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 調理場で夕食を準備し、子供達にダイニングへと運んで貰う。ハルも手伝えば汚名回復に繋がるだろうに。貴族に生まれて身の回りの世話をされるのが当たり前の環境で育ったから、そう言う思考が働かないんだろうな。昼の時も文句言ってたし。


 で、最後に自分の分のスープを持ってダイニングに行くと何時もの席順と変わっていた。


 以前は長テーブルの短辺、所謂上座に俺一人で座っていたのだが、そこにはアンジェリカが座っていて、反対側の短辺の下座にはハルが。まぁこれは変わって無いし、こいつは下座のままで良いだろ。

 そして長辺の片側に男の子達三人。その向かい側に女の子が二人で、二人の間にしか席が空いて無い。六人は座れる長辺の真ん中に寄ってんだけど・・・何か不穏な空気を感じるな。

 

「あ、あの!私はラインハルト様の隣で良いと言ったのですけど・・・その、ここはジン様のお席ではありませんか?昼食時に座っておられましたし」


 短辺と言っても結構な長さが有るので詰めれば三人は座れるけど、それは無いな。


「だめだめ、皇女殿下を別の所に座らせるなんて出来ません~」


「そうそう、そんな失礼な事出来ません~。ジン兄ぃも早く座って。早くご飯にしよ~」


「ま、まぁ、俺がそこに座ってたのも、こいつ等が家主だからって言うから座ってただけで、別に決まってた訳じゃないから気にすんな」


 何かミリーとエレナの笑顔が怖いので従う事にした。こう言う時の女の子には逆らってはいけないのだ。男の子達三人の目からハイライトが消えてるし。


 で、席に着いて食べ始めた訳だが・・・・・


 静かだ。


 誰も喋らない、と言うか、喋ろうとしない。


 ミリーとエレナは笑顔を時折俺に向けてくるが、他は皆俯いて黙々と食べているだけだ。


 唯々黙々と食べ続けた。何だかなぁ・・・やはり俺は普通の生活は出来ないのだろうか?漸く手に入れたと思ったんだけどなぁ。でも、現状でこの子達を置いて出て行くのは無責任だし・・・・・


 食べ終えて、お茶を飲みながら如何した物かと考えを廻らせていると、ライエルが意を決したように口を開いた。


「ジン兄さん・・・俺に料理を教えてくれよ。今のまま親父さんの所にいても、手は足りてるから皿洗いとか芋の皮剥き位しかやる事ないし・・・それに、テッド兄さんが結婚するって話も出てるんだ。そうなったら俺だけで無くミリーとエレナも必要無くなっちまう。だから・・・そうなる前に何か〝力〟を付けたいんだ!頼むよジン兄さん!」


「何だ?急に。そんなに焦る必要ないだろ」


「・・・・・俺、ずっと考えてたんだ。ジン兄さん位凄い人が何で旅をしてたのかって・・・その理由が今日解ったんだ・・・・・ジン兄さん、国とか偉い人に使われるのが嫌で逃げてたんだろ?・・・ジン兄さんなら倒す事なんて簡単に出来た筈だ。でも・・・それも嫌で・・・・・俺達のせいでジン兄さんが嫌な思いしてまでここに居る事無いよ!」


 こいつはこいつで俺に恩を返す為に色々考えてたんだな。


「馬鹿だな。俺がお前達置いて居なくなる筈がないだろ。七年掛かってやっと手に入れた家族なんだぞ。お前達が一人前になって自分から巣立って行くまでここに居るから詰まらねぇ心配すんな。それと、料理は教えてやるから明日にでもおかみさん達と話し合って来い。俺も明日は出掛ける用が有るし、タダとは言え無理言って働かせて貰ってたんだ、礼を言いに行かないとな」


「む、貴様が出掛けている間、私は如何するのだ?付いて回れば良いのか?」


「お前みたいな有名人連れて歩ける訳ないだろ。目立ってしょうがねぇじゃねぇか。お前には課題をやる、立て」


 ハルを立たせて数歩下がらせ指示を出した。


「足は肩幅、肩の力を抜いて拳を軽く握って前に出せ。呼吸は腹で、背筋を伸ばして顎を引け。そのまま太腿が床と水平になるまで膝を曲げろ」


 解りやすく言うと空気椅子って奴だ。騎馬式や馬歩とも言われる姿勢なんだが、これだけだと瞬発力が付き難い。


「あ、ああ・・・・・こ、これはきついな・・・・・」


「そのまま三十数えて真上に飛び上がれ。そして、着地したら直ぐにその姿勢に戻る。これを繰り返せ」


 これで筋力、持久力、瞬発力を鍛えられる。


「わ、解った。それで、何回やれば良いのだ?」


「何回とかじゃねぇよ、せめて天井に手が付くまで続けろ。出来なきゃ話にならん」


 ハルの身長は185cm位だ。手を伸ばして指先までが220cmって所か。この家は元貴族の物だっただけあって、床から天井までは3mと少々高めだ。つまり垂直飛びで最低80cmは飛べるようにならないとダメって事だな。


「む、無茶言うな!この体勢だけでも辛いと言うのに、天井に届くまで続けろと言うのか!貴様は私に出来もしない事をやらせるつもりか!」


「ん~・・・俺の見込み違いかな?最初に会った時、俺の蹴りを交わした瞬発力と脚力の底上げで十分勝てるようになる筈なんだが、本人のやる気が無いんじゃなぁ~・・・・・」


「貴様は出来る・・・のだろうな・・・・・だが、一度見せて欲しい。出来れば全力で飛ぶ所をだ」


「馬鹿言え。こんな所で全力出したら床が割れちまうし、天井にもぶつかっちまうよ。よっと・・・ほれ、これで良いか?全力が見たいってんなら外でやってやろうか?」


 俺が軽く飛び上がって天井に掌を付くと、全員が目を見開いて固まった。おいおい、ドラゴン倒してんだぞ、この程度で驚くなよ。


「ゆ、床が割れる?石の床を踏み割ると言うのか・・・・・」


「いや、踏み割ると言うより、蹴り抜くだな。因みに、俺はその動きだけを五歳から十歳までの五年間、一日も休まず毎日繰り返してたぞ。朝食から昼食までの間ずっとな」


「・・・・・もう良い・・・貴様の化け物染みた強さの秘密が解った。明日は自宅でお前が戻るまで繰り返しておく。殿下、今日の所はこの辺でお暇しましょう」


「そ、そうですね。余り長居するのも失礼ですし・・・その・・・ご馳走様でした」


 事も無げに言う俺に呆れた表情を見せ、暇を告げるハル。アンジェリカは奇妙な生き物を見たと言わんばかりの表情でハルの後に付いて帰って行った。失礼な奴等だな。


 しかしミリーとエレナのアンジェリカに対する警戒心が凄いな。二人には悪いが俺は誰とも結婚とかする気は無いんだよなぁ。子供が生まれた時の事を考えると・・・やっぱ無理だな。

ここまで読んで頂き有難う御座います。

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