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百の通知が鳴る夜に  作者: 葛城ログ
第5章 水辺で繋がる怪
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第41話 水上を走る女

今回の章からは水辺での怪異を書いていきます。

Mがあれを見たのは、大学の夏休みに千葉の従兄弟の家に泊まりに行ったときだった。


その夜、従兄弟に誘われて、地元の仲間たちと一緒に車で海沿いを流してたんだ。

堤防のあたりで車を停めて、ちょっと潮風でも浴びようってなってさ。


ふと沖のほうを見た瞬間、俺は固まった。


水の上を、誰かが走っていた。


白い服、長い髪。

スニーカーもボードも何も履いていない、素足の女が、波一つない水面を音もなく滑っていく。


「……今の、見たか?」


隣にいた従兄弟に聞くと、しばらく黙ってから小さくこう言った。


「見た。でも……見ないほうがいい」


Mは咄嗟(とっさ)にスマホを取り出し撮影しようとした。

その瞬間、従兄弟が今まで聞いたことのないような声で「よせっ!撮るな!」と怒鳴ると

従兄弟達は一斉に立ち上がり無言で車に戻り乗り込んだ。

帰りは先程の話を振ってもみんなあやふやに答えたり無言だったりと

そのまま家路についた。


家に戻っても、俺の頭からあの光景が離れなかった。

夜も更けて、寝る前に、こっそり聞いてみた。


「なあ……さっきのあれ、なんなんだ?」


従兄弟は少し黙ったあとで、こんなふうに言った。


「……あれ、たぶん“水上を走る女”だよ。

この辺じゃ昔から、ときどき現れるって言われてる」


地元じゃ昔から知られてる怪異だという。


満潮の夜、風も波もないときに現れる。

白い服の女が、音もなく海の上を走っていく。

誰かがそれを見て、目を合わせてしまうと――


“次はこっちに向かってくる”


「ちゃんと目を逸らせば、大丈夫。でも……ずっと見てたら、“引き込まれる”って話だよ

でも、あまりこんなに噂話もよくないっていうから、帰りみんなはぐらかしてたんだ。」


そう言った従兄弟の声は、冗談っぽさが一切なかった。


見て引き込まれた奴は3日以内に水の事故が起きることが多いらしい。

実際、2日前に近くの港で夜釣りしてた男が落水して、行方不明になったばかりだった。


背筋が冷たくなった。


あとから調べても、その女のことはネットにはほとんど出てこない。

ただ、ひとつだけ見つけた投稿があった。


『水上を走る女の動画を撮ったら、画面の中で顔だけが近づいてくる』


撮影した人間は全員、後日スマホごと失踪した――という噂つきで。


音もなく水を滑るあの女の姿は、今でも脳裏から消えてくれない。

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