第17話「胸も大きく体型も整っている美人に、性格のいい奴はきっといない!」
お読みいただきありがとうございます。猫型ロボットのユーです。
ついにエルティモが全部買い上げた転写集の人物、エレイザ様が登場しました。
そしてあのエルティモがプロポーズしちゃったね。まぁ、あのエレイザ様なら仕方ないか。
でも、どうやら一緒に旅をしてきた二人は、納得いってないみたいなんだ。
今回はちょっと趣向を変えて、吟遊詩人クララさんの目を通して、あの一日を振り返ってみるよ。
クララが普段どういった思いで一緒に旅をしているのか、垣間見える第17話。
人が恋に落ちる瞬間を、僕は初めて見た~♪
あの男が、人を好きになる日が来るとは思わなかったし、信じられない。
でも、私、吟遊詩人のクララは、そのときたしかにそう確信した。
ことの始まりは、大樹の国で催された演奏会だった。
仮面をつけた歌姫――大賢者エレイザ。彼女が舞台を降りた瞬間、隣に立つエルティモの顔が、明らかに変わっていたのだ。
普段は何を考えているのか読みづらい、あの澄ました横顔が。
(ああ、これは恋に落ちたな。)
職業柄、多くの男性に言い寄られてきた私には、すぐにわかった。その目は本当のやつだ。まぁいい。どうせ会う機会もない相手だ。これで少しでも女性に興味を持ってくれれば、旅の仲間としては万々歳というものだ。
それにしても、あの仮面の女、見せ方がうまい。
たいまつの使い方、間の取り方、客の心をひと息で攫っていく緩急。同じ「人を魅せる」仕事をする身として、悔しいが、見習うべきところが多すぎる。吟遊詩人としての矜持が、ちりちりと焦げる。
――そう、このときの私は、まだ呑気にそんなことを考えていたのだ。
事態が動いたのは、その直後だった。
エルティモが、ゆっくりと、しかし確実に、エレイザのほうへ歩み寄っていく。
え。王子、まさか。
「恥ずかしながら、、、一目ぼれだ。私と、結婚してほしい。私と一緒になって、、、一緒に、私の国を盛り立ててくれないか。」
いったぁぁぁ。
本気か。いや、本気なんだろうけど。ええ、本気か!?
会って数刻の相手に、一国の王子が、衆人環視のなかで求婚。もともと周りが見えない傾向があったが、あの慎重で合理的な男が。私は思わず天を仰いだ。
そばに控えていた国王オルディンは、これがどうにも面白そうに目を細めた。
「よいではないか。国を挙げて応援するぞ。まぁ、本人の気持ち次第ではあるがな。」
その晩は夕食会が開かれ、エルティモとエレイザは、二人で随分と打ち解けて言葉を交わしていた。
私はその様子を、酒の入った杯の縁ごしに、ただ眺めていた。
* * *
夕食会のあと、私とクリスは、王女ベッキー様に呼び出された。そこには国王オルディンも同席していた。
「突然驚いたと思うけれど」と、ベッキー様は前置きしてから、淡々と打ち明けた。
これは、自分と国王たちの“仕込み”でもあったのだ、と。
「エルティモはね、大陸各国から熱望――というより、狙われている人材なの。そして大樹の国は魔法都市と強固な友好関係があって、エルティモや私たちの国を守れるだけの力があるわ。」
姉セシリーと自分で前々から練ってきたこと。両国の王はエルティモを守ることで同意しており、魔法都市の国王セドリックに至っては、彼の国ごと守ると確約までしているとのこと。
「あちらから追加で申し出があったのよ。魔法都市での働きが、よほど見事だったみたいね。」
冒険者の国とも王同士のつながりが深い。これでリベルの国は、十分に安泰になる。
「もしかして魔法都市でセシリー様が王子に問題を投げかけたのは、、、」
「そうよ、セドリックに価値を証明させたかったの。――これは、国家戦略なの。」
少し思い出すとセシリー様は確かにこう言っていた。
『どっちが彼女なのかしら? 美人系のクララさん? それとも可愛い系のクリスさん? それとも両方なのかしら?』
あれは姉弟のほがらかな会話ではなかったのだ。ただの確認だ。あの笑顔の裏に、ここまで考え抜かれた計算が隠されていた。
背筋がぞわぞわする。ベッキー様の言葉に、私とクリスは、ただ黙って聞き入るしかなかった。
国王オルディンが、ぽつりと付け加えた。
「それにな。あの子が、少々かわいそうに思えてのう。重荷を背負わされ、人材競争に巻き込まれ……安らかに生きる道も、残してやりたい。」
ふと、その目が遠くを見る。
「それに、これは個人的な思いだがな。大陸一の二人の子を、見てみたいという気持ちも少しある。」
ベッキー様が、小さく息をついた。
「ただね、問題がひとつあって、エレイザは、無理を頼んで動いてもらっている立場なの。あくまで――彼女自身が、あの子を認めたら、という話なのよ。」
国王オルディンが補足する。
「エレイザは魔法都市との親善大使も務めておってな、転写集に協力しているのもその活動の一環だ。貴重な人材すぎて、わしもお願いする立場だ。。。」
* * *
私はクリスを誘って、酒場に流れ込んだ。
人から離れた、声の漏れない奥の席を選ぶ。話の中身が中身だ。
二人して、すっかりげんなりしていた。目は死んでいる。
「クリス、どう思う。」
「話が大きすぎて、もう、なんだか。。。」
「だな。」
クリスは杯を両手で抱えて、ぽつぽつと続けた。
「一緒に旅をして、忘れそうになっていましたけど。、、、彼は一国の王子なんですよね。なのに、誰に対しても分け隔てなく優しくて、賢くて、頼りになって。無茶も解決して、感謝までされて。、、、私には普通の、素敵な青年なんですよ。」
