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晶達がエデン商会に入ってから三日後、朝食にライエルが考えた軽食が出た。
「ど、如何かな、ジン兄さん。蒸しパンの甘さを抑えて中に餃子のタネを入れてみたんだけど。これなら歩きながら食べてもサンドイッチみたいに具が零れたりしないと思うんだ」
「・・・・・うん、まぁ良いんじゃないかな。後は皮の卵を減らせばもっと良くなると思うぞ」
「ほ、ほんと?!今日明日中に改良するから、店で売っても良い?」
「ああ、勿論だ。うちの店の料理長はお前なんだから、好きにして良いぞ」
「りょ、料理長・・・お、俺が・・・・・ッ!やったああぁぁ!!ありがとうジン兄さん!俺、これからも頑張るよ!」
握りしめた両の拳を高々と上げて喜ぶライエルの新作は、薄い黄色みが掛かった茶色の半球状をした・・・肉まんだった・・・・・うん、余計な事は言わずに黙っておこう。あ・・・やべぇ!晶の口止めしとかねぇと!!
「晶、ちょっと話が~・・・・・」
「もが?」
「・・・・・そのままで良いからちょっと来てくれ」
晶は肉まんを両手に持って口一杯に頬張っていた。喋れる状態じゃなくて助かったぜ。
晶を俺の部屋に連れて行き、ライエルが地球で見た事の有る物を新作として作ったとしても、言わないように言い含めた。こいつは嘘が付けないし空気も読めない質だから、事前にきっちり説明しておかないと拙い事になるのだ。あ、ベルガー達にも言っておかないと。
危機的状況を回避し、開店後に裏庭で訓練をしているベルガー達の所に行って晶と同じように言い含めた。こいつらはその辺弁えていて助かった。いや、こいつらが普通で晶がおかしいんだった。
そのまま暫く訓練を見ていたんだが、ミゲルは長年リーダーをやっていただけ有って指揮を執るのが上手いな。他の連中の動きも良い。フィリップは格闘技の経験はないが身体強化を使って上手い事合わせてるし、この分なら大丈夫だろう。
そして厩舎の建築も始まり、馬車の完成が楽しみになってきた或る日の事。
何だ?何処だここは―――
真っ暗な、周囲には星のような光が一点を目指して移動している宇宙空間のような場所に俺は居た。
光が収束して行く先に目を凝らすと、ブラックホールのような光を飲み込む渦が見えた。
漸く・・・漸く心が開き始めたか―――
何処からとも無く老人とも青年とも区別の付かない男性の声が聞こえた。
誰だ?!いや、誰でも良い。ここは何処だ?俺は如何なったんだ?何が起こっている―――
慌てるな。ここは私の心象風景、幻に過ぎん。現のそなたはベッドの中よ―――
幻?俺にこんなもん見せて何のつもりだ?何がしたい?!お前は何もんなんだよ―――
別に―――何がしたいと問われれば、宿主たるそなたの望みを叶える。それが私の存在理由だ―――
あ?宿主?何言ってんだ?俺はお前なんて―――
知らぬ筈が無い―――幼き日に願ったであろう?‶力〟が欲しいと。だから私は与えた筈だ、その身に宿りし我が力の一部を。そして引き合わせた筈だ‶力〟を持つ者と―――
な・・・何を言って―――
あの日の記憶が一瞬、フラッシュバックとなって甦った。
心を閉ざすな。受け入れるのだ。今ある幸福を享受し続けたくばだ―――
くっ!ふざけるな!お前が俺を召還したのか―――
左様。正確には‶転移〟だがな。そなたが欲したのであろう?だから叶えた。念のために他にも送ったが、一人を除いて受け入れたであろう?
晶達もお前の仕業か!無関係の者まで巻き込みやがって―――
無関係―――では有るが、無作為に選んだ訳では無い。最低限の資質、私を感じられ、そして―――近い内に死が訪れる者だ―――
し、死が訪れる?晶達が死ぬってのか―――
そう言う運命であったので利用させて貰った。死せる運命を変える事は容易くない。現に一人死んだであろう?残りの者はそなたと言う生きる‶力〟の強い者によって運命が変わりつつある。今のように共に暮らして行けば問題無かろう―――
ほ、本当か―――
但し、死せる運命の者を抱えるそなたは、その分死に近づく―――努々忘れる事の無きよう―――良いか、あの時とは違うのだ。今のそなたであれば‶力〟が暴走する事は無かろう―――戦い、足掻き続けてなお己の持つ‶力〟を超える死が訪れた時は私の名を呼ぶのだ―――
お、俺はお前の事なんて―――
時間だ―――そなたの身体が目を覚ます。忘れるな、心を閉ざすな。さすればまた、話す事も出来るであろう―――
ま、待ってくれ!名前を―――
あの時そなたが呼んだ―――私の名は―――
声が遠ざかって行き、正面からこちらに向かって来た光が周囲の闇を払い全てを飲み込んで行った。
俺は自分のベッドの上で天井に向かって手を伸ばした状態で目を覚ました。
「あ・・・・・ッ!・・・あったまいてぇ・・・・・何なんだよ・・・全部俺のせいかよ・・・俺が望んだ?・・・師匠の事も・・・晶達の事も・・・全部あいつの仕込みかよ・・・・・心を閉ざすな・・・受け入れろか・・・・・」
確かにあの日、師匠に拾われて以来、心を閉ざしていた。共に暮らし、育てて貰っていても一線を引いていて踏み込まなかった。山を下りてからは特にだ。表面だけ取り繕って誰も信じてはいなかった。
怖かったんだ。実の父親に暴力を振るわれ、死を間近に感じて全てを失った事が。
「思い出した・・・確かに望んだ。生きるために‶力〟を欲した・・・だが、それの何が悪い!結果的に周囲の者まで巻き込んだが、全て生きるためだし昔の事だ!今更如何する事も出来ねぇし、償うには遅過ぎるじゃねぇかよ・・・・・」
晶やベルガー達に話すべきか。教皇やハルには?ガルバデスには謝るべきなのか。答え何て出なかった。
兎に角もう一度、俺の中に居ると言うあいつと話してからだ。晶達が会ったのがあいつだとして、俺はあいつの姿は見ていないし、幻だと言っていたから見た目はあてにならないだろう。それに、アンジェリカには名乗っておいて、何故俺には名乗らなかった?もしかしたらアンジェリカに神託を下した奴とは別の存在なのかもしれないしな。信じる信じないは別として、その辺聞き出さないと。
色々判明したけど解らない事が多過ぎて、取り敢えず放置して事態の進展を待つしかなかった。と言うか何かしようにも何をしたら良いのか、する必要があるのか、それさえも解らなくなっていた。だって、邪神復活とかも嘘っぽいじゃん。
しかし、宿主とか言われると寄生虫かなんかを想像しちゃうな。虫下しで居なくなりゃ楽なのに。
ここまで読んで頂き有難う御座います。




