第27話「リベル国陥落?」
お読みいただきありがとう。ワンカラットです。
僕はOnecaratEditorの中の世界にいる住人で、普段は妹のリンリンと、それから最近分かったのですが、いとこのビズと暮らしています。
エディタの中にも世界があり、学校にも行くしライブハウスに出かけることもある。普通の暮らしをしているんだ。
そして、これは少しだけ内緒の話。エルティモさんたちが生きるワンカラットワールドは、実は僕が作った世界なんだ。そういう世界たちが浮かぶ大きな宇宙を、まるごと管理しているのがコアーシさん。僕の世界が惑星のひとつなら、コアーシさんは宇宙そのもの、みたいな関係かな。
ただね、今回はそのコアーシさんからエルティモさんを預かってほしいと言われていて、まぁそっと静かに見守っていました。
そんな彼が無茶なお願いをしてきたので、一応説明はしたつもりなんだけど、世界が奇跡的な調和で出来ていて、歯車が一つ狂うだけで大変になることは理解できていなかったみたい。
普段の冷静な彼ならそんなことはないはずだったけど、、、あの時の状況だと、失敗の中の最善を選んだ。そんなところかな。
絶望の淵に立たされたエルティモはどうなっていくのか、第一部エンディング前の第27話。
僕が作ったこの世界、何とかなりますよ~♪
私はとある一室で誰もいないことを確認して、OnecaratEditorを起動した。厚いカーテンを閉め切った部屋に、ページの淡い光だけがぼんやりと浮かんでいる。
OnecaratEditorの住人である、ワンカラットに話しかけた。
「ワンカラット、なぜ農作物が育たなくなっている。話が違うじゃないか。」
私にしては珍しく語気を強めて語り掛けた。言葉は文字に変換され、OnecaratEditorに書き綴られていく、、、
【エルティモ、僕は君の言うとおりに世界の理を元に戻しているよ。】
「ではなぜだ。なぜこの大陸中で農作物が育たない状況が起きているんだ。」
【君は世界の理を変えて、本来であれば不作になるところを豊作にした。世界は君が思っているより奇跡的な調和の中で動いている。そこを無理やり変えたならその反動は起きるものだよ。】
「反動だと!?」
【そうだ、反動だ。君の願い通り、理は元に戻した。ただし、一度歪んだ世界がそれに馴染むには時間がかかるんだ。】
「どれくらいかかるんだ、それは。」
【十年はかかるだろう。】
十年。その二文字が、頭の中で何度も反響した。国庫の蓄えは一年ももたない。民の腹は、明日すらもたない。
私は、暗い一室でただ一人絶望した。誰かに相談することも出来ない。この道具の存在を明かせば、すべての大国がこの国に、、、いや、私に牙を剥くだろう。
王位継承が予定されている二十五歳の誕生日が差し迫っていた。しかし、ガイア大陸全土で作物が育たなくなる危機を迎えていた。
その原因は私にあった。飢えた民のせいでも、天候のせいでもない。私が世界の理を変える道具を使って、歪みを生み、この状況を作ったのだ。
ユーにも話を聞きたかったが、このOnecaratEditorをもらって以来会っていない。あの猫は、こうなることをわかっていたのだろうか。
そんなとき、悲報が届いた。
* * *
私の部屋に、家臣が血相を変えて駆け込んできた。
「王子!! 大変です。国民の反発が限界を迎えて、城になだれ込んでいます。みな武器を持って責任をとれと叫び、気が立っている状況です。」
ついにきたか、、、。
耳を澄ませば、遠くから地鳴りのような声が響いてくる。人の声だ。人の声のはずなのに、獣の唸りに聞こえた。
その話を聞いて、急いで王の間へ向かった。父カイルと相談するためだ。対話を試みるか、、、弾圧するかだ。どちらを選んでも、血が流れる未来しか見えなかった。
「父上、国民の状況をご覧になられましたか。」
「ああ、聞いておるぞ。対話は難しいだろうな。皆冷静な判断をするための余裕をなくしておる。蝗害のときを思い出すのう。皆目が殺気立っておる。」
普段はそんな国民性はないのだが、飢えがそうさせている。もちろん私の責任だ。
「国民は飢えで冷静な判断が出来なくなっております。いますぐ兵を配置し、無理やりにでも対話をする準備をいたしましょう。」
「エルティモよ、そんなに焦るでないぞ。わしに考えがある。ただ、いざというときに脱出する準備だけはしておけ。そうだな、昔旅をした時の装備があったじゃろう。わしも準備する。」
言いたいことはいろいろあったが、備えはそれで必要だと考え、急いで準備をする。旅装に袖を通すと、あの頃の記憶が指先からよみがえってきた。クララの歌、クリスののんびりした声。まだ数年前のことなのに、ずいぶん昔のことのように思えた。
