第21話「空の上で交わした約束」
お読みいただきありがとうございます。猫型ロボットのユーです。
ついに武力商業都市に向かったエルティモ一行だけど、なんと武力商業都市の宰相アルマンが待ち構えていたんだ。
彼はいったい、どういう人物なのか。気になるよね。
リベル国では危険人物として要注意扱いされているけど、本当のところは、どうなんだろう。
そのアルマンとエルティモが二人っきりで会食する第21話。どんな会話が繰り広げられるのかな。。
では本編、キックオフです~♪
雲が、眼下を流れていく。
アルマン宰相が用意してくれた飛空艇に乗せられ、私は空の旅をしていた。
速さそのものは、馬や船とそう変わらない。だが、揺れがほとんどない。尻が腫れ上がる心配もなければ、潮の匂いに当てられることもない。なるほど、これが「快適さ」というものか。
「どうだい、空の旅も悪くないだろう。」
向かいに座るアルマンが、葡萄酒の杯を傾けながら笑いかけてくる。
「絶景ですね。世界はこんなにも美しいのかと、あらためて感じます。」
私は、にこやかに応じた。
──だが、内心はまるで休まらない。
この男と二人きりになってから、私はずっと"理想の王子"を演じ続けている。隙のない、聡明で、品のある王子。アルマンの前で、素を見せるわけにはいかない。
相手はアルマンだ。一瞬の油断が、命取りになる。
国を借金漬けにし、私を担保に取った謀略の主。侵略の噂を流し、武器や軍馬の相場を操って父カイルを追い込んだ、あの情報網の持ち主。、、、その正体を、私はもう知っている。
笑顔の裏で、こめかみの奥がじりじりと焼けるようだった。誰かを演じ続けるというのは、これほどに精神を削る。
* * *
「そうだろう? どうだい、今度は私と一緒に、これで世界を旅してみないかい。」
アルマンは、窓の外へ目をやった。
「この海の先に何があるのか、我々はまだ知らない。それをいつか、この目で見てみたくてね。」
確かに──我々大陸の人間が外へ旅立ち、生きて帰ってきた者はいない。その先に何が広がっているのか。正直に言えば、好奇心が疼かないと言えば、嘘になる。
「そうですね。、、、この大陸で為すべきことを、すべて為し終えたなら。そんなことを、考えてしまいそうです。」
だが、そうはならない。私は国を背負った王子であり、いずれこの身を玉座に縛る者なのだから。
そんな私の胸の内を見透かしたように、アルマンは杯を置いた。
「どうせ、自分の国のために無理だ──とでも思っているんだろう。」
「現実的では、ありませんから。、、、楽しそうではありますが。」
「そんなもの、捨ててしまえばいいじゃないか。」
軽い口ぶりだった。
「帰ったらとっとと適当な相手と結婚して、子でもこしらえて、立場なんぞ誰かに渡してしまえ。良い女なら、いくらでもいるだろう。──なんなら、お前の連れの、あの二人だってなかなかのものじゃないか。」
クララとクリスのことを言っているのだろう。
「自慢の仲間です。」
、、、なかなかどうして、魅力的な提案だ。
そこで初めて、アルマンの顔から笑みが消えた。
「私──いや、俺は、欲しいものを手に入れるためなら手段を選ばん男だ。だから、条件付きでいい。」
まっすぐに、こちらの目を見て。
「お前が立場から自由になったら、、、大陸の果てまで、俺と一緒に冒険しないか。」
大きな男だ、と改めて思った。この一言を口にするためだけに、わざわざ自ら迎えに来たのだ。
、、、本当に、人たらしだな。
「では、私からも条件があります。よろしいですか。」
笑顔で、私は続けた。
「──船長は、私です。」
「いいや。俺だ!」
二人は、固く握手を交わした。国と国の立場を越えて、私たちはこの瞬間、確かに友になったのだと思う。
私の負けだ。まんまと、たらし込まれた。
自分の欲望にここまで素直な男は、なんと魅力的なのだろう。、、、ああ、そうか。私は最後まで、こういう"素直さ"を見せられなかった。そりゃあ、振られるわけだ。
ふと、あの人の──エレイザの顔が、浮かんだ。
まだ、振り切れていないらしい。、、、女々しいな、私も。
* * *
飛空艇が武力商業都市に降り立つと、私はその足で、幼き女王との面会に向かった。
謁見の間で、玉座にちょこんと腰かけていたのは、まだ年端もいかぬ少女だった。足が、床に届いていない。
「よくぞ参った。其方の活躍、わらわの耳にも届いておるぞ。」
幼い声で、精一杯に威厳を作っている。名は、メアリーというらしい。
その傍らには、いつの間にか涼しい顔をしたアルマンが控えていた。、、、なるほど。この幼き女王を後見し、実権を握っているのが、この男というわけだ。
