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百の通知が鳴る夜に  作者: 葛城ログ
第5章 水辺で繋がる怪
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第47話 底の音

Tは、市民プールの夜間管理を任されているアルバイト職員だ。

市の運営する屋内プールで、利用時間が終わった後の清掃や閉館作業をしている。


事件が起きたのは、9月の終わり、シーズン最後の営業週だった。


その日の利用者数は少なく、夜の閉館時も特に異常はなかった。

Tは一人で清掃作業に入っていた。


更衣室、シャワー室、廊下の点検を終えて、

最後に25mプールの照明を落とそうとしたとき、水面から「音」が聞こえた。


コン……コン……

と、金属の棒でプールの床を軽く叩くような音。

一定の間隔で、静かに、深く、鳴っていた。


誰もいないはずなのに、音だけが水底から響いてくる。

Tは耳を澄ましながら、照明を落とすのをやめ、もう一度プールサイドへ近づいた。


音は止まった。


しかし、よく見ると――水底に、なにかがいた。


プールの底、深さ1.2メートル地点に、

黒い何かが這いつくばるようにしてうずくまっていた。


影とも、人ともつかないもの。

水の揺らぎでぼやけていたが、確かに“それ”はTの方を見ていた。


Tは怖くなって事務所に戻り、防犯カメラを確認した。


だが、録画には何も映っていない。

音も、動きも、記録には残っていなかった。


翌日、同僚にその話をした。

すると、一人の古株職員がぽつりとこう言った。


「ああ……今年はまだ誰も溺れてないからな。

たまに出るんだよ、“音”が。

呼んでるんだろうな」


Tはその意味を問おうとしたが、それ以上は誰も話そうとしなかった。


Tはそれ以来、夜のプールに近づかなくなった。


だが、退職前夜、最後の清掃の際、ふとプールを振り返ってしまった。


水底に、また“それ”がいた。

今度は明らかに――立ち上がっていた。


その年の冬、屋内プールは改修工事のため閉鎖された。

しかし工事の記録には、コンクリ床の裏側に“人の手形のような窪み”がいくつも見つかったとだけ記されていた。


「中から打ち続けられたような痕」だったという。

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