そして戻ると、父カイルは戴冠式の衣装に身を包み、国王の威厳を保って、玉座に鎮座していた。建国のとき、たった一度だけ袖を通したという、あの衣装だ。
「父上?」
「エルティモよ、来たか。」
「他のものは、皆逃がした。」
なるほど、いったん退避して、状況が落ち着くのを待つのか。しかし、その姿だと目立つのではないか。
「一度、一緒に国民の姿を目に焼き付けよう。」
一緒に城の上にある庭園に向かい、そこから見える景色を見た。絶望の景色だ。国民は城壁の入り口である門を皆で破壊し、そこから人がなだれ込んできている。掲げられた松明の火が波のようにうねり、怒号がひとつの巨大な咆哮となって城を揺らしていた。
目は殺気立っており、王を探し出せ、と叫び走り出してきている。私はこの景色を一生忘れないだろう。あの一人ひとりに名前があり、家族があり、昨日までの暮らしがあった。それを飢えが、、、いや、私が、こうさせたのだ。
「あとはお前だけだ。」
「父上何を!?」
六十五歳近い老体とは思えない身のこなしで私の前に現れると、腹に衝撃を覚えた。
ぐぅふぅ。声にならない声を上げ、息が出来ない。拳が沈んだ腹の奥から、じんわりと熱が広がる。加減されている。それでも、立てない。老いてなお、父は武人だった。
「いつぞやの話を思い出すのう、クジラにわしも乗ってみたかったものだが、それはかなわんだろう。リベル国は死なぬ、おぬしが生きている限りのう。愚かなわしのようになるなよ。」
ち、違うんです、と説明をしたかったが息が整わず言葉を発せない。
「イーリス、わしもやっとお前のところにいけそうだ。」
その横顔は、怒っているようにも、笑っているようにも見えた。
最後にそうつぶやいた後、父カイルは私の首根っこを捕まえて――空に投げた。景色が回る。城が、庭園が、父の姿が、瞬く間に小さくなっていく。
以前旅の道中、冒険者の国で女王アグネスに聞かせてもらった父カイルの得意技だ。相手をつかみ、そのまま敵に投げつけるという荒業。
「心配するな。わしの技は百発百中じゃ。」
そのまま遠心力に身を任せ、私は気を失った。薄れゆく意識の端で、父が玉座へと戻っていく背中が、見えた気がした。
* * *
気が付くと私は空を飛んでいた。正確にはクジラの背中に乗っていた。
頬を撫でる風は冷たく、雲が眼下を流れていく。夢ではない証拠に、打たれた腹がまだ鈍く痛んだ。
父カイルは、どうやら冒険者時代の得意技を使って、無理やりここまで投げ飛ばしていた。逃がしてくれていたのだ。
下を見ると海が見えた。信じられない高さだ。落ちていたらと思うとぞっとする。
どれほど気を失っていたのだろうか。
ガイア大陸が徐々に小さくなっていくのが分かった。これからどうすればいいのか。そもそも下りられるのか、みんなは無事か。
いろいろな思いがあふれていて頭がぐちゃぐちゃになる。いつもの癖で、こめかみを叩こうと持ち上げた手が、力なく落ちた。考えがまとまる気がしない。そんなときだ、箒に乗ってやってくる人影が見えた。
以前、冒険者の国で会った魔導士風の預言者の女だ。そのままクジラの上に着地する。
「や、いつぞやのお礼に来た。」
頭がごちゃごちゃの上、預言者の女の登場で、もう訳が分からない状態だ。
「久しぶりだが、今はゆっくり話している時間はないんだ、、、とお礼?」
時間がない、と彼女はそれぞれの手で筒状の形を作りそれを重ねる。その筒を使って片目でガイア大陸を覗き込んだ。
「ふむ、まず城の人たちはおじいちゃんみたいな人が先行して、皆を逃がしている。」
トマスだろう、なら城のみんなは大丈夫だ。彼ならなんとかしてくれる。
「吟遊詩人の女性が魔法都市、僧侶の女性は大樹の国に早馬で向かっている。」
クララとクリスだ。他の大国に助けを求めにいってくれているのだろう。肩の力が、少しだけ抜ける。私が動けない間も、みんなはそれぞれの役割を果たしてくれている。
「王様は無抵抗に責め苦を受けている。もうすぐ処刑されるみたい。」
頭から血の気が引いた。無抵抗、、、父上は最初から、すべてを一人で背負うつもりだったのだ。
がたっと立ち上がり、私は彼女の両肩をつかみ、どうにかならないかと真摯に助けを求めた。
「や、やめて、ちょっと、お、お礼に来たと言ったでしょ。」
はっとなる。そうだ。そういっていた。
「どうするんだ」
「時間がない。みていて。」
彼女は空間に亀裂を入れ、その中をごそごそと探って、魔法の杖と魔導書を取り出し、それぞれを握りしめた。
彼女が詠唱をはじめる。聞き取れない、異国の言葉だ。音のひとつひとつが空気を震わせ、肌の上を這うように渡っていく。左手に持った魔導書が光り輝きだした。そしてその光は右手の杖に移り、その杖で大陸を囲むように円を丁寧にゆっくりとなぞる。