「して、本題じゃ。其方の国で作ったという、、、あ、あの、厠の仕組みとやら。あれを、わらわの国にもよこせ。技術を、分けてはもらえぬか。」
、、、ずいぶんと直球で来たな。
「べ、別に、わらわが使いたいわけではないぞ! た、ただ、、、民が、不便をしておるというから、、、。」
最後に、ぷいとそっぽを向く。
──ああ、なるほど。わがままで口は達者だが、その実、ちゃんと民のことを考えている。憎めない子だ。この分なら、将来は良い君主になるかもしれない。
「ご要望、しかと承りました。技術の扱いには父カイルの了承が要りますので、前向きにお取り次ぎいたします。」
私は、軽く頭を下げた。
「民を案じられるお心、ご立派かと存じます。」
「ふ、ふん。世辞は要らぬ。、、、さっさと、取り計らえ。」
だが、その頬は、ほんのりと赤かった。
* * *
形ばかりの面会を終えると、私はクララが手配してくれた宿へと移った。
アルマンの用意した部屋もあったが、こういうときに身の安全を仲間へ委ねられるのは、ありがたい。、、、まだ、すべてを預ける気にはなれないのだ。
「おかえりなさい、王子。ずいぶんと濃い一日だったみたいですね。」
クララが、からかうように出迎える。奥では、クリスが温かい茶の支度をしてくれていた。
「それにしても、あの飛空艇、、、すごかったですねぇ。あれ、どうやって飛ばしてるんです?」
のんびりとした口調で、クリスが目を輝かせる。
「ああ、あれか。」
私は、こめかみを軽くとんとんと叩いて、見聞きしたことを整理した。
「船の内に、軽い魔法力を気化させて溜める仕組みがあってね。その気化した力で機体を浮かせ、向きと推進は別の術式で制御している。、、、理屈だけなら、いずれ私たちの国でも作れるかもしれない。」
「わぁ、王子は一度乗っただけで、もうそこまで、、、。」
「感心してる場合じゃないでしょ。」
クララが、ぴしゃりと言う。
「問題は、あの宰相が何を考えてるか、よ。」
クララの言うとおりだ。だが、、、今日の彼からは、不思議と"嘘"の匂いがしなかった。
私は、ようやく肩の力を抜いて、長く息を吐いた。一日中、誰かを演じ続けるというのは、本当に、疲れる。
「、、、今日は、もう休もう。」
そう言って寝台へ向かおうとした、まさにその矢先だった。
窓の外で、コツン、と。
何か硬いものが、硝子に当たる音がした。
* * *
窓辺に寄り、外を見やる。
黒いローブをまとった女性が、こちらをじっと見上げていた。
目が合う。彼女の唇が、ゆっくりと動いた。
──話が、ある。
そう告げているのが、口の形で読み取れた。
私はクララに目配せをする。彼女は心得たように頷くと、音もなく部屋を出ていった。やがて、件の女を伴って戻ってくる。
今この部屋には、クララとクリス、私、そして黒いローブの女がいる。ちょうど、日付が変わる頃合いだった。
「夜分遅くに、失礼いたします。」
女は、深く頭を下げた。
「私、メアリー様の派閥に属する、ノーラと申します。」
、、、派閥。やはり大国ともなれば、そういうものがあるのか。うちのような小国では、目指すべき役職すら、まだ整ってはいないというのに。
「派閥、とおっしゃいましたか。」
「はい。もともとは前国王の派閥が、そのままメアリー様の派閥へと移ったものでございます。」
ノーラの声は、どこまでも淡々としていた。
「先王がご存命の頃は、最大派閥でございました。、、、ですが今は、アルマン様の派閥が、大多数を占めております。」
なるほど。これほどの大国になれば、誰もが己の立場や利益を守るために群れをなす。、、、人とは、そういうものか。
あの幼き女王が、玉座にありながらどこか心許なく見えたのは──気のせいでは、なかったらしい。
「それで、本日はどういったご用件でしょう。」
ノーラは、一拍の間を置き、まっすぐにこちらを見た。
「エルティモ殿には、ぜひ我々の陣営と、繋がりを持っていただきたいのです。」
「、、、と、言いますと。」
「メアリー様と、今一度、内密にご面会いただけないでしょうか。」
──面倒な話が、来た。
一国の客人として招かれたはずが、いつのまにか、大国の権力争いの、ど真ん中に足を踏み入れかけている。
すっかり、眠気は覚めてしまった。
私は、左のこめかみを、とん、と一度だけ叩く。
、、、さて。どう答えたものか。
お読みいただき、ありがとうございました。onecaratです。
台風が近づいております。しばらく雨が続きそうで、少し憂鬱です。
第一部として考えているお話は、七割ほどが終わりました。
当初の予定から軸はぶれていないものの、少しずつ脱線していくところが、自分では面白く感じています。
次回もお読みいただけると嬉しいです。
小説に使用しているエディタ:https://onecarat.dev/




