第40話 AI補正された七人墓地
地域プロモーション映像の仕事で、Yは久々にフィールド撮影に出ていた。
フリーの映像クリエイターとして依頼を受けたこの企画は、
地方の過疎村を「映える」スポットとしてアピールするもので、
同行したのは、登録者数30万人のインフルエンサーMと、編集担当のS。
三人で、撮影しながら現地紹介コンテンツを仕上げるという段取りだった。
その日の午後、地元の案内人も知らなかったという小道を登っていると、
杉林の切れ目に、苔むした小さな墓地が現れた。
斜面に等間隔で墓石が7基――どれも風化が激しく、文字は読み取れない。
誰も手入れしていないような空気が、逆に“映え”た。
「うわ、これは逆にバズりそう」
Mが喜々としてスマホを構える。
Yは少し罪悪感があったがSと、記録用に何枚か撮影した。
宿に戻り、いつものように撮った写真をAI補正アプリにかける。
色味を整え、逆光を補正し、ノイズを除去。
アプリは風景や人物の認識に長けていて、細部が驚くほど鮮明になる。
ただ、一枚だけ――
補正結果に、Tは目を疑った。
あの七基の墓石にくっきりと名前が彫られていたのだ。
そこには、左から順にこう書かれていた。
「Y」「M」「S」――
自分たちの名前だった
残る4基の墓石にも名前があったが、見覚えはない。
ただ、すべてが実在しそうな名前で、いたずらで生成されたとは思えなかった。
Yはこの話を同業のKに話した。
Kは「ホラー系コンテンツにできるな」と面白がり、仲間3人と一緒に現地に行ってみることに。
数日後、Kから連絡が来た。
「おい……マジだったぞ、あの墓。
俺と仲間3人、撮影して補正したら、左から3人分の名前が順に出た。
で、お前ら3人の名前が、そのまま3つ右にずれて表示されたんだよ」
Kが送ってきたスクリーンショットを見ると、
卒塔婆の名前の並びはこうだった。
「O」「B」「K」「Y」「M」「S」「〇〇〇〇」
Yは息を呑んだ。
あと一人、補正された名前が加われば、7人が揃う。
その時、一番右の墓石にある見覚えのないの名前が、消えてしまうのでは――?
一番右に近いSにこのこと話したがS自身はその後も特に気にする様子もなく、いつも通りに編集を進めていた。
それから数日後、Kの別の仲間の1人がまた別の友人と一緒に現地を訪れた。
その友人達は撮影した画像を自宅で補正し、SNSに投稿した。
投稿の2日後、Sが事故で亡くなった。
帰宅途中に川沿いのガードレールを突き破って転落。
酒気帯びもなく、ブレーキ痕もない。
報道は「単独事故の可能性」としたが、Yは違和感を拭えなかった。
Yは再びアプリを開き、最新の補正画像を確認した。
墓石は相変わらず7基。
だが、墓石の名前――Sの名は消えていた。
代わりに、そこにはMの名が、
その左にYの名が、それぞれ1つずつ右にずれていた。
まるで順番を待っているかのように。
Yはふと、学生時代に読んだ怪談を思い出す。
「七人ミサキ」――常に7人で現れ、誰かが死ぬと次の1人が補充されるという呪い。
あの墓は、あの補正は、
まさか、本当に……。
今、Yのスマホには、7基の墓石が並ぶ写真が、じっと沈黙している。




