第19話「王子の恋の行方」
お読みいただきありがとうございます。猫型ロボットのユーです。
エルティモやエレイザ様を見ていると、才能はあってもそれに溺れず努力する人たちが、人に認められていくんだよね。
たぶん、それはどこの世界でも一緒だと思うんだ。磨かなきゃ腐る。努力する時期を、間違えないこと。
そして大事なのは、始めるのはいつでも遅くはないんだよ。
今回もクララ視点でお届け。エライザ様によって、もっとも重要なエルティモの素が見えていく第19話。
頑張れエルティモ~!!
六十歳ほどの老女と化したエレイザが、王子を見つめている。
「こんな私でも、いいの?」
おいおい、ふざけるな。私の中で、何かがぷつりと切れる音がした。隣のクリスも、いつもの穏やかさをかなぐり捨て、こぶしを握りしめている。
ずっと若さを偽り、王子の純粋な想いをもてあそんでいたのか。怒気が、喉元までせり上がってくる。
ところが――王子は、動かなかった。
いつもなら、どんな状況でも即座に答えを弾き出すはずのあの頭が、今は、何も返せずにいる。ただ、その瞳の奥だけが、燃えるように揺れていた。自分の中で渦巻くものの正体が何なのか、王子自身、まだ言葉にできずにいる。、、、そんな顔だった。
やがて、王子は、ゆっくりとエレイザに近づいていった。
そして、壁際まで彼女を追い詰めると、右手を、壁に、ドンと叩きつけた。
「何度でも言ってみせる。、、、私は、あなたを愛している。」
それの、何が問題なのかと。
、、、ああ、そうか。この人は、見た目に惚れたんじゃない。エレイザという人間の、中身に、心底ほれ込んでいたのだ。相手から汲み取れる情報のすべてを頭に入れ、解析し、その魅力に気づき、そのすべてを、丸ごと愛していた。
私とクリスは、もう、静かに見守ることしかできなかった。
と、そのとき。
エレイザの姿が、ふっと元に戻った。あの、若く美しい姿に。
「王子。これでも、あきらめませんか。」
私は、思わず首をかしげた。冒険者の国の若返りアイテムで若さを偽った――そう思っていたのに、話が、合わない。
エレイザは、種を明かすように言った。
「残念だけど、逆なの。私が使ったのは、見た目が"年老いる"レアアイテム。ほんの少し、ね。本当の私は、二十歳。ご安心を。」
そういうことか。老女の姿こそが偽りで、この若さが、本物。彼女は最後の最後まで、王子の愛が見た目に向いていないか、試していたのだ。
「どちらでも、変わらぬ。」
王子は、迷いなく言い切った。
そこから、大賢者エレイザの問答が始まった。
口調が、すっと変わる。こちらが、素なのだろう。
「王子、、、あなたに、夢はあるか。」
口調の変化に少し驚きながらも、王子は答えた。
「ある。リベル国で、父カイルの後を継ぎ、国を発展させる。国民を豊かに、幸せに、貧富の差も少なく、努力すればどんな生い立ちの者でもやりたいことができる、、、そんな国を作ることだ。」
普段から考え抜いているのだろう。すらすらと、よどみなく。
「王子。同じことを聞く。あなたに、夢はあるのか。」
「---だから。」
エレイザは、少し残念そうな顔で告げた。
「それは、立場がそうであるからだ。心の底からの願いではない。断言する。、、、夢というのはな、心をふつふつとさせるものだ。無償で情熱を傾けられて、やっていると時間さえ忘れてしまう。そういうものだ。」
「それは、、、。」
「あなたは、頭が極めてよい。目から入る情報量も人並み外れて、国家間では大陸一の男と評されている。その頭脳で、私の問いに答えられるか。」
王子は、左のこめかみを、とん、とんと叩いて、集中した。その答えを、必死に探している。
エレイザは、静かに待った。
しばらくして――
「、、、降参だ。私には、あなたの言う夢と呼べるものが、今は、出せない。」
王子は、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
ふと周りを見渡すと、いつの間にか、見守る影があった。大樹の国のベッキー様と、オルディン。二人とも、何も言わず、ただ静かに、この一部始終を見届けている。
エレイザは、王子にゆっくりと近づき、その心臓のあたりを、とん、とんと、二度、軽く叩いた。
「王子、、、厳しいことを言うよ。あなたは、頭がよくて、結論を処理しているだけ。でも心が、ないんだ。」
その一言で、王子は、ゆっくりと膝から崩れ落ちた。
「生まれたときから母を知らないあなたは、心を身につける機会がなかったんだろう。責任を、生まれたときから背負った。、、、いや、背負わされた。それは、偽りのあなただ。」
