19
「それで、お前も唯礼を言いに来ただけじゃないんだろ?クッキーの作り方ならクランゼル家に教えたからそっちで聞けよ」
「そ、そうか。いや、それもなのだが、実は貴様を探していたのだ」
「やっぱりお前もかよ・・・で、お礼参りなら今直ぐにでも受けてやるぞ。その代わり・・・二度と皇女さんの護衛には付けなくなるけどなぁ・・・クックックッ・・・・・」
黒い笑みを浮かべ軽く殺気を放つ俺にラインハルトは肩を竦めて流した。
「いや、それは無いな。本来ならばあの時に死んでいたのは自分が一番良く理解している。それで本題だが・・・先日、違法人身売買組織の摘発をした。まぁ、二十人程の小さな組織だったのだが、その発端となった事件の調書に貴様の名前が記されていてな、その住所の宿屋に行って見れば数日前に出て行ったきり戻って来ていないと言うではないか。最も、余程の事が無い限り顧客の詳しい情報は漏らさないのが常だから、聖都内の別地区にでも居るのではないかと思っていたのだが・・・まさか隣に越して来ていたとはな・・・しかも引越しの挨拶まで・・・・・ああ、話が逸れたな。それでだ、騎士団の方からその件で感謝状が送られる事になっているのだが・・・・・」
「お察しの通り遠慮しとく。俺にとってそう言うのは面倒事でしかねぇからな。で、俺が気になってんのは、この国のトップ・・・いや、法皇だか教皇だかは俺の存在を如何思ってんのかって事だ」
「ああ、特に利用しようとか言う話しは出て無いな。下手に突いてこの国を出て行かれて敵対するよりも、我が国に留まって貰う事の方が重要とのお考えだ」
国内に居を構えれば有事の際には身を守る為に自主的に手を貸してくれるだろうって考えか。上手いやり方だと思う。実際その通りになるだろうしな。
「ジン兄さん。何時までもそんな所で話してないでヴェルテール様にも中に入って貰おうよ。食事しながらでも話は出来るじゃん」
「そうそう、一緒に夕ご飯食べませんか?ヴェルテール様。ジン兄ちゃんの作るご飯は凄く美味しいですよ」
「ハァ・・・解ったよ、確かにこのままここでって訳にもいかないか・・・・・」
と言う訳で、ラインハルトを家に入れて夕食にした。何か皆こいつの味方だし・・・・・イケメンめ、ミリーとエレナはやらんぞ。
今日の夕飯のメインはトンカツだ・・・ちくしょう、バッグに仕舞っとけば良いからって五十枚も揚げるんじゃなかった。まさかこいつに食わせる事になるとは・・・・・
「貴様から貰った品を皇女殿下にもお渡ししてな、甚く気に入られて何処で購入したのか知りたいと・・・まさか貴様の手作りとは思いもしなかったが・・・・・明日皇女殿下に報告する事に為っているのだが・・・貴様の所在も報告せねばならんと言う訳だ・・・・・それでだ、良かったらこれの作り方も教えて貰えないだろうか?」
「何がそれでだ!どいつもこいつも貴族の癖に食い意地張り過ぎだろ!?報告すんのは仕事だから仕方ねぇし、止めねぇよ。でもなぁ、料理のレシピは関係ねぇだろ!」
「あ、いや、すまん。正直に言うとだな、宮廷の晩餐会で食べたどの料理よりも旨いのだ。焼いたパンに塗って有るのはバターと大蒜か?このような食べ方など考えた事も無かったが、これだけでも来た甲斐が有ったと言う物だ」
「お前・・・貴族の癖に寂しい食生活送ってんだな・・・もっと料理人に研究させろよ・・・・・良いか、トンカツは下味を付けた肉に小麦粉を塗して溶き卵に潜らせて、パンを粉にした物を付けてから油で揚げるんだよ。揚げるって解るか?肉が沈む位の油を熱して、その中に入れて色が茶色になるまで待つんだ。温度が高過ぎると外側だけ焼けて、中が生焼けに為るから気を付けるんだぞ」
「ジン兄さん、親父さんにも教えて良いか?後、クリームシチューも!」
「別に教えても良いけど、牛乳も油も高いから庶民向けの宿屋じゃ値段が高くなり過ぎて売り物にならないんじゃないか?」
「あ~・・・そっか~・・・話すだけは話してみるよ・・・・・」
「その、すまん・・・油を一食の為に大量に使うのは貴族でも厳しい。それこそ、月に一度位ならばまだしも、そう頻繁には使えないのだ・・・・・」
「「「「「「えっ?!」」」」」」
ラインハルトの言葉に、驚いて顔を見合わせる俺達。マジかよ・・・俺、湯水のように使ってんだけど・・・・・貴族って意外と金持ってないんだなぁ。
「な、何だその哀れむような目は?!いいか、我が国の貴族の大多数は国からの俸給のみで生活しているのだ。領地を頂いている家以外は何処も似たような物だ!」
「ジン兄ちゃん・・・時々で良いからヴェルテール様にご飯やお菓子をご馳走して上げようよ・・・あたしの分減らしてもいいから・・・・・」
「ああ、そうだな・・・週に二、三回なら食いに来て良いからな。遠慮すんなよ、お隣さんなんだから。ほれ、もう一枚食っていいぞ」
「止めろ!その目は止めろお!!そ、そうだ、貴様は良くこの家を借りられたな。この辺りは高級住宅街だ、月の家賃の平均は三十万近い筈じゃないか。貴様はこちらに来て一月程だろう?仕事は何をしている?如何やって稼いだのだ?違法行為は働いていないだろうな?」
何か露骨に話を変えやがったな。俺はこの辺に住める位金持ってんだアピールか?ふむ、言おうか如何しようか少し迷ったが、オークションが開催されればばれるだろうし、さっさと引導を渡してやる事にしよう。何か疑われたし。
「あのな、そろそろ聖都中で噂になってんだろうけど、近い内に商業組合主催のオークションが有るだろ?それに出品される物は知ってるか?それを組合に売ったのは俺なんだよ」
「・・・・・・・・・・え?」
「その反応だと知ってるみたいだな。俺の仕事は狩人で、ウォータードラゴンを倒してここの土地家屋と二十億メルで組合に売ったんだよ。つまり、ここは借家じゃなくて俺個人の家って訳だ」
「・・・・・な・・・何だそれはあああぁぁぁ・・・・・!!」
「因みにこの間は倒したリザードマン三十匹売って千五百万メル稼いだし、他の獲物でも十日で三百万メルは稼げるが?」
「ふ、ふざけるなあああぁぁぁ・・・・・!!」
何か信用して無いみたいなので、会員証の裏面を見せてやったら拳を握り締めて俯き、プルプルと震え出した。あ、耳まで赤くなってる。
「・・・・・くっ・・・週に一度部下達と呑みに行くのが私の唯一の贅沢だと言うのに・・・一月で私の俸給の何倍も稼ぎやがって・・・・・主よ、これが私に課せられた試練なのでしょうか・・・どうか彼の者に天罰をお与え下さい・・・・・」
「ブハッ!・・・ククク・・・み、皆見てみろよ、こいつ壊れたぞ・・・ワハハハハハ・・・・・!!」
「壊れとらんわ!!」
終いにゃ神に祈りだしたし、結構からかい甲斐のある面白い奴なので、飯ぐらい何時でも好きなだけ食わせてやろうと決めた。
ここまで読んで頂き有難う御座います。




