第24話「特別な一夜が明けてその翌日」
お読みいただきありがとうございます。猫型ロボットのユーです。
前回、暗殺の依頼を丁重にお断りして、そのお返しとばかりに家城をぶっ壊したエルティモ。顔には出していないようだけど、結構怒っていたみたいだね。僕にはわかるよ。
そして、欲望というより感情に身を任せる、素直になる、という行動を覚え、一歩歩み出し、夜を迎えて一皮むけたようだね、エルティモは。
素敵な夜を迎えた翌日、アルマンから大事な話があるみたい、そんな第24話。
武力商業都市のお話、これにて閉幕~♪
コケコッコー、と。
――朝を迎えた。
一人、コーヒーを味わっていると、アルマンがやってきた。
「よう、エルティモ。いい男の顔になったじゃないか。夕べ、何があったんだい。」
察しているくせに、にやにやと、そんなことを訊いてくる。
「なに。いつものことですよ。」
私は、事もなげに答えた。
「二人は?」
「まだ、寝ています。」
私は、弱点を見つけるのが大の得意。今回は、少しやり過ぎたと、反省している。だが、あのときばかりは、自分を抑えられなかった。
アルマンは、私の背を、ばんばんと叩いてきた。
「それで。事の顛末は、どうなったんです。」
「メアリー女王は、しばらく謹慎だ。反省を促す。良いも悪いも、まだわからん歳だからな。教育係に、ノーラをつけることにした。」
「ノーラを。メアリー派閥は、壊滅させたのでは。」
「ああ。だが、あの侍女だけは別だ。」アルマンは、コーヒーの湯気を眺めながら言う。「あいつは、私欲じゃない。前王への恩義から、ただ女王を守るためだけに動いていた。根は、悪くない。しっかり導けば、女王の支えになる。」
なるほど。あの淡々とした案内の裏にあったのは、忠義だったか。
「では、あの老女は。」
私は、慎重に訊いた。バルケローニ。人を笑って消す、あの女。
「バルケローニか。あれも、処断するつもりだった。」アルマンは、少しだけ、間を置いた。「だが、メアリーが、泣いて頼んでな。命だけは、取らんことにした。」
――女王が。
自分を守ろうとしてくれた、と幼い女王は信じている、その忠臣のために。涙ながらに、助命を願った。
その女が、いったい何をしたのか。女王は、知らない。
胸の奥が、わずかに疼いた。だが、私は、それを口にはしなかった。
「今回の件で、はっきりしたことがあります。」
私は、コーヒーカップを置き、まっすぐにアルマンを見た。
「押さえておくべきは、二つ。一つは、前王が、なぜ亡くなったか。」
アルマンの目が、すっと細くなる。
「タイミングだけを見れば、大きく派閥を伸ばした、あなたがた商業側が疑わしい。ですが、内情を知れば、話は変わる。幼い女王を担ぎ、その裏で、好きに政を動かそうとした者――派閥の、内側の人間。そちらのほうが、よほど筋が通る。」
そして、と私は続けた。
「そして、目の前のあなたは。そういうことをする男には、どうしても、見えない。」
しばしの沈黙。
やがてアルマンは、ふっと笑った。
「――気づいたか。」
そのとおりだ、と彼は認めた。前王を手にかけたのは、武を重んじる、前王派閥の内側の者だと。今回の一件も、それで味を占めた者の仕業だと。
誰が、とは。アルマンは、言わなかった。私も、あえて、名は口にしなかった。
「もう一つは。」私は、指を、もう一本立てた。「リベル国への、借金漬けの件です。あれは、もしかすると――」
「ああ。そっちも、気づいたか。」
アルマンは、あっさりと頷いた。そして、意外なことを口にする。
「あの借金な。実はあれ、本当に、攻める算段が組まれていたんだ。」
「――攻める?」
「そうだ。他国を武で攻め落とし、実績を作りたい。そういう動きが、前王派閥にあってな。リベルは、その的にされかけていた。」
さらに、アルマンは続けた。
「だが正直、攻め落としたところで、うちの国に、大した利はない。だから商業側は、計略に切り替えた。借金で縛り、エルティモという人材を、穏便に引き込む。そのほうが、よほど得だとな。」
そこは感謝しろよ、とアルマンは笑う。
(うーん。一方的に、やられているだけの気も、するのだが。)
アルマンが、今度は真顔になった。
「さて。賠償の話に、移ろうか。」
「賠償?」
「そうだ。他国の王子を、命の危険にさらした。これは、うちの落ち度だ。それなりの責任は、取らねばならない。そこでどうだろう。借金を、帳消しにする、というのは。」
内心、私はガッツポーズをした。が、顔には出さない。むしろ、渋い表情を作ってみせる。
「そもそも、その借金は、貴国の一方的な戦略で作られたもの。帳消し程度では、とても、納得はいきませんね。」
「あんまり、欲をかくなよ。」アルマンは、苦笑した。「これでも、カイル殿には、十分な土産話になるはずだ。まあ、そうだな。」
そう言って、マジックバッグから、一枚のローブを取り出した。
――あの、隠密のローブだ。
「これで、どうだ。」
今回、私を暗殺者に仕立てるはずだった、その品。それを、アルマンは、こともなげに差し出してきた。
「本当に高価な代物だが、いざというとき、逃げるための切り札にもなる。売らずに、お前が持っておけ。お前なら悪用しないだろう。俺も使わないが、売るとそれはそれで困る人が出てしまうだろう?信頼できるやつに渡したい。意味は分かるな。」
怖い怖い、とおどけてみせる。
(まあ、このあたりが、妥協点か。今度は、その正体を、しっかり知ったうえで受け取ることになるとは。そしてこれは信頼の証の意味もあるんだろう。)
「いいでしょう。それで、手打ちにします。」
二人は、あらためて、固く握手を交わした。
* * *
こうして、旅の目的を無事に果たした私たちは、帰国の支度に入った。
クララとクリスは、じいっと私を見て、
「王子は容赦が、なさすぎですぅ。」
「まあ、エルティモが、私たちの魅力に我を失うのは、仕方のないことだが。な?」
(本当に、ごめんね。)
「最後は、のんびり帰ろうか。温泉で一泊していくのもいいかもな。」
そう言って、私たちは、ゆっくりとリベル国へ向かった。
だが――
見えてきた祖国の周辺を、黒い靄のようなものが、覆っていた。
「あれは、、、。」
お読みいただき、ありがとうございました。onecaratです。
今回のお話はいろいろな意味で事後編なので、短くなりました。
これが公開されるのは7/9、つまり主人公エルティモの誕生日になります。
そのお祝いとばかりに最高の試練を準備しています。
次回もお読みいただけると嬉しいです。
小説に使用しているエディタ:https://onecarat.dev/




