第3話「熟考と真夜中の珍事」
お読みいただきありがとうございます。猫型ロボットのユーです。
自分が思う以上に回りに評価されていることを知って、呑み込めていないエルティモ。
彼は人類史上最高の脳構造を持っているので当然といえば当然だけど、国を挙げての人材競争に巻き込まれていたんだ。
大きな問題に直面しても、自分なりのやり方で向き合おうとする姿勢はさすがで、素敵です。
私は彼の大ファンなんだ。
そんなエルティモが熟考の末にたどり着く答えと、真夜中に起こるちょっとした事件。楽しみな第3話。
スタート♪
父カイルから教えられた、この国の現状をあらためて思案した。
実際に途方もない金額だ。
借金の額は100億金貨、100金貨あれば家族を持たなければ1年は遊んでいける金額だ。
それを蓄えを切り崩しながら、20億金貨を返済済み、年末に10億金貨ずつ返すとのこと。
年間の税収入やその他込々で15億金貨なので、正直このままだと厳しい。
武力商業都市の宰相の謀略には驚かされる、うちの収支を見抜き、断らないぎりぎりの金額を指定していたことが伺える。
危険な人物だ。
考えるのを一度やめ、気分を変えるために場所を移すことにした。
考えを整理するには一人になる必要がある。出来るだけ声がかけられない状況で、目に入る情報が少ない方がいい。
自分のことがわかっている。目に入る情報はすぐに脳が処理してしまい、高度な解析をしてしまう。
それをさけるために、景色がいい平野に行くことにした。
少し高台になっており、ちょうどいい小岩を発見した。
「おお、いい場所発見。」
そこに腰をかける。城下町や農業を営む人たちの取り組みが見える。これぐらいの情報量がいい。
左人差し指でこめかみあたりをとんとん、と繰り返したたき始めた。
深く集中するための自分のルーティーンだ。
「まず、ゴールを設定する。この場合だと、年間の収入が15億、これが後8年間続くとなると一時的な特需を生み出すのではだめだ。
収入を5億上乗せし、20億なら十分滞りなく返済していけるだろう。
ゴールは継続的に年間収支20億にすること。つまり5億上乗せだ。」
ぶつぶつと独り言を繰り返し始めた。エルティモは完全に集中しており、すでに周りが見えない状態になっている。
「まず最初に考えることは、既存のものや仕組みを金に変換できないかだ。もっとも早く、効果が大きい。」
そのように考えると、ここ数年の記憶をぱらぱらと本を高速でめくるように記憶を探った。
2時間ほどかかったが、眉間にしわを作るだけだ。
「駄目だ。そんなものがあったらすでに提案している。日ごろから町の状況をくまなく見ており、引っかかるものはない。」
エルティモは好奇心旺盛な性格をしており、よく町に繰り出し住民の様子や新しい出来事を拾いに行く。
その都度面白いことが出来ないか考えている。
「次は仕組みを組み替えて、利益を上げる方法がないかを考えてみる。」
売り出せるものはないことが分かり、既存の仕組みに工夫することで利益が上げられる手段がないかを考えてみた。
ぶつぶつ独り言を繰り返しながら4時間が経過した。
「無理だな。現在の商流は完璧だ。仕事の流れも無駄がない。」
改めて日ごろから国を運営する仕組みを考えている優秀な家令たちには感謝するしかない。素晴らしい仕事ばかりだ。
「汚職があれば見つけられるぐらい考えたんだけどな。。。」
この国はまだ小さく、私腹を肥やすような余裕はないし、あったとしても微々たるものだろう。
「よし、これでわかった。継続的に収支を5億上乗せするためには継続して利用してもらえる仕組みや物を新たに生み出すしかない。」
こめかみに穴が開くんじゃないかと思うぐらい試行していたエルティモは一つの答えを出した。
深く考えた場合、再度考える必要がないため、これだけに集中すればいい、と結論づけた。
「しまった! 今何時だろう。」
集中を解いて周りを見渡すとすでに深夜になっており、視界に人影はない。真っ暗だ。
「あーやってしまったな。深く考えた。」
甘いものが欲しいと呟きながら、少ない明りを頼りに、暗い平野から城へ戻っていった。
裏口からこっそり戻りたいので遠回りをして帰っていくと、それは起きた。
じゃばぁ
二階の窓から突然、何かをかけられた。
「うわぁ、冷たい。。。う。。。く、くさい。。」
エルティモは自分の身に何が起きたかわかり、完全に心が折れそうになった。
汚水を窓からかけられたのだ。いつもなら汚水を窓から捨てるときは人がいないことを確認するが、今は真夜中で暗い。油断したのだろう。
「す、すみません。」
汚水をかけた人物が二階から駆け寄って謝ってきた。
しかし、相手の顔を見た途端、驚愕して表情が固まり、そのあとに冷や汗をかいたと思ったら泣き出した。
