第22話「武力商業都市の秘密の家城」
お読みいただきありがとうございます。猫型ロボットのユーです。
エルティモはアルマンと空の上でまだ半信半疑ながらも、友となることを選んだ。
いやー、人たらしって言うけど、その最上位って感じの人だよね。
警戒心の強いエルティモも、たった一度の食事でほだされてしまった。それぐらい、魅力的な提案だったんだ。
しかも、エルティモの内心をずばっと言い当てるあたり、ただ者じゃないってわかる。
果たして、二人で冒険に出ることはかなうのか。それは内緒♪
武力商業都市で、エルティモ一行はある事件に巻き込まれる第22話。
この旅、最後の試練が始まる~♪
考えのすえ、私は会うことを決めた。
幼き女王であれ、いずれこの都市の最高位に立ち、実権を担うことになる方だ。話だけでも、聞いておくべきだろう。
(どうせ、いつものお困りごとの相談だ。)
発明か、仕組みの改善か。その類いの相談なら、創造性でなんとかしてみせる。これまでも、そうしてきた。
そんな気楽なことを考えながら、軽く身支度を整える。そして、ノーラの案内に従うことにした。
てっきり、まっすぐ城へ向かうものと思っていた。
ところがノーラは、人通りの絶えた路地へと折れ、こぢんまりとした洋服屋の前で足を止めた。当然、深夜だ。店は閉まっている。
街灯の油も落とされ、あたりは墨を流したような闇だ。ノーラの足取りだけが、迷いなく進む。
「こちらに?」
ノーラは答えず、懐から鍵を取り出すと、慣れた手つきで錠を開けた。
「皆さま、どうぞ。これより、秘密の屋城へご案内いたします。」
秘密の、屋城。
その響きだけで、私の中の何かが、ぴくりと反応した。
* * *
促されるまま、私たちは店の奥へと通された。
並んでいるのは、客が服を着替えるための、試着室。ノーラの指示に従い、私、クララ、クリス、そしてノーラ自身も、それぞれの個室に身を収めて、腰を下ろす。
まさか。
まさか、なのか。
胸の奥で、ワクワクが膨れ上がっていくのを、抑えられない。
理想の王子なら、こんな顔をしてはいけない。分かっている。分かってはいるのに、口角が、勝手に上がってしまうのだ。
次の瞬間。
ガクン、と床が抜けた。
体が、滑り落ちていく。暗がりを、まっすぐ下へ。
風が、耳元で鳴る。内臓が浮き上がるような、あの感覚だ。
私もクララも、そしてノーラも、危なげなく着地した。、、、が。
「いたいですよぉ、、、。」
一人だけ、盛大に尻から落ちた者がいた。クリスだ。涙目で、ぺたりと座り込んでいる。
「大丈夫か。」
手を差し伸べて、立たせてやる。
「ありがとう、ございます、、、。」
しょんぼりとした童顔が、なんとも彼女らしい。
落ちた先には、あらかじめ松明が灯されていた。私たちが通ることを、見越していたのだろう。
その一本を手に取り、ノーラが先導する。
足元を、水が流れている。地下水路か。ひんやりとした空気が、頬を撫でていく。
松明の灯が、水面に揺れて伸びる。どこか遠くで、ぴちょん、と滴の落ちる音が反響していた。石壁は古いが、苔ひとつない。手入れの行き届いた、生きた通路だ。
「驚きました。こんな通路が、街の地下に隠されていたとは。」
「はい。いつ、何が起きるとも限りませんので。」
ノーラの声は、どこまでも淡々としている。
「このような隠し通路は、この都市の地下に、幾重にも張り巡らされております。そろそろ、着きます。」
やがて松明の灯りが照らし出したのは、地下にあるには、いかにも不相応な建物だった。
小さい。だが、堅牢。ひと目で、ただの隠れ家ではないと知れる。
石を厚く積み上げ、窓は矢狭間ほどしかない。守るためだけに、すべてが設計されている。
「立派ですね。」
「いざというとき、身を守る。その一点において、この造りは優れております。前王が築かれた、秘密の屋城、といったところでしょうか。」
前王。つまり、今はもういない王が。
、、、覚えておこう。
* * *
屋城の中へと通される。
奥の寝台で、幼き女王メアリーが、すやすやと寝息を立てていた。
ちなみに。私たちと女王との間には、薄い防壁のようなものが一枚、隔てられている。簡単には、手出しのできない造りだ。
女王の身を、客人から守る。あるいは、客人が女王に害をなさぬよう、見張る。どちらにも取れる一枚だった。用心深いことだ。
「メアリー様。お連れいたしました。」
ノーラが、そっと声をかける。
「んん、、、。」
