第16話「大樹の国の大賢者登場」
お読みいただきありがとうございます。猫型ロボットのユーです。
僕もいつか乗って飛んでみたいな。クジラの上を。
それにしてもクララは攻めたよね。「あぶない水着」なんて。
でも、あれ、実は三千万金貨もする貴重な装備で、購入ではなくレンタルだったんだ。
それでも十万金貨は支払ってて、感想が「すごい防御力だ」、だもんね。クララ、少しかわいそう。
高いのは朴念仁過ぎるエルティモの防御力だよ。。。
大変な旅の中でゆっくりする時間が出来たのは良かったね。
冷静なエルティモが暴走し始める第16話。
どうなるどうなる~♪
馬車に揺られながら、私は窓の外を流れていく景色を眺めていた。
大樹の国へ向かう道は、これまでのどの道とも違う。木々が高く、深く、そして静かだ。
「ねえ王子、ベッキー様ってどんな方なの?」
正面に座るクララが、退屈しのぎとばかりに尋ねてきた。
「ベッキー姉さんか。、、、見た目はとても清楚な人だよ。物静かで、線が細くて。」
「あら、優しいお姉様なのね。」
そう言いかけたクリスに、私は少しだけ遠い目をした。
「いや、、、それが、子供の頃はよく意地悪をされたんだ。私の本を隠したり、虫を背中に入れてきたり。」
「ええぇ。」
クリスがのんびりと目を丸くする。
ところがクララは、にやりと口角を上げた。
「ふぅん。清楚な見た目で、弟にだけ意地悪、ねぇ。、、、それ、好きな子をいじめたくなる心理ってやつかな?」
「、、、まさか。」
私は思わず否定した。が、言葉に詰まる。
まさか、とは言ったものの、、、あの姉もセシリー同様に自分たちの国のために大国へ嫁いだ人だ。表に出さないだけで、そういう一面もあるのかもしれない。
当時のことを思い返しても人の心ばかりは、いくら情報を集めても答えが出ない。
* * *
やがて馬車は、大樹の国に着いた。
門の前には、一人の女性が立っていた。
「、、、ベッキー姉さん。」
姉だ。記憶よりも、ずっと柔らかい表情をしている。
私が馬車を降りるなり、姉はこちらへ駆け出してきた。
「エルティモッ!」
勢いよく飛び込んでくる。受け止めた衝撃で、私はしりもちをつきそうになった。が、姉の前で無様な姿は見せられない。根性で、足を踏ん張る。
「ひっさしぶり! 相変わらず細いわね、ちゃんとご飯食べてるの? ここまで来るの大変じゃなかった? それで、、、誰よ、この女たち。」
矢継ぎ早だ。最後だけ、声が低い。
久しく会わないうちに、姉はずいぶんと、、、なんというか、感情を隠さなくなっていた。
「お久しぶりです、ベッキー姉さん。お元気でしたか。」
「もちろん元気よ。、、、と言いたいところだけど、刺激がないのがちょっとねぇ。」
姉が肩をすくめる。
大樹の国の住人は、とても無欲だという。争いを好まず、平和を愛し、何より芸術を愛する。
「ねえエルティモ、いっそあなたもこっちに住んじゃいなさいよ。もう国の問題は片付いたんでしょ?」
「私はリベルで父カイルの跡を継ぐために、見聞を広めている最中ですよ。」
軽口だとはわかっている。私は苦笑して返した。
謁見までは、まだ時間があるという。それぞれ自由に過ごすことになった。
それにしても、この国は本当に安全で、何の問題もない。、、、やることがない、とも言う。
そこで私は、姉に教わったおすすめの場所を巡ることにした。
一つは、美術館。
絵画も彫刻も、自然をそのまま写し取ったような、静かで穏やかな作品ばかりだった。
人と自然が争わず、調和して生きる。この国の在り方が、そのまま形になっているようだった。
そしてもう一つ、、、私が密かに楽しみにしていたのが、ジャズの演奏会だ。
この国で一番の歌い手と名高い、仮面の女性が出るらしい。
二千人は入るという演奏会場は、すでに満員だった。
立ち見すら出ている。人気のほどがうかがえる。
姉の力で、最前列の席を三枚、確保してもらっていた。私とクララとクリスで並んで腰を下ろす。
ちょうど、幕が上がる時刻だった。
会場の灯りが、すっと落ちる。
闇に包まれた瞬間、「わぁぁぁ」という歓声が湧き起こり、、、それが、次第に静寂へと溶けていった。
息を殺すような沈黙。
そこへ、、、一筋の歌声が、落ちてきた。
透き通った声だった。耳から入ってくるその声は、直接心をわし掴みにしてくるような感覚だ。
楽器も伴奏も、まだ何もない。ただ声だけが、暗い会場の空気をゆっくりと入れ替えていく。冷えた水が、乾いた器に満ちていくように。
私は、息をするのを忘れていた。
歌が一区切りつく直前、彼女の周囲のたいまつに、ぽっ、ぽっと火が灯っていく。
浮かび上がったのは、すらりとした女性の姿だった。美しい仮面で、顔を半分隠している。
「今日は来てくれてありがとう。、、、最高の一夜を、プレゼントするわ。」
仮面の女性が、会場へ向けて小さく投げキスをする。「わぁぁぁ」、再び歓声が爆ぜた。
そこから先は、嵐のようだった。
鍵盤を押すと音が鳴る不思議な木箱。膝に抱えて指で弦を弾く楽器。張られた皮を叩いて鳴らす太鼓のようなもの。
