第27話 家系アプリと座敷牢
Kは、曽祖父の三十三回忌のため、久しぶりに実家に帰っていた。
山あいのその家は、築八十年以上の木造住宅で、夏でもひんやりとした土間の匂いが残っていた。
親戚一同が集まった法要のあと、夕方には居間で雑談が始まる。
話題はあちこちに飛び、親戚の誰かがふと口にした。
「うちの墓、誰まで入ってるか、いまいちわかんなくなってきてさ……」
「昔の人って、ほんとに記録残さないよな」
Kはそれを聞いて、何気なくスマホを取り出した。以前、資料整理の仕事で使っていた家系図アプリの存在を思い出し、軽い気持ちで再インストールした。
父母の名前、祖父母、その上まで──母に確認しながら、空き時間にぽつぽつと入力していく。
その作業をしていたKの背後で、ふと伯母がつぶやいた。
「座敷牢、まだ開けてないの?」
Kはその言葉に振り返った。
「……あそこ、今は物置でしょ」
「昔ね、誰か入ってたのよ。名前がなかった人」
伯母は何でもないように言ったが、その言い方が、妙に引っかかった。
夜になり、Kは一人で仏間に泊まった。
古い家特有の、板と壁のわずかな隙間から風が通る音が耳に残る。
そのとき、スマホに通知が入った。
家系図アプリからだった。
「追加された人物があります」
開いてみると、見慣れない“無名の人物”がツリーに繋がっていた。
名前は空欄、生没年も未入力。ただ、ひとつだけ情報があった。
備考:「隔離対象」
誰が入力したのかもわからないその項目に、Kは鳥肌が立った。
アプリを閉じようとしたが、動作が遅く、再起動を試みるうちに、
画面が一瞬だけ切り替わった。
──間取り図だった。Kの実家の。
1階の端に、見覚えのある部屋が浮かび上がっていた。
昔、座敷牢と呼ばれていた部屋。
その部屋にだけ、微かに白いハイライトがかかっていた。
点滅も、動きもない。ただそこが、“今”の何かと同期しているかのように。
次の瞬間、画面は真っ黒になり、元のホーム画面に戻った。
朝になって、Kは仏間の隅にある古いアルバムをめくった。
セピア色の家族写真。その一枚だけ、異常に端が焼けており、誰かの姿が切り取られたように欠けていた。
写真の裏に、かすれた文字が残っていた。
「記録なし/承認せず」
それは“家”という枠から、誰かを外そうとした痕跡なのかもしれない。
それ以来、Kのスマホではときおり、アプリも通知も開いていないのに──
**「関係不明の接続先が見つかりました」**という一文が、画面の下にぼんやりと浮かぶようになった。
どこに接続されたのかは、もうアプリにも表示されない。
だが、Kは夜になると時折、実家の廊下の構造を正確に思い出せるようになってきた。
それも、決して足を踏み入れたことのない“あの部屋”から見た構造として。




