せねばならん!!」
「ええっと~・・・聞いても驚かないで下さいね・・・・・その・・・きゅ、九千七百万メル・・・です・・・・・」
「ブウウウゥゥゥ・・・!!ゴホ!ゴホッ!」
「うわっ!だ、大丈夫ですか奥様!誰か拭く物持ってきて!」
ちょっとタイミングが悪かった。奥様がお茶を吹き出しちゃったよ。旦那さんは口開いたまま固まっちゃったし。って、周りに居る使用人達もかよ。
「だ、大丈夫ですか?お二人とも。すみません。俺が個人的に依頼して作って貰った物なんで、採算度外視なんです」
「・・・・・あ、ああ、大丈夫だ。しかし・・・採算度外視とは言え無駄遣いにも程が有るであろう・・・いや、競合が居ないのであれば・・・・・しかしなぁ・・・・・」
おそらく頭の中で計算しているのだろうが、現状では利益は出ないと思うよ。先ずアルミ合金の量産体制が整わないとだし、ベアリングとサスペンションもまだまだ高いしね。
「最新技術の塊みたいな馬車なので、数十年単位で値段は下がらないと思います。ああ・・・でも、クランゼル領で大量発注すれば少しは安くなるかもしれませね。聖都の西地区に有るアルバート商会と言う所なので宜しかったら注文されてみますか?」
「・・・・・いや、やめておこう。孫か、曾孫の代になるまでは採算は合わんだろうし」
ですよね~。単に俺が海産物を食べたいってだけで作った物だし、普通は買わないよな。
「ああ・・・漁師の紹介であったな。明日までに漁業組合長に腕の良い漁師を紹介するように一筆認めておこう。今夜は離れに泊まると良い。レント、皆の案内を頼む」
「畏まりました」
「あ、ジンちゃん!夕食楽しみにしてるわね~」
「あ、はい。それでは失礼します」
で、離れに案内されて部屋に荷物を置いた後、厨房に案内して貰って料理長に話を通して貰った。まぁ、今まで料理長の肩書が付いてる人とは碌な事が無かったから念のために。
食材を見せて貰ったが、流石に海産物が豊富でにやけてしまった。ここは俺が個人的に食べたい和食にしようと思う。醤油は無いが天麩羅だな!
海老、烏賊、帆立に白身魚を次から次へと揚げていき油を切っていく。軽く塩を振って料理人達に試食して貰ったが大盛況だったので、昆布と魚の骨で取った出汁の中に魚の身を練ったつみれ汁を塩胡椒と柚子っぽい果物で味を調えた物も作ってみた。こちらも好評だったので夕食に採用された。
夕食の席には領主夫妻とその子供もいたけど、概好評だった。まぁ若いから味の濃い物の方が好みなんだろう。旦那様と奥様には大好評だったから良いだろ。
食後に執事のレントさんに感謝された。最近歳のせいか二人とも食事の量が減ってきてたんだそうだ。いや、お菓子沢山食べてたじゃん。間食が増えて食事が減ったんじゃねぇの?
その後は特に何も無く離れにて就寝。翌早朝に調理場へ向かい料理長に朝食のメニューを聞いた。
最近は旦那様も奥様も朝食は殆ど摂る事が無いために、せめて栄養はと必ず卵を使っていたのだそうだ。しかし、卵料理と言っても大した種類が無いために、茹で卵、目玉焼き、オムレツのローテーションを繰り返して飽きられてしまったと言う。それも食が細くなった原因じゃねぇのか?食事がつまらなくなって間食が増えたとか。有り得る。
「ん~・・・そうだな、昨夜のつみれ汁の残りを使って出汁巻き卵と茶碗蒸しでも作るか」
そんな訳で料理長に教えながら作って試食して貰い茶碗蒸しを採用。出汁巻き卵は明日の朝食に出す事になった。後は揚げ物の作り方と、ケチャップにマヨネーズやタルタルソースなんかも教えておいた。これで早々飽きる事も無いだろう。
朝食後に領主を含めた館の皆さんに見送られて漁業組合へと向かった。一泊だけだったけど何だか名残惜しかったのは「何時でも遊びにいらっしゃい」と言ってくれた奥様が、会った事の無い筈の祖母の様な感じがしたからなのかもしれない。
ここまで読んで頂き有難う御座います。




