46
俺の中に居ると言う奴との対話から五日が経った。しかし、あれから奴からの接触は無く、晶や教皇達に何と説明したら良いかも解らずに唯時間だけが過ぎて行った。
「別に心を閉ざしてるつもりは無いんだけどね・・・・・・」
朝食のソーセージを突きながらぼそりと溢した。俺的には奴と話がしたい訳で、こっちから接触出来ないかと、寝る前にはベッドの上で横になって目を瞑ってから「話がしたいから出てきてくれ」とかやるのが日課になっている位なのだ。
「何の話だ?」
俺の呟きが聞こえたらしく晶に聞き返されたが、「別に大した事じゃねぇよ」と胡麻化した。何も進展してないのに話せねぇよ。しかも死ぬ運命だったとか無理だろ。
閉じ籠っていると余計な事ばかり考えてしまって精神的に良くないなと、ヒースとニックと一緒にバート商会へ向かった。
「おはようございます、バートさん。ミゲル達引き抜いた分の仕入れは大丈夫ですか?うちの方は落ち着いてきて兄弟達に任せられるようになったんで必要なら何時でも言って下さい」
「そうですね・・・先日の残りのブラウンボアとリザードマン二十匹を頂きましょうか」
「解りました。それとですね、まだまだ先になりそうなんですけど、冷蔵馬車を作って貰ってるんですよ。完成したら魚の買い付けに行くつもりなんですけど、バート商会で扱う気はありますか?」
「さ、魚ですか・・・・・聖都では干物すら出回る事は殆どない物ですし、鮮度を保ったまま運べるのであればかなりの利益が見込めますが・・・・・」
「あ、勿論無理にとは言いませんし、冷蔵馬車自体が本当に先の話なんで、もし完成したら~位に思ってて下さい」
バート商会を出て家に向かう途中、路地からふらりと出てきた男がぶつかってきた。
「ククククク・・・ハハハハハ!やった!いい気味だ!貴様のせいで散々な目に合ったが、それもこれで終わりだ!ヒヒヒヒヒ・・・・・・」
「なんだ、レイモンドの所に居た使用人じゃねぇか。下らねぇマネしやがって。その程度で俺を獲れると思ってたのかよ」
元使用人の男の手にはナイフが握られていたが、その刃先は俺の身体に刺さる事無く握り止められていた。男がそれに気が付いた時には俺の拳がこめかみを捉え、次の瞬間には気を失っていた。
俺は男を引き摺り衛士に突き出し、レイモンド伯の所の元使用人だと伝えて家に帰った。これも奴が言ってた死に近づくって奴なのかね?この程度なら幾らでも対処出来るし、気にする事も無いか。
翌日は久しぶりに狩りへ出掛ける事にした。昨日バートさんに売って、猪のストックが無くなったし、思いっきり身体を動かしたかったってのもある。
十日前後で帰るからと告げて家を出て北へ向かった。そう言えば山の西側は行った事なかったなと、山の南側から狩りをしながら草原を西へと向かった。
山の西側には木々に囲まれた湖があった。水は淀んでいて飲めそうも無いなと、覗き込んでいたら何か尖った物が飛び出して来た。
「あっぶねぇ・・・なんだこりゃ?生き物・・・なのか?」
槍の穂先に尾鰭を付けたような水生生物らしきモノが陸の上でビチビチと跳ねていた。良く見りゃ目のような物も付いてるし鰓もある。如何やら魚類らしいが食べる気にはなれなかったけど、一応持って帰る事にした。
湖の周囲を散策していると何度か襲われたが、全て交わしてバッグの中へ。しかし体当たり好きだな、異世界生物は。
他にはモモンガと言うかヤマネ?みたいな生物も居たが直ぐに逃げてしまったので狩ってはいない。だって追い掛けるのめんどいし。
襲って来た猪や熊を狩りつつ散策していると、気配と言うか殺気が近づいて来るのを感じた。
「おいおい、マジかよ。鬼なんて居るとは思わなかったぜ」
木々の間から現われたのは身長2m程の筋肉の塊と言った身体で肌は赤黒く、おそらくは熊の毛皮であろう腰蓑を付け、額には二本の角を生やし、狂気を宿した赤い瞳をした人型の生物。まさに鬼だった。
そいつは俺と目が合うと口角を釣り上げた。
「グオオオォォォ!!」
「ククク・・・いいねぇ・・・むしゃくしゃしてた所だ!憂さ晴らしに付き合ってもらうぜ!!」
咆哮を上げ襲い掛かってくる鬼を迎え撃つ。
振り回してきた左右の拳を受け流しながら鬼の周囲を回り、死角から軽く拳を振るい当てて行った。
最小限の動きで舞うように交わし、追撃を入れ続ける事十分。鬼の動きが鈍くなり、ここまでかと痣だらけになった鬼の後頭部に右回し蹴りを入れて止めを刺した。
「嬲るような真似して悪かったな。でも、襲って来たのも逃げなかったのもお前が選んだ事だからな」
俺に勝てない事は十分解っていた筈だ。逃げる事を選ばなかったこいつには、何か退けない理由でもあったのだろうか?そして俺の場合は・・・・・
「逃れられない死・・・ね・・・・・邪神の復活が本当だとかかね?」
鬼の躯をバッグに仕舞い、これって売れるのかね?なんて考えながら狩りの続きをし、猪が二十匹を超えたので帰る事にした。
帰りの道すがら、ずっと考えていたが答え何て出る筈も無く、結局奴が出てきて話をするか、俺を超える存在が現れてから対処するしかないと言う情けない結論しか出てこなかった。
「名前か・・・俺が呼んだって言ってたけど、覚えてないんだよなぁ・・・・・・ウォーズンじゃ無いんだろうし、如何したもんかね」
聖都に着いて、先ずはバート商会へ。魚と鬼が売れるか聞きに行かないとな。
「こんにちわ~バートさん、これって売れますかね?」
先ずは魚を出してみた。
「ニードルフィッシュですか・・・残念ですがこれは素材にもならないんですよ。肉も食べられなくはないんですけど、苦過ぎて食べる人はまず居ません」
「そうですか・・・じゃ、こっちは如何ですか?食べられないと思いますけど、何かの素材に使えませんか?」
で、鬼を出すとバートさんとドラインさんが目を見開きぎょっとした。
「あ・・・ああ、オーガですか。皮と牙が素材になった筈ですね。うちでは買い取れませんから懇意にしている防具屋を紹介しましょう」
「お、おい、ジン。こいつを何処で狩って来た?狩ってきた事より場所の方が重要だ。ニードルフィッシュが居る湖の近くじゃねぇだろうな?」
「え?そうですけど、何か拙いんですか?」
「まさかとは思ったけど、やっぱりそうか・・・ジン、防具屋は後回しだ、衛士の詰め所に行くぞ」
俺的には戴した相手じゃなかったけど、普通なら十人以上で対処するんだそうで、あんな街の近くに居る筈が無い魔物なんだそうだ。そう言う危険な生物が本来居ない筈の場所に居た時は冒険者組合か衛士隊に報告しなくちゃいけないんだそうで、ドラインさんに説教されながら衛士隊の詰め所に連れて行かれるのだった。
ここまで読んで頂き有難う御座いました。