眠そうに、女王が身じろぎした。「はあぁ」と小さく伸びをして、こちらへ顔を向ける。
「ようきて、くれたのう、、、。わらわは、もう、眠いのじゃ。」
幼い顔で、こくりと舟をこぐ。それでも、するべきことは、ちゃんとわかっているらしい。
「皆の者。、、、であえ。」
「「「ハッ。」」」
寝台の周りに控えていたのは、五人ほどの老若男女。おそらくは、古くから女王に仕えてきた、派閥の長たちだろう。
そして、その背後。屈強な兵士が、ざっと三十名。私たちを、ぐるりと取り囲んでいた。
逃げ道は、ない。ここまで案内されて初めて、私はそれを理解した。秘密の屋城とは、招かれた側にとっては、そのまま袋の鼠になりうる場所でもある。
それでも、表情は崩さない。崩せば、足元を見られる。
「王子。これは、なかなか、きな臭いぞ。」
クララが、ごく小さく、耳打ちしてくる。同感だ。
「あとのことは、、、頼んだぞ。くれぐれも、そつのないようにな。」
それだけ言い残すと、メアリーは再び、すうすうと寝入ってしまった。とても、穏やかな寝顔だ。
「「「はい。お任せください。」」」
* * *
進み出てきたのは、一人の老女だった。
「私は、この武力商業都市メアリー派閥の長、バルケローニと申します。」
「初めまして。リベル国の王子、エルティモと申します。」
「これはこれは、ご丁寧に、、、どうもねぇ。」
にぃ、と。皺の寄った口元が、笑みの形に歪む。妙に、粘りつくような笑い方だった。
私は、こめかみを、とん、と一度だけ叩く。
、、、油断は、できない。この相手。
「それで、本日は、どのようなご用件でしょうか。」
「そう急ぎなさんな。王子は、この国の歴史を、どれほどご存じかしら。」
「もちろん。貴国は、大陸でも名の知れた都市ですから。」
私は、知っている限りのことを述べた。武力と商業、その二つの柱で栄えてきた、この都市の成り立ちを。
バルケローニは、満足げに頷く。
「そう。昔は、よかったのよ。国は王を中心にまとまり、皆がひとつになって、この都市を支えてきた。」
ふう、と、わざとらしいため息。
「それが、近ごろはどうも、商業寄りの連中が幅を利かせてねぇ。あんな幼い女王に、いったい何ができるのかと。陰で、そんな口を叩く者まで出る始末よ。」
王が代替わりし、幼い女王が立った。その隙に、商いを握る者たちが、実権を吸い上げていった。、、、そう言いたいのだろう。
「、、、それは。」
「ああ、その者なら、、、もう、おらぬよ。ある日、ふっつりと、姿が見えなくなってねぇ。、、、ヒヒッ。」
なるほど。
立場が弱まったとはいえ、不敬を働けば、罰は下る。軽んじてよい相手では、断じてない。そういうことか。
私は、表情だけは崩さぬまま、内心の警戒を、もう一段、引き上げた。
笑いながら、人を消す。この老女は、そういう手合いらしい。
「メアリー様には、お辛い状況なのですね。お察しいたします。」
ひとまず、同情を示しておく。そのうえで、核心を促した。
「それで、そのお話と、私どもをこのような場所へお招きになったことには、どのような関わりが?」
バルケローニは、ゆっくりと、目を細めた。
そして、何でもないことのように、、、まるで、明日の天気でも告げるような口ぶりで、言い放った。
「なに、簡単なことよ。この都市の宰相にして、商業派閥を束ねる男。アルマン。、、、あの男の暗殺を、お前さんに頼みたいのよ。」
「、、、なっ。」
宰相、アルマン。商流を裏で操る危険な男がいると、かつて耳にした。あの飛空艇で相対した、柔和なあの男のことだったのか。人当たりの良さの奥に、何が潜んでいるのかは、まだ分からない。
その男を、殺せと。
、、、さすがの私も、その一言ばかりは。
、、、取り繕うことが、できなかった。
お読みいただき、ありがとうございました。onecaratです。
このお話を書いているのが、6月30日です。そう、ワールドカップのブラジル対日本を見た日です。
全然小説とは関係ないけど、日本の一点目は、夢を見せてくれましたよね。
正直なところ、優勝候補クラスの国に本気で対策を練られると、まだ厳しい。そんな立ち位置にいるように感じました。
個人的に期待しているのは、鈴木淳之介選手。この四年で、世界トップDFの仲間入りを果たしてくれることを願っています。
次回もお読みいただけると嬉しいです。
小説に使用しているエディタ:https://onecarat.dev/




