第14話「技術証明という名のショータイム」
お読みいただきありがとうございます。猫型ロボットのユーです。
前回、寝ることもあきらめて検証に打ち込んだエルティモ。体を壊さないか心配になるよね。
その裏では、仲間たちの献身的な支えがあって、なんとか頑張れたみたい。
さて、魔法都市編の終わりのお話である第14話。僕のお気に入りのお話さ。
ショーの開始だよ~♪
潮の匂いが、いつもより濃く感じた。
約束の砂浜に立つと、寄せる波が穏やかに足元を撫でていく。
技術検証は十分に重ねた。証明するための準備も、できる限りのことはやった。
あとは――やるだけだ。
この一夜にかかっているのは、ただの実験の成否ではない。精霊王の機嫌でもない。この都市を支える、魔法力の八割。、、、人々の暮らしそのものが、今夜の私の足元に、ぶら下がっている。
「、、、これは、ショーだ。」
誰に聞かせるでもなく、私はそう呟いた。見せ方ひとつで、伝わるものは何倍にもなる。
理屈で納得させるだけなら、紙の上でも事足りる。だが、心を動かすには、見せ方がいる。今日はそれを、信じることにする。
すぐ後ろで、クリスが小さく深呼吸をしたのがわかった。彼女には、この証明の要となる役目を担ってもらう。
「、、、大丈夫だ。いつも通り、やってくれればいい。」
「はい。、、、王子のとなりですから、こわくないです。」
その言葉に、私はわずかに笑った。、、、頼もしい仲間だ。
海面がゆっくりとふくらみ、その中心から、小さな王冠を戴いたイルカが姿を現した。精霊王だ。
「さて、約束の時間が来たぞ。、、、できたのか。」
低いが、よく通る声が海から響く。
「準備は出来ました。いまからそれを、証明してご覧に入れます。」
私が右手を高く掲げると、それを合図に、隣へ控えていたクリスがやわらかく詠唱を紡いだ。
宙に、淡い光の球がぽうっと浮かび上がる。持続回復魔法だ。
「ほう、、、」
精霊王が、思わずといった様子で感嘆の声を漏らした。
「今回、私たちは魔法力を一度“器”に蓄え、そこから少しずつ取り出して使う仕組みを作りました。海から直接、無理に引き出すことは、もうありません。」
川にいきなり水車を入れるのではなく、一度池に溜めてから流す。あのとき口にしたたとえを、今日は現実にしてみせる。
「光を。」
私が叫ぶと、あらかじめ仕込んでおいた照明の術式がいっせいに灯った。
夜の砂浜が、まるで昼間のような明るさに包まれる。これから始まる演武を、よく見てもらうための仕掛けだ。
「魔法師、準備はじめ。」
号令とともに、十名の魔法工学技師が砂浜へ駆け出し、円を描くように特殊な機器を据えていく。国でも指折りの腕利きたちだ。三日三晩、私とともに走り抜けてくれた仲間でもある。
精霊王は、これから何が始まるのかと、瞳をきらきらと輝かせていた。
(ここまでは順調だ。、、、でも、油断はできない。本番は、これからだ。)
「技術証明、開始!」
技師たちがいっせいに機器へ手を添え、術式を唱える。位置を固定し、高さまで計算し尽くした、あの装置だ。
ごくり、と精霊王が喉を鳴らす音が、波音の合間に聞こえた気がした。
やがて、円の中心に、青黒い球体がゆらりと姿を現す。
はじめは小さく、けれど少しずつ、確かに大きくなっていく。技師たちの額に光るものが見えた。維持するだけでも、相当の集中がいるのだ。
「これが、海の代わりに魔法力を蓄える“器”です。これからの演武は、すべてこの球体から取り出した力だけで行います。海に、いきなり負担をかけることは、ありません。」
ここからが、本当のショーの始まりだ。
私は、舞台に見立てた高台へと上がった。
「精霊王。この靴を、ご覧ください。」
私は、足元のブーツを掲げてみせた。
「今回の事故の原因となった――空飛ぶブーツです。」
ざわ、と空気が揺れた気がした。事故の元凶を、こうも堂々と持ち出したのだから、無理もない。
だが、これでいい。逃げも隠れもしない。同じ道具で、安全を証明する。それでこそ、意味がある。
「これで私が、空を舞ってみせます。、、、行きます。」
ブーツへ、魔法力を注ぎ込んでいく。
「接続、問題ありません。」
技師の声を合図に、私は高台から身を躍らせた。
落ちる――かと思いきや、私は宙を蹴った。
まるで、見えない階段を駆け上がるように。一段、また一段と、空を上っていく。
「おおおっ、、、!」
砂浜から、歓声が上がった。
頂点まで上りきると、今度は身を翻し、海面すれすれを滑るように飛んだ。そのまま、光の届かない暗がりへと、すっと身を移す。
闇の中に、私の姿が溶けて消える。
ざわめきが、ふいに止んだ。、、、いない、どこへ行った、と探す気配。
そこで、私は懐から、淡い光を放つ棒を取り出した。
それを、大きく、ひと振り。
暗闇に、一筋の光の軌跡が走る。まるで、流れ星のように。
「ああ、、、」
精霊王の口から、ため息のような声が漏れた。
