分かち合い
病院のベッドの上、宏斗は目を覚ます。
「目が覚めた?」
ハノールがそう問いかける。
宏斗は体を起こそうとする。
しかし、頭に激痛が走った。
「っ…。」
「まだ、安静にしていたほうがいい。回復魔法は神経にまでは作用しないからな。」
宏斗は、力を抜く。
「…トロスは?」
「別の部屋で静かに眠ってる。とりあえず生きてはいる。」
「…そうか。」
「まったく、あれだけ血だらけになって、生きているのが不思議だな。」
「ヴェルスティルは?」
「私たちの仕事はあくまで監察。それ以上のことはできない。ただ、今回は私たちが彼らの安住を脅かしたといってもいい。約束を破って土足で踏み込んだのだから、彼らに落ち度はないと思ってる。だから、できるだけ開放の道を選ぼうとしてる。決めるのは私らの上の委員会だから、保証はできないけど…。」
「…あいつは、自分の生き方を見失ってた。縛られた世界で生きることに絶望して、誰かに殺してもらうことを望んでいた。」
「…今は、彼らの今後を祈るしかない。」
ガベルの音が鳴り響き、静まりかえる法廷。
「被告は、魔人監察局統括の結界魔法内において、当局局員6名の殺害を認め。いかなる刑罰を受け入れている。そのため、被告は殺人罪と傷害罪により死刑に処される、しかし、本件は魔人監察局及び魔人統制委員会の指定した結界内において、魔人の安全への配慮に至らなかったこと、当局当委員会の定めた魔人の安寧と人との共存を侵したことも一因であることを理解し、被告は残りの人生を本件の反省に努めることとする。」
連れていかれるヴェルスティルの目には涙があった。
退院した宏斗とトロスは、大学に帰ってきていた。
「まさか、たった1週間で帰ってくるとは、本来は1か月なんだがな。」
「2人のわだかまりも解けてるみたいだな。」
「どうだかな。まあ、いずれにせよ彼らには次に進んでもらう必要がある。特に、宏斗は。」
豪雪吹き荒れるシベリア。
「なんであんたなんかと・・・。」
そう不満を漏らすのは、トロスの友人の1人ゾラ。
「足止めを食らっていると聞いて送られてきたんだ。こっちだって不本意だ。」
険悪なまま、2人は樹氷の森を歩いていく。
「何をしに来た。」
その声に足を止める。
木々の間から、毛皮に身を包んだ男が現れた。
「ハルクヴァール魔法大学のものだ。」
「また貴様らか、先日も言ったがここは貴様らが立ち入っていい場所じゃない。すぐに立ち去れ。」
見渡すと、周りには弓を構えた数人が木の陰に隠れたいる。
「そうはいっても、簡単には引き下がれない。オルトルという男に会わせてほしい。」
その名前を聞くと、目の前にいた男は即座に矢を射った。
宏斗は防御魔法が間に合わず、手でその矢を受け止め、突き刺さった。
「奴には合わせられない。どのような理由であっても、われらの地で奴の名を発すれば、生きて返すわけにはいかない。」
男は再び構える。
引いた矢から手を放そうとした瞬間、暴風とともに雪煙が両者の間に立ち込めた。
「俺の客人だ。手を出すなよ。」
その声に、隠れていた者たちも皆一斉に弓を下す。
「貴様。」
「いっただろ。勝手な真似はするなと。」
魔人統制委員会 魔人監察局の上層部。魔人排斥を推しているため、監察局とは意見が合わない。




