44
何時ものように日の出と共に起きて調理場へ。ライエルに任せても良いんだが、他にやる事も無いしな。
「おはよう、ジン兄さん。何時も早いけど、もっとゆっくりしてても良いと思うよ。俺達に出来る事は任せてさ」
「そうそう、あたし達だってお皿の準備位は出来るんだから」
「あたしは料理も出来るようになりたいなぁ・・・ライエル兄さんにばかり負担かけたくないし」
今朝はミリーとエレナがライエルの手伝いをしていて、少ししたらヒースとニックも起きてきた。
「ありゃ、ちょっと遅かったか。俺達も手伝おうと思ったのに」
「それじゃ、あたしの代わりをお願い。あたしはアキラさんを起こしてくるから」
晶を起こしに行くと言うミリーの代わりにヒースとニックが手伝い始めた。う~ん、俺のやる事が無い。こいつらの成長を喜ぶべきなんだろうけど、ちょっと寂しいな。
「ほら、もう直ぐ出来るから、ちゃんと顔を洗ってきて」
「・・・ん~・・・解った・・・・・あ、おはよう・・・皆・・・・・」
寝ぼけ眼の晶がミリーに押されて風呂場に有る洗面台へと向かって行った。夜更かしでもしたのか?朝に弱くなかった筈だけど。
「いやぁ、ライエル君のご飯は美味しいなぁ・・・・・」
「ベーコンエッグで褒められても・・・・・」
「おい、お前等に言っておくが、晶に家事をやらせるんじゃないぞ。こいつは食器を洗う事すら出来ない女だ」
「「「「「えっ!」」」」」
「す、すまない皆・・・如何言う訳か、昔から家事だけはダメなんだ・・・・・」
「だけ、じゃねぇだろ。武術以外は何も出来ないってはっきり言っとけ。その方が被害が出なくて済む」
「そ、そこまで酷くは・・・無い・・・・・と、思う・・・・・」
「と、言う訳だ。解ったろ、こいつに余計な事だけはさせないように」
「なんか良く解ったよ。アキラさんは店の調理場に入らないでね。調理器具が壊れたら仕事にならないから」
「アキラさん・・・接客は大丈夫?貴族のお嬢様にお茶零したりしたら・・・・・」
「うむ、不思議と運ぶのは大丈夫だ。何故か食器を洗ったり棚に仕舞おうとすると落として割ったりするがな」
晶はこの謎能力の為に仕事が出来ずに街に馴染めず山に帰ったのだ。俺は秘かにこいつは破壊神か何かの生まれ変わりなんじゃないかと思っている。
門を開けて衛士に挨拶をしてヒースとニックを見送り営業開始である。晶は基本売り子のミリーとエレナの手伝いで、東屋で注文が有れば届けるのと、難癖をつける奴の相手なんかもして貰う事になっている。見た目は優男だし、貴族令嬢には人気が出るだろう。そして爺さん仕込みの武術の腕もかなりの物だから、暴れる奴がいても簡単に取り押さえてくれるだろうと期待している。
暫く晶が働く様子を見ていたが、特に問題無いようなので、後は任せて家に戻った。午後から宮殿に行かなきゃならないし、部屋の掃除とかしておかないとな。
「それじゃ行ってくるけど、何か有ったら表の衛士に頼るんだぞ」
皆に声をかけて宮殿へと向かった。門番が俺を見て直ぐに門を開けてくれたが、良いのか?そんなセキュリティがばがばで。まぁ、俺的には楽だから良いけど。
通された応接室で待つ事十分。教皇とアンジェリカにハルがやってきたので、晶たちに聞いた話をした。
「ふむ・・・おかしな話ですね。建国以来・・・千五百年程になりますが、毎年儀式は行ってきました。今年は日がずれてしまいましたが昨日行いましたし、特に変わった事も無く終えました。一体何のために儀式を止めさせるのか全く分かりませんね」
教皇も俺と同じ見解だ。長年続けても結果が出ない不確かな儀式を態々止めさせる意味があるとは思えない。しかも異世界人を呼んでまでだ。
「・・・・・一つ気になったのですが、私に神託を下さった神様はウォーズン様と名乗っておりました。見た目が神像と同じでしたし、神々しい光と魔力に包まれていたので疑う余地などなかったのですが、先程聞いた光の神と同じのような気がするのです」
晶を召還した神とアンジェリカに神託を下した神が同一の者だとして、異世界人を呼んで儀式を止めさせようとしておいて、主神を騙って俺を保護する意味が解らない。そもそも俺を召還した奴は何者なんだ?
「まぁ、あれだ。話の中に出てこない闇の神が邪神なのか、主神面している奴が邪神なのか、それとも全てが偽りなのか、その辺も含めて相手の目的が解らない以上対策も取りようが無いし、現状を維持しつつ何かあったらお互い連絡をするって事で」
「そうですね。暫くは現状維持で様子見が無難でしょう」
何だか知らんが、何も言わずに教皇の後ろに立っているだけのハルにも一応聞いてみた。
「おい、ハル、お前はどう思う?何か気になった事とか無いか?」
「私は皆様に意見する立場では在りません。聖下とジン殿のお決めになった事ですから、私に否は御座いません」
「・・・・・・何だそりゃ?てめぇ喧嘩売ってんのか?それがケジメだとか抜かすんなら、二度と面見せんな!自分らしさを無くしたら、いざって時誰一人守れねぇぞ!覚えとけ!」
ハルの態度が気に入らず、扉を乱暴に開け放って部屋を出た。何時までも下らねぇ事に拘りやがって、馬鹿野郎が。
このまま帰ったら誰かに当たりそうだったので、気晴らしに街の外に出て日が暮れるまで聖都の外周を走った。こんな気分の時は体を動かすに限るな。
家に帰ると皆に迎えられて夕食に。思った通り晶が貴族令嬢達に大人気で何度も呼ばれて忙しかったとか、お陰で売り上げも良かった、なんて楽しく話をしながら食事をした。これこれ、俺が求めた日常はこれだよ。
「ちゃんと働けたし、良い一日だった・・・そうだ!皆で一緒に風呂に入ろう!広い風呂場だ、全員でも問題無く入れるだろ」
「「「「「えっ!」」」」」
「ちょっとアキラさん!何言ってるのよ!そんなのダメに決まってるじゃない!」
「え?何故だ?十分な広さが有るじゃないか。ミリーちゃんとエレナちゃんがダメなら他の皆で入ろうか」
「無理無理!女の人と入るなんて無理だから!」
「何言ってるんだ?男も女もないだろう、家族じゃないか。さぁ行こうライエル君!」
「ちょっ!やめて!離して!ジン兄さん助けてえええぇぇぇ!!」
流石に放って置く訳にも行かず、ライエルを晶の魔の手から救い出した。晶はミリーとエレナに部屋へと連れて行かれ小一時間説教され、良い一日とやらは最後まで続かなかった。
これで女として見て欲しいとか無理だから。
ここまで読んで頂き有難う御座います。