エレイザは、静かに添える。
「頭脳だけで生きている。周りからの情報で答えは出せても、自分の内から出せるものが、ない。、、、まるで、機械のような人。それが、私の評価だよ。」
王子は、ついに観念したようだった。
「わかった。それを受け入れる。認めよう。あなたをあきらめることを、ここに宣言する。」
顔を上げ、最後の力を振り絞るように、続けた。
「ただ、一つだけ教えてほしい。そこまで言うあなたの夢とは、、、いったい、なんだ。」
その瞬間、エレイザの表情が、変わった。妖艶で、怪しく、恍惚とした笑み。
「いいわ。しかと、聞け。」
私は、ごくりと喉を鳴らした。その夢を、一言も聞き逃すまいと。
「私の夢は、、、美女だらけのハーレムを作ることだ。私だけの、私のための、ハーレムを。」
ええええええ。
「私は小さい頃、自分が同性を好きだと理解した。、、、変えられなかった。自分を偽ることが、どうしてもできなかった。でも、世界はそれを許さなかった。男と女が結ばれ、子をなし、国を豊かにする――その上に、すべてが成り立っているからだ。国は、それを認めない。」
だんだんと、口調が強くなっていく。
「だったら私は、世界の方を変えてやる。そのための努力なら、喜んでできた。生まれ持った魔法の才もあった。だから、最大限に積み重ねてきた。歌も、魔法も、演技も、容姿も、、、全部、全部、全部だ。」
すうっと息を吐き、ふいに冷静さを取り戻して、告げる。
「私の夢は、同性を愛する者でも幸せになれる世界を作ることだよ。まだ、四人だけの小さなハーレムしか作れていない。、、、足りない、足りない、足りないわ。十人、いや、百人でもいい。」
さすがの王子も、言葉が出なかった。
「人の内の内にある、もっとも純粋なもの。、、、それは、欲望だ。それを上手に表現するのが、理性。自分の欲望がなんなのかと、向き合うことだ。、、、じゃあな。」
最後についた属性は、同性愛者か。、、、もう、規格外すぎて、評価がどうのという次元ではない。すごい人。私は、ただ純粋に、そう思った。
王子は、エレイザの姿が消えていくのを見届け、完全にいなくなったのを確かめてから――静かに、すすり泣いた。
クリスに、そっと手をつながれる。目で、促された。これ以上は、見てはいけない、と。
私たちは、宿へ戻ることにした。
一言も、しゃべらなかった。そして宿に着いて、私たちは、声を揃えて、こう言い合った。
「「今日のことは、見なかったことにしよう。」」
* * *
翌日。王子から、連絡があった。
エレイザのことは、あきらめたこと。国家間の話し合いも十分にできたので、急で申し訳ないが、本日、発ちたいとのこと。
私たちは、にべもなく、それを了承した。
旅立ちのとき、見送りには、なんとエレイザ様まで来てくれた。、、、もう、この人には「様」をつけないと申し訳ない。規格外すぎる。無理、無理、無理。
「もっとゆっくりされてもよかったのに。残念です。、、、クララさんと、クリスさん、でしたっけ。今度いらしたときは、ぜひ、ゆっくりお話ししませんか。」
ひぃぃ。内心で悲鳴を上げながらも、昨日こっそり覗いていたことは、もちろん内緒だ。
「は、はい。是非、大賢者のお力や知見を、拝見させていただきたく、、、機会があれば、よろしくお願いいたします。」
ああ。ガチの敬語が出てしまった。
「ふふふ。そんなに硬くならないで。私は、いたって普通の一般人なんですから。」
はいはい、わかりました。わかりました。私とクリスは、狙われています。確実に、狙われておりますね。これは。
それでも、にこっと笑顔で応じ、機会があれば、と返しておいた。
そういえば――魔法都市から大樹の国へ向かう道中、やけに水にぬれる機会が多かったが。、、、あれは、女難の相が出ていたのかもしれない。
、、、王子の、ね。
こうして私たちは、大陸最後の大国へと、向かうのだった。
お読みいただき、ありがとうございました。onecaratです。
今回はこの物語の根幹になる話です。
何故、コアーシが危険だと判断したのか、それはエルティモ自身の軸がない、周りの情報から判断することしかできない、その周りの情報がおかしいものばかりだったら、、、
残念ながらどんな人も周りの環境で良くも悪くも変わります。
もし、自分自身がよくない感じに変わったと感じましたら、環境を変えてみることをお勧めします。
次回もお読みいただけると嬉しいです。
小説に使用しているエディタ:https://onecarat.dev/




