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百の通知が鳴る夜に  作者: 葛城ログ
第5章 水辺で繋がる怪
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第46話 名のない島

その島があるのは、瀬戸内海沿岸の小さな町。

干潮のときだけ現れる砂の道を歩いて渡れる、幅十数メートルほどの小さな砂州。

島というより、ただの砂地の丘のような場所だ。


地元では「舟つなぎ」と呼ばれていたが、地図には名前がない。

潮が満ちれば完全に水没してしまうため、正式な地形扱いもされていないらしい。


この話を語ったのは、現地を友人Sと訪れていた旅人のYという人物だ。


Yは位置情報を記録する旅系のSNSアプリを使っていた。

地図上に自分の足取りを記録し、訪れた場所の写真を残すというもので、日々の記録が趣味のようなものだった。


ある日、夕方に近い時間、

Yはひとりでその島――正確には干潮で現れた砂の道を渡り、小さな丘に足を踏み入れた。


その瞬間、スマホが「圏外」になった。


だが、町からさほど離れていない距離で、圏外になるのはおかしい。


さらに奇妙だったのは、歩数記録が止まったことだった。

アプリ上で、Yは“その場から一歩も動いていない”ことになっていた。


実際には島の中をぐるりと一周していたのに、地図には何のログも残らなかった。


Yは写真を数枚撮って、引き返すことにした。

日が傾き、潮が戻る前に島を離れる必要があったからだ。


しかし戻った後、スマホを確認した彼は戦慄した。


撮ったはずの写真が、すべて真っ白だった。


シャッター音もしたし、データも保存されているのに、

開くとどれも**“露出過多”のように白く塗りつぶされていた**。


さらに、自分のアカウントの地図記録から、その日1日分の移動履歴が消えていた。


心配になったYは、同行していたSにそのことを話した。

するとSが不思議そうに言った。


「え?お前、どこ行ってたんだよ。

 ずっと港のベンチで寝てたじゃん」


Yは唖然とした。

確かに島に渡ったはずだ。歩いた感触もある。写真も撮った。


だが、**Sのスマホにも、Yの位置共有が“更新されていなかった”**記録が残っていた。


気味が悪くなったYは、その夜ホテルで“舟つなぎ”について調べた。


しかし、検索しても地元の観光案内にも地形図にも、その島の存在はどこにも記されていなかった。


ようやく、ひとつだけ古い郷土誌に載っていた手書きの挿絵に、そのような形の砂州が描かれていた。

注釈にはこう記されていた。


「舟つなぎは舟の魂を返す場なり。

足を置きし者、舟に非ずば、流れに名を落とす。

名なき島に名持つ者は、還るを許されず」


その日以降、YはSNSへの投稿をやめた。

地図記録も止めた。

そして、自分の旅記録のアカウント名をふと見返して――驚いた。


名前の欄が、空白になっていた。

Yは今も旅をしているらしい。

Yは自分を忘れないで欲しいとこの話を語っていた。

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