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「俺が師匠に山の中で拾われたのが三歳の時で、それまで何処に居たとか、何故そこに居たのか全く覚えていないんだ。まぁ、所謂記憶喪失って奴だ」
「拾われた?私は孤児院にでも居て引き取られたのだと思っていたぞ」
「普通はそうなんだろうなぁ・・・まぁ師匠も山奥に一人で暮らしてたし、俺と同じように逃げてたのかもな」
「聞いた事はなかったのか?」
「ああ、一応聞いた事は有る。が、師匠は寡黙な人で、自分の事は殆ど話さなかったよ。師匠と二人で訓練の日々。俺達にとってそれが当たり前の生活だったし、他に人がいるとか知りもしなかったしな・・・それが俺達の日常で他に何も要らなかったし、知る必要も無かったんだ・・・・・その日が来るまでは・・・・・」
「・・・・・山を下りた切欠だな?何が有ったのだ?追っ手にでも襲撃されたのか?」
「いや・・・あの日、俺が十三になって三日後の事だ。何時もの様に朝食を取って、訓練に出ようと靴を履いていたら師匠に呼ばれてこう言われたんだ『私が行くまで表で待っていなさい』ってな。俺は何だか解らないまま表で待ってたんだよ・・・・・暫くして出てきた師匠は何時もの稽古着じゃなくて、これと同じ上着を着て来たんだ」
「その上着には何か意味があるのか?いつも着ているが」
「こいつは免許皆伝の証で、俺の流派、真羅流の継承者の証でもあるんだ。こいつを着て来たって事は継承者として来たって事だ」
悲しげな顔をする俺にハルが聞いてきた。
「ま、まさか・・・戦ったのか?」
「ああ、問答無用で襲われたよ。俺は訳が分からずに困惑しながらも防御に徹してたけど、兎に角強くてさ。碌に受け流せなくて手も足もボロボロになって・・・・・ただ死にたくない、その一心で放った左拳が師匠の顎を、右拳が鼻を、右回し蹴りが側頭部を捉えて・・・・・師匠は動かなくなったよ・・・最後の言葉は戦いの最中に言った『お前の求めた‶力〟は、この先に有ると知れ!』だったな。正直、師匠を殺してまでして欲しくは無かったよ」
「・・・・・で、戦う羽目になった理由は何なのだ?なぜ急に襲われるような事になったのだ?」
「それもさっぱり解らん。俺の部屋に証の上着と一緒に手紙が置いて有ったけど『この十年間は楽しかった』とか『山を下りて世界を知れ』位しか書いてなかったし。まぁ、師匠も四十近かったから、衰えきる前に戦いたかった・・・のかね?それでまぁ・・・師匠の居ない家に居たくなかったし、帰って来る気もなかったから、自棄になって家を壊して山を下りたんだ」
「態々壊す事も無かったろうに・・・まぁ気持ちは解らないでもない・・・か・・・・・」
「最初は兎に角驚いたよ。高い建物に沢山の人。読み書きと計算は出来たけど、お金の存在も知らなかったし身分証もない。向こうじゃ成人は二十歳だし働くのも十六歳からで保証人が必要だったりとかでさ。殆ど無給で働かされたり、騙されてお金を取られたりもしたよ。それで十四の時に俺の力が強い事に目を付けたゴロツキに利用されそうになってな。ちょっと揉めて殴り掛かって来たから、軽く殴ってやったら簡単に死にやがってさ。仮にも暴力を生業にしてるんだから、師匠程では無いにしても、それなりに鍛えてるんだと思ってたんだけど、間違いだったよ」
「お前の基準で『それなりに鍛えている』は、一般人のそれでは無いだろうに・・・・・」
「まぁな。それで、警察・・・こっちで言う衛士な、それに捕まって施設に入れられたんだけど、‶真羅流〟を知ってる奴が国の偉い奴に居たんだよ。で、そいつの使いがやって来て連れて行かれたんだけど・・・まぁ表に出せない仕事をさせられそうになって逃げたと。で、何度かやって来た追っ手の内の三人が弱すぎて死んだから、それからは戦うのは止めて唯逃げ回ってたんだ」
呆れ顔のハルに苦笑いをして話を続けた。
「兎に角常識が無いと言うか知らなさ過ぎたんで、図書館とか本屋・・・本をタダで読める所で知識と情報だけは手に入れて、農家や漁師の手伝いをしながら七年間国中を逃げ回っていたら師匠と過ごした山の近くにいたんだ。それで墓参りに行ったらこっちに飛ばされたって訳」
「・・・はぁ・・・・・お前、とんでもなく波乱万丈の生活を送って来たんだな。平穏を望んでいるのも納得だ」
「まぁ、なんだ。お前のした事は法的には問題が有っても俺的には特に問題無いんだよ。あいつはそれだけの事をしたんだし、俺が頼んだってのも有るけど、手順がちょっと違っただけで本来なら死罪だったんだしな。それに・・・育ての親で武術の師を殺した俺からしたら犯罪者を殺した事なんて戴した事じゃないだろ」
如何返したら良いか解らないと言った困惑顔のハルに俺は続けた。
「教皇さんも心配してたぞ。お前にガルバデスの跡を継いで欲しいってのは、以前から考えてた話しみたいだし、団長不在の今はお前しか騎士団を纏める者が居ないんだよ。それでだ、ガルバデスが指揮をとれるようになるまでは騎士団を、その後は俺預かりで有事の際は派遣するって話になってるんだが、如何しても納得いかないならガルバデスが指揮官として復帰してから決めるってのは如何だ?まぁ、この国が如何なっても構わないってんなら話は別だが」
「私では無く、貴様がやれば良いだろう。それだけの‶力〟が有るのだから」
「そいつはお断りだな。俺にとってこの国が如何なろうと知ったこっちゃ無いんだよ。尤も、弟妹達や友人知人に害が有るなら動くけどな」
「それは結局の所この国の為に動く事なのではないのか?実際、今回も動いたのだし・・・・・」
「面倒なのも目立つのも嫌なんだよ。言ってんだろ、平穏に暮らしたいだけだって。まぁ、動くなら裏でだな。今回の実行犯の仲間に知り合いがいて、そいつを抑えてる。俺と同じ異世界人達だから話を聞いてから可能なら引き込もうと思ってる。だからお前は表で動け。事の真相、知りたくないか?」
「・・・・・その知り合いと言うのは信用出来るのか?」
「ああ、正義感の塊で嘘の付けない奴だ。他の奴らは知らないが、そいつだけは仲間に出来ると思う」
「解った。良いだろう、暫くは父上の代わりをしてやる。その後は貴様の奴隷として扱うが良い。だが、そ奴等を引き込めなかった時は貴様が始末しろ。何が有っても逃がさない事が条件だ」
奴隷云々は置いといて、取り敢えずハルの説得?が上手く行ったので、ハルを連れて牢から出て教皇に報告をして家に帰った。
明日からハルは騎士団長代理として働き、ガルバデスが復帰次第家に来る事になった。
「で、何でお前は一日二日でそんなに薄汚れてんだよ」
「い、いや、その・・・生誕祭の賑わいで宿が取れずに路地裏で寝ていたり、スリを追い掛けたりだな・・・その、色々だ・・・・・」
「はぁ・・・ここは日本じゃねぇんだから気をつけろよ。一応女なんだし」
ハルが騎士団長代理として働き始めた日に浮浪者並みに薄汚れた晶がやって来たのだった。
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