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百の通知が鳴る夜に  作者: 葛城ログ
第5章 水辺で繋がる怪
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第45話 ダム湖に沈んだ神社

Sは水中構造物の点検を請け負う会社に勤めている。

現場での業務が多く、ダムや貯水池の取水口の点検なども担当していた。


その年の夏、長野県の山間部にある白羽根ダムで定期点検を行うことになった。

同行したのは上司と、地元協力業者の男性数名。

現地は静まり返った空気で、観光地のはずなのに、地元の人々の口数は妙に少なかったという。


作業自体は滞りなく進んだ。

ドローンによる水面確認、護岸の損傷チェック、観測塔の計測機器確認。


問題が発生したのは、取水口の目視調査に移ったときだった。


作業用のボートで水面に出たSが、取水塔の近くで気泡に気づいた。

ポコ……ポコポコ……と、一定のリズムで水面に浮かび上がる泡。

それが出ているのは、流れのほとんどない水面の中央だった。


気になって目を凝らすと、泡の下に白い何かが沈んでいくのが見えた。

形は定かではない。ただ、泡の音に混じって、かすかに声のようなものが聞こえた。


「……さか……え…………」


Sは一瞬、誰かの声かと思ったが、ボートの上には自分しかいない。

風もない。

音の出所は、明らかに水中だった。


作業後、Sはダム管理事務所の職員にその現象を話してみた。


その職員はしばらく沈黙したあとで、こう呟いた。


「泡が出ると、何かが起こるって、地元じゃ昔から言われてる。

誰か倒れるとか、事故が起きるとか……魚が全部浮いた年もあったな」


Sが「泡の原因はなんなんですか」と聞くと、職員は口を濁した。


「知らないほうがいい。

あそこ、ダムができる前は“逆さ社”があった場所だからな」


逆さ社。


Sが後日、郷土資料館で調べた記録によれば、それは明治の終わり頃まで存在した地中に祭壇を埋めた特殊な神社だった。


『黒羽郷聞書』という郷土資料には、こう記されている。


「「逆さ社は、目を閉じたる神を地の底に祀りし社なり。

人、上に立たぬよう、地を掘りて社を築き、

石を積みて神の目を伏せしと伝う。」


白羽根ダムが完成したのは1953年。

その際、逆さ社の跡地はコンクリートごと沈められ、ダム湖の底に消えた。


Sが見た“泡”は、ちょうどその社の上に出ていた。


「これってボートでちょうどその上に俺が立ったってことか?」


数日後。

ダムの定点監視カメラが、深夜の異常記録を検知した。


映像には、水面に浮かぶ人のような黒い影が映っていた。

ふわりと水面に浮き上がり、カメラの方を振り返る。


その“顔”が、Sの顔によく似ていたという。


その日以降、Sは水の仕事を離れた。


ただ、ある日風呂に入っていたとき、ふと浴槽の水面に映った自分の顔が、少し歪んで見えたという。


数秒後、脱衣所に置いた私用スマートフォンが鳴った。


【白羽根ダム遠隔観測:深部カメラ接続履歴あり】

接続ユーザー:登録外


Sは、今もその通知の意味を理解できないでいる。


誰が接続したのか。

なぜ、自分のアカウントで、

自分が“そこ”を見ていたことになっているのか。

これから自分がどうなってしまうのか…。

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