嫉妬
話が終わり、学長室を出た宏斗とリリサは、教室に戻ってきた。
みんな、リリサを気の毒な目で見ていたが、宏斗を見る目だけは違った。
「おい、お前。マスタークラスのモンスターと戦ったのは本当か?!」
まるでヒーローのように、皆が駆け寄ってくる。
もてはやされることに困惑している宏斗の耳に、したうちが聞こえた。
「マスタークラスから生き延びたくらいで、勇者気分かよ。」
「なんだお前、自分がその経験がないから嫉妬してんのか。」
嘲笑すかのように誰かが言う。
「違えよ。別にそいつが戦って勝ったわけじゃねんだろ。だったら、生き延びたくらいで、ちやほやされるようなことはしてねえだろ。」
それに、宏斗が反応する。
「確かに、お前の言うとおり、俺は勝ったわけじゃない。だが、逃げたわけでもない。それに、俺はそのことを鼻にかけてない。」
「俺には鼻に着くんだよ。その自分は周りとは違いますよって顔。そういうやつが俺は大っ嫌いなんだ!」
「じゃあ、見なければいいだろ。」
「いやでも目に入る。」
二人のにらみ合いが続く中、それを遮るように、カハイドが教室に入ってきた。
「何をしているんだ君たち。授業を始めるから、もめごとはやめなさい。」
皆いうことを聞き、席に座る。
「先ほどの件だが、魔法大学内にマスタークラスのモンスターが現れた。モンスターは迅速に処理されたが、結界内に侵入されたのは初めてだ。そこで、君たちには急だが、モンスターと悪魔について、校外研修を行ってもらう。」
いきなりのことに、教室は騒然とする。
「静かに。驚くのも仕方ない、まだ君たちがここにきて、1週間しかたっていないからな。だが、緊急を要するものなのだ。世界がこうなってもう20年が経つ。いつ、再びあれを起こされるかわからない、だからこそ、急がなくてはならない。ここは、ほかの大学とは違って研究機関ではない。魔法を学び、それをどう活かしていくかを君たちが考える場所だ。少し強引になってしまって申し訳ない。詳細は追って連絡する。」
学長室横会議室
「集まってもらってすまんな。」
「マスタークラスの出現は予測できたのでは?」
「たく、今頃こんなところに集まる必要あんのかよ。」
「おい、クソガキ。お前が言えたことか。」
「…。」
ダガールが入ってきて早々、けんかが始まりそうになる。
「はぁ、お前たちはいつになったら、その子供じみたけんかをやめれる。」
「まったく同意見です。」
「悪いなバスノーチス、二人を止めてくれ。」
「わかりました。ところで、私の質問にも答えてください。」
「ああ、結界内の出現は予測できなかった。魔力の揺らぎすら感じられなかった。おそらく、新たな魔法によって、狙って転移させたものだろう。」
「狙う?何を狙っていたのです?」
バスノーチスは、喧嘩する二人を結界で閉じ込めながら聞く。
「今年の新入生に、イギの息子がいる。奴らは、彼を狙ったんだろう。」
「なるほど、ウズさんを狙った時と同じですか。」
「まあそうなる。幸いなことに、クライドエルが目を覚ましたようだ。あいつのおかげで、モンスターは死に、目を奪われずに済んだ。」
「ふん。それじゃあ、バスノーチスの結界より、お前の対応の悪さが原因だったんじゃないのか?」
「そうだとしても、結界内に入ってきたのは、モンスターだけじゃないんだ。」
「悪魔ですか。」
「そうだ。どうやら、奴らも学習能力が随分と上がっているようだ。」
「はっ、こいつの学習能力も上がればいいのにな!」
「てめぇ…。ぶっっ殺す!」
「やめろ、ガエン。お前もいい加減に…。」
「誰に向かってお前つってんだ。私はお前より、600年年上だぞ。」
「何かにつけて、その年上アピールするが、性格が身長に比例してガキなんだよ。」
「図体だけでかい、ガキ大将に言われたかないな。」
「なんだと。」
「やんのか。」
「はぁ…。」
バスノーチスは、深くため息をつきながら、2人を結界で閉じ込める。
「ルルス、君からも何か言ってくれ。」
先ほどから何もしゃべっていない1人に、バスノーチスは言う。
「私はこの中で、最年少ですよ、そんな私が口出しなどできません。ハファイルさんがいたならどうにかなっていたでしょう。」
部屋が静まりかえる。
「悪かったよ、そんな悲愴なことを言うな。」
「まあ、若いのの面倒を見るのも、私らの務めだからな。」
ガエン 構築魔法を専門とする、サーハルドラスディ魔法大学の学長。身長3メートル、巨人族の血族。
リーファ イギ・ハヴァールの死亡後、彼の後を継いだ学長。身長160㎝、3000年生きている性悪女。
ルルス 本名ルルス・ヴァーム・エイデル。回復魔法を専門とする、イーダルトヴァッス魔法大学の学長。
ハファイル 本名トーイスト・ダール・ハファイル。ルルスの前任。禁忌魔法を奪われたときに殺害された。
魔力の揺らぎ 魔法を発動する際に感じる、魔力の動き。モンスターは階級が高いほど、魔力の揺らぎが感じやすくなる。
魔力 自然エネルギーが人や動物、物に宿ったもの。生命があるものの場合、これがなくなると、死にいたる。




