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百の通知が鳴る夜に  作者: 葛城ログ
第4章 村落で繋がる怪
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第37話 自撮り写真の背景

Sが小さな山村に旅行に行ったときの話だ。


観光らしい観光がある場所じゃなかったが、空気もきれいだし、何より静かだった。

温泉と料理が目当てで、のんびりするにはちょうどよかった。


1日目の午後、散歩がてら村の周囲をぶらついていたら、地元の人に「展望台がありますよ」と教えてもらった。

林道を10分ほど登った先にある、“火の見岩”と呼ばれる場所だった。


舗装された道の突き当たりに小さな岩場があり、村を見下ろす景色が広がっていた。


誰もいなかった。

せっかくだからと、スマホで自撮りを1枚撮った。

後ろに景色が入るように、やや高めの角度で。


宿に戻って写真を確認したとき、妙なものが写っているのに気づいた。


背景の右上、木々の間に――赤い鳥居が見えた。


細い石段があって、その奥に鳥居が立ち、さらに奥には小さな社の屋根がのぞいていた。


でも、あの場所にそんなものはなかったはずだ。

写真を撮ったあと、周囲を軽く一周してみたけれど、社どころか鳥居らしい構造物は見当たらなかった。


画面を拡大すると、鳥居の脇に人影のようなものがあった。

白っぽい服。長い髪。

ぼやけていて後ろ姿だったので、顔は見えなかった。


食後、宿の女将にその写真を見せてみた。


彼女は最初は普通に眺めていたが、鳥居に気づいた瞬間、眉を寄せた。


「……あの鳥居、あの位置なら、ずいぶん前に土砂で埋まったはずですけどね。

 社も一緒に流されたって聞いてます。今は何もないはずです」


「昔はあったんですか?」


「ええ、村の古い神社でした。“火の見岩”の名前の由来でもあります。

 ただ……あそこは本当は、写しちゃいけない場所だったんですよ」


「写しちゃいけない?」


女将はそれ以上は答えなかった。

ただ、お湯を注ぎ足すふりをしながら別の観光地の話をした。

無理やりこの話を断ち切る様に感じた。


夕食を済ませ温泉に入り一息ついたSは、

何気なくもう一度スマホで写真を見た。


気のせいかもしれない。

でも、鳥居の影が――前より濃くなっていたように思えた。


そして、あの人影も。

少しだけ横顔が見えるような角度になっているような気がした。


翌朝、もう一度あの展望台に行ってみた。


鳥居も社も、やはりなかった。

ただ昨日は気づかなかった岩の隙間に白い紙切れが挟まれていた。


墨がにじんで読めなかったが、かろうじて一部だけ、こう書かれていた。


「ふりかえるな」


Sはあの写真をそのまま消去した。

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