「本当に申し訳ございません。まさか人がこの時間にいるとは思わず、うぇ、しし、しかも王子だなんて。。私は処刑されてもかまいませ、ん、う、う、が、か、家族だけはどうかお許していただけないでしょうか。」
膝から崩れ落ちた姿になり、嗚咽をもらしながら謝罪をする少年。13,4歳ぐらいだろうか。
「しーー、とりあえず落ち着け。」
こんなところを人に見られたら、本当に処刑しないといけなくなる。
「私が夜中に歩いていたことにも非がある。許すから、落ち着くんだ。」
まだ冷静さを取り戻せていない少年に対して、優しく話しかけることにした。
「あ、ありがとうございます。。。ぼ、僕はコリンと申します。本当に申し訳ありませんでした。」
こんな遅い時間までなぜ起きていたんだ。少年に話しかけると、徐々に落ち着きを取り戻していき、話し始めた。
「勉強をしていました。魔法工学を学んでいます。」
こんな遅い時間までそんな勉強をしていたのか。エルティモは自分の身にかかった不幸な出来事を忘れて質問をした。
「ほう、私も魔法工学には一家言あるぞ。」
「知っております。王子の話は有名ですから。」
「そうか。では今から学院へ行くことを狙っているんだな。」
「そ、そうです。ですが、平民があそこに行くには他を圧倒する学力と才能が必要です。僕には魔法の才能があるから、そこにいって、魔法師の資格をとって両親を支えたいのです。」
魔法の才能は稀有だが、もしあったとしても職にするには資格がいる。悪用を避けるために制限をかけているのだ。罰則は重い。その資格には学院で学ぶことが必須となっている。
「何の本で学んでいるんだ?」
「上級魔法工学の上巻です。」
魔法工学とは、魔法を生活の中に活用することが主な目的で学ばれており、例えば武器に炎や水の属性をつけたり、装備の強度を上げたりする学問になる。将来空を飛べる靴なども作られると期待されている。
「もうそんな難しい本で勉強しているのか。」
学院の上級生でも手を焼く内容だ。
「正直言うと、難しい本ですが、買えるお金がなくてもらいものです、、、で、でも理解は出来るんです。」
この歳であの本から学べるとは相当な努力と才能があると見た。
「やっぱり気が変わった。罪状を言い渡す。」
ごくり、と少年の顔から焦りが伝わってきた。
「必ず学院に合格すること。そしてこの国に役立つ人材になること、だ。」
えっとと理解が追い付かず、ぽかーんとして、こう聞いてきた。
「合格できなかったら、死罪でしょうか。。。」
「そうだな、それより重いぞ。。。。私が悲しむ。。。」
冗談めかして笑顔でそう告げた。少年は意図を理解して急に泣き笑い出す。
「なんですかそれ、、、わかりました。必ず合格します。」
「あーそうだ。明日以降でいいから城に来てくれ。門番に私のおさがりで良かったらさっきの下巻やその他の本も渡しておく。」
ついに泣いていた少年が笑顔になった。
「本当ですか! ありがとうございます。必ず合格します。」
「じゃあねコリン、また会おう」と別れを告げて、そこを去ることにした。
しかし、汚い話からずいぶんときれいな話になったと、一人微笑む。
無事?城に戻ると父カイルが血相を変えて会いに来た。
「おお、無事帰ってきたか。」
周囲はいつもの放浪だろうと心配していないが、父カイルだけは違う。
冷静な表情をしながら、昨日の話の今日だ。いつも以上に心配になっても仕方ない。
「まぁお前なら大丈夫だと心配していなかったが、とりあえず風呂に入ったらどうだ。」
はい、やはり匂ったか。。。使用人を呼び風呂の準備をお願いする。
「いい湯だな。。」
準備が整ったと連絡を受け、庭に準備されたお湯が満たされた大きな桶からお湯を拝借、体を洗い桶に入った。
「成人の儀から二日目だけど、いきなり濃い日が続いているな。。。」
風呂の中で月を見ながら、ここ数日を振り返る。
「意外と日常の当たり前を疑えないものだ、、、あの少年、コリンには感謝だな。」
そう、当たり前を疑う、それが彼の盲点を突いた。
そう言うと、風呂に潜りぶくぶくさせた後、ぷはぁと酸素を全身に取り込み、またこめかみを石鹼の角でとんとん、軽くたたき始めた。
しばらくするとこう言った。
「うん、、、問題は解決した。」
お読みいただきありがとうございました。onecaratです。
投稿を始めてオープニングを含めると4話目。書き溜めているものがありますが、ついつい微修正をしてしまって簡単ではないですね。
とりあえず二日に1回の投稿を続けています。
うれしいと思うことは、アクセス解析を通して実際に読まれていることを知れたことです。
次回もお読みいただけると嬉しいです。
小説に使用しているエディタ:https://onecarat.dev/