軌跡は弧を描き、円を描き、夜の砂浜に光の模様を残しては消えていく。
そして――フィナーレだ。
「精霊王! ここからが、本当の証明です。魔法師たちの作った、あの球体をご覧ください。」
私は左のこめかみを、とん、とん、と軽く叩いた。意識を、研ぎ澄ます。
円の中心の球体は、もう、消える寸前まで小さくなっていた。
「あの球体がなくなったとき、何の問題もなく、私が、ただ飛べなくなる。、、、それが見られたなら、今回の実験は、成功です。」
蓄えた分しか使わない。だから、尽きれば、ただ静かに止まる。暴走など、起こりようがない。それを、この身で証明する。
砂浜にいる全員で、カウントダウンが始まった。
「五!」「四!」「三!」「二!」「一――」
タイミングを合わせるように、皆の「一」が長く伸びる。
そして、球体が、ふっと消えた。
「ゼロ。」
同時に、私の体を支えていた力も、すっと消え失せた。
私は、まっすぐ、海へと落ちていく。
これで、証明は完了だ。
すぐに、救助の小舟が向かってくる気配がした。、、、だが、その心配は、無用だった。
水面に触れるより早く、私の体は、何かやわらかいものに、ふわりとすくい上げられていたのだ。
精霊王だった。
その大きな背に乗せられながら、私は、声をかけられる。
「満点じゃ。」
精霊王の声は、もう、怒ってなどいなかった。
「いや、、、満点では、足りぬな。おぬし、技術を証明するというより、わしの心を動かしに来たじゃろう。、、、まいった。わしの、完敗だ。はっきり言おう。感動した。」
「、、、お許し、いただけますか。」
「言うたじゃろう。わしの完敗だと。許す。許すとも。、、、そして、素敵なショーを、ありがとう。長い人生だと思うていたが――今日より良い景色を、この先もう二度と見られぬ気がするわい。」
砂浜へと戻された私は、仲間たちと技師たちに向かって、高く手を掲げた。
「精霊王に、許しを得たぞ! みんな、、、私たちは、やり遂げた!」
わっ、と歓声が爆発する。
夜を徹して共に走った技師たちが、肩を組み、「えいえい、おー!」と拳を突き上げた。誰かが泣いていた。私も、少しだけ、目の奥が熱くなる。
その傍らで、国王セドリックが、静かに精霊王のもとへ歩み寄っていた。
「此度の件――本当に、申し訳なかった。」
一国の王が、深く頭を下げる。
「、、、もうよい。もうよいのだ。」
二人の間に流れる空気は、もう、あの日のように張り詰めてはいなかった。
そして。
大仕事をやり切った面々は、そのあと、、、ばたばたと、倒れていった。
クリスの魔法力がついに尽き、皆を起こし続けていた目覚めの魔法が、切れたのだ。
三日分の疲れと睡魔には、さすがの彼女も、勝てなかったらしい。
* * *
――後日談。
目を覚ますと、私は、借りていた家のベッドの上にいた。
「起きたんですね。、、、二日も、眠っていたんですよ。」
枕元にいたのは、クリスだった。彼女たちはこまめに休憩を取っていたぶん、私より早く目を覚ましたのだろう。
ぐう、と私の腹が鳴る。、、、さすがに、空腹も限界だったらしい。実験の間、まともな食事を取れていなかったのだ。
「お腹、空いていますよね。ご飯、準備しているんですよ。」
「おお、ありがとう。、、、クララは?」
「あの人なら、『情報収集に行ってきます』と言って、朝から出かけてしまいました。」
、、、なるほど。あの抜け目のない吟遊詩人のことだ。台所の食材を見た瞬間、また、身の危険を察したに違いない。
そう返したものの、、、運ばれてきた料理が、どうにも、おかしい。
マンドラゴラの蒸し焼き。人面草のサラダ(毒はないらしい)。見るからに気味の悪い、鳥の丸焼き。
、、、どこかで、見覚えのある光景だ。
「ク、クリスさん、、、?」
彼女は、にっこりと微笑んで、匙を差し出してくる。、、、どうやら、逃げ場は、ないらしい。
(、、、これは、あのときの、お返しか。)
看病のとき、私が彼女に振る舞った、あの料理。その仕返しを、私は今、甘んじて受けねばなるまい。
「、、、うぇぇ。」
――なお、翌日には、すっかり体調が回復していたことを、念のため、付け加えておく。
お読みいただき、ありがとうございました。onecaratです。
無事、魔法都市のお話を書き終えることが出来ました。
我ながら、恥ずかしくない出来になったのではないかと思います。
ここまでで全体の10%、第一部だけで見れば、ちょうど半分を消化できたかなという感じです。
実は、あらかじめ箱書きで起こしてあるのは第一部まで。
なので、そこまでは「二日に一回投稿」を、なんとかやり切りたいと思っています。
次回からは新しい国へ。作品の雰囲気も、そしてエルティモ自身も、ガラッと変わっていきます。
次回もお読みいただけると嬉しいです。
小説に使用しているエディタ:https://onecarat.dev/