それらが、小気味のいいリズムを次々と編んでいく。奏者たちも、また見惚れるほどの女性ばかりだった。
、、、まずい。
心が、揺さぶられている。
気づけば私は、膝の上で指をとんとんと鳴らしていた。リズムに、勝手に体が応えてしまう。
そして、完成しかけていたその音の上に、、、仮面の女性の声が、するりと乗った。
完成されていたはずの音が、さらに完成されていく。
そんな矛盾した光景を、私は初めて目にした。
ふと、戦いのときの感覚に似ていると思った。視界が狭まり、音が消え、ただ一点だけが鮮明になる、あの感覚。、、、いや、違う。
あれは音が消える。これは逆だ。音だけになって、私の方が、消えていく。
最高の形のまま、演奏はフィナーレへと駆け抜けた。
割れんばかりの拍手。アンコール。
そして歌い終えた彼女が、ゆっくりと舞台を降りてくる。
最前列の私たちの前で、足を止めた。
左右に座るクララとクリスへ、一輪ずつ花を手渡す。
そして、、、私には。
人差し指で、自分の心臓を、とんとん、と二度叩いてみせた。
仮面の裏で、彼女が、ウィンクをした気がした。
私は彼女が好きになっていた。。。
灯りが戻っても、私たちはしばらく動けなかった。
「、、、あの人、私より歌が上手い。悔しい。」
クララが、もらった花を見つめてつぶやく。
「でも、、、最高に楽しかったわ。完敗ね。」
吟遊詩人の彼女が認めるのだから、本物だ。
「私、生まれて初めて、人からお花をいただきました。、、、相手は女性なのに、どうしましょう、ドキドキが止まりません。」
クリスは、花を胸に抱えてぽやぽやしている。
そして私はというと、、、
「、、、どこかで、見たことがある。、、、どこだ。」
ひとりごちながら、こめかみを叩いていた。
考えても、考えても、答えが出ない。だが、出ないのに、胸の奥だけが、やけに騒がしかった。
演奏会の余韻が冷めぬまま、私たちは城へ向かい、大樹の国の王へ挨拶に上がった。
* * *
王の名は、オルディンといった。
「よく来てくれたね、リベルの王子。長旅、疲れただろう。」
とても穏やかな方だった。王でありながら、少しも肩ひじを張らない。まるで孫にでも接するように、私を迎えてくれた。
形式ばった謁見というより、祖父と語らっているような、不思議な時間だった。
ひとしきり話したあと、王はふと思い出したように言った。
「そうだ。ぜひ、紹介したい者がいるのだよ。」
王が合図をすると、奥の扉が、ゆっくりと開いた。
そこから入ってきた人物を見て、、、私は、息を呑んだ。
先ほどの、演奏会の歌い手だった。
彼女は私の前まで歩み寄ると、おもむろに、仮面へ手をかけた。
仮面が、外される。
現れたのは、息を呑むほど整った顔立ちの女性だった。「美しい」や「綺麗」では形容できないほどだ。
「、、、大樹の国の、あらゆる魔法の使い手。大賢者エレイザよ。、、、初めまして、王子!」
あの転写集の。。。頭の中で、何かが弾けた。
ああ、そうか。、、、わからなくて、いいんだ。
私は、生まれてこのかた、すべてを定義して、理解して、その上で動いてきた。
理解できないものは、こめかみを叩いて、答えが出るまで待った。
だが今、胸の奥にあるこれは、、、どれだけ叩いても、答えが出ないだろう。
そして、答えが出ないのに、私の足は、もう動き始めていた。
、、、生まれて初めてだ。こんなにも、覚悟を決めたのは。
空気が読めていないのは、わかっている。だが、そんなことは関係ない。私は、後悔しないように生きてきた。
エレイザの前まで、ゆっくりと歩を進める。
そして、片膝をつき、手を差し伸べ、こう告げた。
「エレイザさん、初めまして。リベル国王カイルの息子、エルティモです。、、、突然で、申し訳ない。人生でここまでの決意をしたのは、初めてだ。」
エレイザが、「、、、?」という顔で、こちらを見下ろしている。
それでも、止まらない。止まれない。
「恥ずかしながら、、、一目ぼれだ。私と、結婚してほしい。私と一緒になって、、、一緒に、私の国を盛り立ててくれないか。」
謁見の間の空気が、音もなく凍りついたのが、わかった。
それを見たオルディンがにやりと微笑んだ。
お読みいただき、ありがとうございました。onecaratです。
今回、一度全話を振り返り、表記ミスや場面の転換などをすべて修正しました。読み直すと誤記があるわあるわで、生成AIのチェックでもカバーしきれない量があったみたいです。
あらためて気づいたのは、どうやら私は1話1話を、プログラムでいう一つのソフト(お話)を構成する要素のように見ているらしい、ということです。
それならと、Git管理みたくバージョン履歴をあとがきに残してみることにしました。
徐々に良くして作品全体を作っていくのが、WEB小説の良いところなんだと感じました。
次回もお読みいただけると嬉しいです。
小説に使用しているエディタ:https://onecarat.dev/