そして、杖を天に向けて掲げた。すると、先ほど円を描いた周囲に光の壁がそびえたち、それは一つの球体の形に集約されていく。
彼女の額には大量の汗が垂れる。杖を握る細い腕が、小刻みに震えていた。
そして、最後にふんっと右手の杖を振り下ろした直後、ガイア大陸が収まっている光の球体の中の色が消えた。白黒に映る。音も、風も、何もかもが遠い。世界から、時間だけが抜き取られたようだった。
「はぁはぁはぁはぁ、、、あの大陸の時間を止めた。」
彼女はそうつぶやいた。
何が起きたのか、すぐには理解出来なかったが、彼女のいうことを信じるならガイア大陸全土の時間を止めた、ということなのか。呆然とした目で彼女を見つめると、少し照れたようにそっぽを向いた。
「改めて自己紹介する。私はメディア。今でいうと古代の魔女、時空を操ることが出来る。年齢を聞くな。見た目は永遠に二十歳だ。自らの体の成長を止めている。」
ああ、冒険者の国で突然現れた際も、時間を止めて私に会いに来たな。歳をとらないのか、不老不死なのか。いろいろと興味がわくところだが、正直いまは安堵感が強く一息入れている状況だ。
「君が何者かはわからないが、とりあえずこれは述べておかねばならない。ありがとう。助かった、、、のか?」
時間の止まったガイア大陸を見て彼女は語りだした。
「昔々、あるところに、時空を操ることが出来る、時間を行き来できる魔女がおりました。彼女は自分の力を使ってある国を裏で助けながら魔法の研究を続けていました。」
自分の話なんだろうと思った。
「しかし、王様は自分より巨大な力を持つ魔女が恐ろしくてたまりません。そこで魔女に相談します。自身の妻が不治の病にかかった。治療方法が確立されるまで時間を止めて封じる道具を作ってくれないか、と涙ながらにお願いしました。」
なんとなく落ちが見えてきた。
「魔女はその涙に心を打たれ、道具を作成してあげました。そして渡した瞬間、王様はその道具を使って魔女を封じ込めたのです。魔女は大水晶の中で、数千年封じられることになりました。」
酷い話だ。恐怖は、時に感謝よりも早く人を動かす。私はそれを、今まさに城下で見てきたばかりだった。
「ひどい話でしょ。封印を解いてくれたあなたに感謝。」
軽い口調だったが、その目の奥は笑っていなかった。数千年は、冗談で流せる時間ではない。
そして魔女メディアは続けた。
「流石の私も、この大陸全土の時間を止めるほどの魔法力は持っていない。能力というより、力の源泉の方。ただ、大水晶の中で数千年分の魔法力が蓄えられていた、それを使った。」
彼女の話をかみ砕いていくうちに、一つの考えが浮かんだ。
「時間を行き来できるんだろう? 復讐とか考えないのか。いや、そうなると未来が変わるとかそういうことがあるのか、、、」
だいぶ冷静さを取り戻した私は彼女の立場になっていろいろ考えてみた。
「そう、ここからが本題。私もね、未来がどうなろうが関係なく、ぐちゃぐちゃにして苦痛を与えた後、その痛みを未来永劫感じられるように封印してやろうとしたの。」
ああ、このお方は怒らせてはいけない人だ、と内心で大汗をかきながら続きを聞いた。
「でもね、以前話したけど、未来はまだ確定していない。今この時間が、もっとも先に進んでいる状態。そして過去に遡ろうとしたら、ある時を境にそれ以上遡れなかったの。」
「境?」
「リベル国でいう建国十年、七月九日よ。」
魔女メディアはまっすぐに私の目を見てそう伝えてきた。それは私の誕生日だ。心臓が、どくんと大きく跳ねた。彼女はその日より過去には、遡れないと言っているのだ。
数千年を生きた魔女ですら、遡れない境界。その始まりの日に、私が生まれている。
「あなた、何者?」
お読みいただき、ありがとうございました。onecaratです。
さて、第一部完結手前の話なので、だいぶ詰め込み過ぎた感じがありますが、仕方がないのかなと思います。
いよいよ、このお話の主題になるOnecaratEditorが出てきました。
このエディタの機能を充実させるために実際に小説を書いてみようと思ったわけですが、まぁ普通に勉強になりました。
第一部のエンディングまで作り終えたらしばらくガチ目のエンジニアに戻ります。
作りたいソフトウェアがたまりにたまってきたので、そちらを消化した後、また戻ってきます。
もし、ワンカラットや妹のリンリン、猫型ロボットのユーに興味があれば、キャラクター画像を下記のサイトに載せていたりします。よければぜひ覗いてみてください。
次回もお読みいただけると嬉しいです。
小説に使用しているエディタ:https://onecarat.dev/