「だよなぁ。」
「魔法都市では、看病までしてくれて。、、、クララさんは逃げましたけど、あのおかゆ、普通においしかったですよ。ゲテモノ食材の。」
「ぐ。、、、今となっては、食べておけばよかったと、人生を後悔し始めているところだ。」
「そんなにですか。」
「まぁ……わかるだろう?」
クリスは、ちらりと上目遣いでこちらを見た。
「クララさんは、どうなんです。」
私か。
正直に言おう。能力の高い人材が大勢いるなかで、わざわざ私を仲間に選んでくれた。多少の下心くらいあるのではと、気にはなっていたのだ。
それで、試しにこちらから、いろいろ、アプローチもしてみたのだが。
「私はあの王子の母君と同じ、吟遊詩人だ。最近はもしかしたらという期待もちょっとだけあった。でも……まったく、女として見られていなかった。」
「えっ。」
「私はな、私はな、ひ、紐のような水着まで着てアピールしたんだぞ。それをなんだ。お、防御力が高いだとか。、、、いやいや、防御力ってなんだよ。私の体に興味を持てよ。どれだけ勇気を振り絞ったと思っているんだ。」
「あれはすごかったですね。」
酒も回り、いよいよ本音合戦である。
「私だって」と、クリスが珍しく身を乗り出した。「あの一軒家、雰囲気はすごく良かったんですよ。正直、あのまま男女の仲になるのかと思ってました。」
「ほう。言うじゃないか。まぁ、いい雰囲気だったよな。こっちも気を使ったんだぞ。逃げたんじゃない。気を、使ったんだ。」
クリスは、ふっと遠い目をした。
「でも、あれですよね。、、、エレイザさんって、美人ですよね。胸も大きくて、なのにスマートで。男の理想を、まるごと体現してて。大賢者で、話を聞けば、王子と同い年で。、、、お似合いなのかも。」
そして、ぼそりと。
「私、これでもEカップあるんですけど。、、、エレイザさんは、もっと、大きそうです。」
「……それを言ったら私は。、、、いや、細身なのも、悪くはないはずだ。だいたいエレイザ、私くらい細く見えるんだよな。。。胸以外は。」
「胸以外は、ですよね。。。で、美人と。。。」
クリスと、目が合った。
ああ。同じことを考えているな。そうだな。
「「体型もよく、美人で、胸の大きい女に、性格のいい奴はいない。」」
声が、ぴたりと重なった。
私たちは固く意気投合し、明日、エレイザを徹底的に調べ上げることに決めたのだった。
* * *
うう。昨日は、飲みすぎたな。。。頭が、少し痛い。水、水と。
部屋の隅に置かれた水差しからコップに水を注ぎ、今日の動きを頭の中で組み立てる。
クリスは、まだ寝ている。服がはだけて、なかなかすごい有様だ。これは王子には見せられないな、と毛布をかけ直してやった。
まず、下手をすれば国際問題だ。私一人で、ベッキー様に素行調査の許可を取りに行こう。
王子のことで少し相談がある、と門番に伝えると、ベッキー様はあっさり面会に応じてくれた。
これまでの旅の顛末を話すと、ベッキー様はずいぶん驚いていた。
「ええ、そんなに危ないことをしてたの。まぁ、エルティモなら大丈夫でしょうけど。、、、でも、エレイザに会わせるのは、ちょっと早かったみたいね。全然、私に構ってくれないのよ。少し話しただけで、エレイザの趣味だの好みだの、そっちの話ばかり。」
なるほど。王子は城に泊まり、私たちは宿で一夜を明かした。城の中では、そんな調子だったのか。
「それで、相談って何かしら。」
「エレイザの素行調査をさせてもらえませんか。それを、認めてほしいのです。得た情報は、すべて共有します。私たちは直近の王子の様子も知っている。その観点から、何か見えるかもしれません。」
ベッキー様は、しばらくこちらをじっと見た。
「なるほど。あなた、納得がいっていないのね。」
見透かされている。でも、、、
「そうです。納得がいかない。いくわけがありません。唐突に旅が終わりそうで、得体の知れない相手に、王子を渡したくない。」
「好きなの?」
目でそうだと伝える。でも、言葉に出す立場にない。、、、そうだ。だから、せめて納得がしたいんだ。
ベッキー様は、少し思案したあと、ふっと表情を緩めた。
「本当なら、止めるところだけど。、、、そこまで言うなら、いいわ。認めてあげる。」
そして、こう続けた。
「エルティモが大陸一の男なら、彼女は大陸一の女よ。少しでも彼女を知れば、きっと、あきらめがつくわ。、、、これは、ここまでエルティモを導いてくれた、ささやかなお礼よ。」
そう言って、ウィンクをして見せた。
私は、今日一日のエレイザの予定を、すべて教えてもらった。
さあ、素行調査だ。徹底的に、調べ上げてやる。
「胸も大きく体型も整っている美人に、性格のいい奴はきっといない!」
お読みいただき、ありがとうございました。onecaratです。
エルティモの成長物語なので、どうしても切り離せない概念があります。異性関係です。
私も例にもれず、青い経験をたくさんしています。そのたびに大きな成長があったと実感しているので、物語にも入れる必要があると思い、つづってみています。
ただ、エルティモを主役に据えたままだと、脳みそがお花畑になってしまい、駄目だと。
なので、今回は主役を変えてクララ視点で、思ったより面白い話になったと感じました。
大きなストーリーは作り上げているので、細かいところに伏線を多く入れていて、それを回収できるとほっとします。
次回もお読みいただけると嬉しいです。
小説に使用しているエディタ:https://onecarat.dev/




